新章66 無敵の正体
NO.82無敵の正体
ちょーっとまずいかもな。
お互い本気でやると宣言して早数分。別段、一方的な戦いになることもなく、拮抗した状態が続いている。
が、ここでひとつ問題が出てきた。
すぅ――つっかれたぁ! いや、流石に啖呵切ったあと2回も泣き言を言うなんてセリカに顔向けできなくなるから、声にも顔にも出さないよ?
出さないけど、ここまで連戦続きですごい疲れた!
思えば朝から、列車に乗り遅れそうになり、ぬいぐるみの襲撃を受け、果ては『試練』が終わってすぐにヒルデガルドと戦うことになった。
こちとら、朝から一回も休んでないんだよ。さっきまでは、避けるのに必死だったり、裏切られたと思い込んでたのがショックで全然気にならなかったけど、気が抜けたらどっと疲れが出てきやがった。
ってか、ヒルデガルドも同じ状況のはずなのに、なんで疲れてないんだよこいつ。お前も休め。その間に俺も休むから。
「なぁ、これどうなったら終わりなんだ?」
「ん? そうだな……強いて言うなら、自分か貴様がぶっ倒れるまでだ」
はー、そうですか。ぶっ倒れるまでですか。
気を紛らすために質問したのに、想定しうる最悪の答えが返ってきた。
……待てよ? それってつまり、このまま打ち合い続けてるだけじゃずっと終わらないってこと!?
焦りに身を任せ、決定打となる一撃を叩き込むべく、しゃがみ込んで懐に潜り込む。
「あっぶね!」
すると、すかさず膝蹴りが飛んでくるので、間一髪で避ける。
いや、淡々と言ってるけどマジでギリギリだったからな?あと少しでも反応が遅れていたら、もれなく鼻とはここでお別れになっていただろうし。
ってか、やっぱりこいつ裏切ってない? 今の蹴り絶対本気だっただろ。
「ほら、どうした? 殺す気でやるんじゃなかったのか?」
そんな不満が顔に出ていたのか、ヒルデガルドが煽り顔で
焚き付けてくる。
「うるせぇな。こちとら連戦続きで疲れてんだ……っよ!」
さっきのお返しとばかりに、ヒルデガルドの鳩尾を目掛けて膝蹴りを入れる。
まぁ、無策で飛び込んだところで当たるわけもなく、逆に膝を掴まれて投げ飛ばされてしまった。
「いったたた」
さてと、どうするかな。
魔法や魔術は全く効かないし、魔力抜きで攻めるしかないんだけど、そうなると今度は体格差的にきついものがある……あれ?もしかして詰んでる?
いや、どこかに隙があるはずだ。思い出せ。
集中してヒルデガルドを観察すると、手のひらに傷があることに気づく。あの傷って、俺の『光々刺突』を受け止めた時にできた傷だよな?
そういえばあいつ、俺とセリカで一斉攻撃仕掛けた時に、妙な動きしてた気がする。手で払い除けるみたいな。
ん? 手? ……試してみる価値はありそうだな。
「あぁもう! 全然決着つかねぇなぁ!」
自分でやってても、流石に大根役者がすぎる気がするけど、とりあえずヤケクソで特攻するっていう演技をしておく。
少し距離をとって構え、『光々刺突』の準備をする。
やっぱり、一気に距離を詰めるなら突き技が一番適切なんだよなぁ。
なりふり構わずと言った体で距離を詰めると、ヒルデガルドは案の定舐め切った態度で、避けるでもなく手で受け止めようとしてくる。
大方、そのまま反撃しようって魂胆なんだろうけど、その行動は俺の思う壺だ。
ヒルデガルドに直撃する寸前で、『光々刺突』を解除し、踵地面に押し付けて減速する。
そのまま、『影縫い』でヒルデガルドの影へと潜り込み、相手の死角から『雷斬り』を叩き込む。
振る時に込めた力は控えめだけど、ほぼゼロ距離で背中目がけて打ち込めたから、相当な威力は出ているはず。
「やっぱり手なんだなぁ!!」
意識外から受けた衝撃に耐えかねたのか、俺が振り抜いた方向に向かって、ヒルデガルドが勢いよく吹き飛び、壁に追突する。
「はっははは! それが狙いだったのか!!」
砂煙の中立ち上がったヒルデガルドが、心底愉快そうに声を上げる。
マジか。今のでやったと思ったんだけどな……流石に無理があったか。
「けど、これでやっとまともなダメージになったな」
「ふん。一撃与えたくらいで調子に乗るな。あんなものかすり傷程度だ」
「あれ? 結構辛そうに見えるけど……もしかして負け惜しみ?」
苦しげな顔で背中を押さえるヒルデガルドを、今度はこっちが煽ってやると、盛大に舌打ちされた。
ようやく攻略の兆しが見えた以上、煽って冷静さを欠かせるに越したことはない。ま、淡い期待は虚しく、安い挑発には乗ってこないみたいだけど。
「お前のスキル、多分だけど『触れた魔法や魔術の強制解除』だろ。んで、発動条件は手のひらで触れること」
「……正解だ。だが、知られたからといって舐めてもらっては困るがなっ!」
指を差しながら推測を述べると、ヒルデガルドは不満そうな顔で種明かしをしてくれる。
意外だな、絶対はぐらかされると思ってたのに。
でも、やっぱり合ってたんだな。まぁ、昔読んだ物語で似たような主人公を見たことあるってだけだから、ほぼ当てずっぽうみたいなものなんだけど。
「おっととと」
しかし、途中まで言い終えると話しは終わりだと言わんばかりに突撃してきて、会話は中断されてしまった。
「ちょ! 魔法は無しだろ!」
少しの間打ち合いで優勢になっていたものの、いきなり距離を取ったヒルデガルドが魔法を放ってきたことで再び膠着状態にもつれ込む。
先端が鋭く尖った岩の塊が、5個ほど飛んでくるけど、大した速度じゃないし、『流』で受け流す。
それを見たヒルデガルドが、ムッとした表情で俺の身長ほどある巨大な岩へと獲物を変えて、さらに追い討ちを仕掛けてくる。
まぁ、速度は一切変わってないし、この大きさなら簡単にかわせるんだけどね。
「――ッ!! しまった!!」
華麗に体を翻し、岩を避けた直後、ヒルデガルドの悲痛な叫びが部屋全体に響く。
そして、ヒルデガルドの視線の先へと目をやると――
「セリカ! 危ない!!」
未だ杖で地面に絵を描き続けるセリカへと向かって、大岩が迫っていた。
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To be continued
どどどもー!!雅敏一世でございます!!
一応補足なのですが、セリカが描いていたのは絵ではなく脱出用の魔法陣です。絵に見えたのは、魔法の知識がない真宗の主観なのでご容赦を。以上、本編に入れるほどではない補足でした。
ではでは、また会いましょ〜♪




