新章65 東共奪還作戦真相
NO.81東共奪還作戦真相
真宗が本気でやる宣言をした場面から、時は少し遡り、ヒルデガルドが裏切った(?)直後。
戦闘が終わり、休戦中のリズたちへと視点は切り替わる。
「ねぇ、結局王花――ヒルデガルドは何がしたかったのかしらね」
デスピナがスキルで作り出したブランコに乗っていたイナが、ふと思い出したようにそんなことを呟く。
「いや、起き上がってから喋れよ」
仰向けになってブランコの上で洗濯物のように干されているイナを尻目に、呆れながら返事をするリズ。
対して、それを受けたイナはズルズルと足元から滑り降り、辺り一帯に広がっている草原にペタンと腰を下ろす。
ちなみに、ルナの乗っているブランコは、恐らく本人の意思とは無関係に、とんでもない速度で回り続けている。
その証拠に、一瞬見えた目は死んでいたし、たまに「ゔぶぉえ」という、どこから出ているのか分からない声が聞こえる。
「けど、確かに俺もそれ気になるな。おい、そこんとこどうなんだ……って、お前もかよ」
いつものルナの奇行には目もくれず、イナの方を向いていたリズが振り返り、デスピナに問いかける。
すると、視線の先ではデスピナもまた、イナと同じ姿勢でブランコに干されていた。
しかし悲しいかな。イナのような子供がやるならともかく、デスピナのようなマッチョのおっさんがぶら下がっていても、新手の筋トレにしか見えないのだ。
「んー? そうねぇ……あんたたちになら、言ってもいいかしらねん☆」
勢いをつけて、腹筋の力だけで起き上がったデスピナが、だいぶ勿体ぶって話し始める。
「ガルド様はね、操られてるのよん」
「へぇ……って、はぁ!?」
あまりに自然な告白に、一瞬流しそうになるリズだったが、かろうじて思い留まり、勢い強めに聞き返す。
未だほぼ喋っていないプロテウスも含めて、圧倒的にツッコミが不足しているため、リズが進行しないとまともに話が進まなかったり、逆に大事なことがしれっと流されたりしてしまう。
最も、普段真宗たちがいるときでも特に変わらないのだが。
「あら、気づかなかったのん?」
「逆に聞くけど、どこに気づく要素があったんだよ。俺らここに入ってすぐ分断されたんだぞ?」
「あら、そうだったわねん☆」
ケラケラと笑うデスピナに、『お前がやったんだろ』とツッコミたくなるリズだったが、いちいち全部ツッコミを入れていると流石に疲れるので今回はスルー。
ボケ過多だと、ツッコミ側が疲弊してこうなることもままある。先程の戦闘で疲れている今は特に、細かいところまで指摘している余裕は無いのだ。
「まぁいい。で? それがなんの関係があんだ?」
「そんなに焦らないでちょうだいよん☆」
ブランコから飛び降りて謎の決めポーズをとるデスピナに、痺れを切らしたリズが再び聞き返すとデスピナがようやく本題を語り始める。ポーズはそのままに。
「一応、自由意志はあるらしいんだけれど、それでもある程度行動を制限されていたり、監視されたりしてるらしいのよん☆」
「へぇ。案外、この国を乗っ取ってるのもそのせいだったりして」
イナとしては何気なく放った一言だったが、思いがけず的を射抜いていたらしく、デスピナがイナの方はと人差し指を突き出して、全身で『正解』を表す。
「えっ、うそ本当に!? 私今ちょー適当に言ったわよ!?」
「本当よん☆あんたすごく感がいいわねん♪」
デスピナがまたもや身振り手振りを称賛を贈るが、それを受けるイナの顔は怪訝げだ。それもこれも、デスピナの動きが、いちいち奇抜すぎるのが悪い。リズなんて、もはや見向きもしなくなった。
「で、お話しを戻すんだけれど、この国の占拠も、ガルド様の本心じゃないのよん♪もちろんあたくしたちにとってもねん☆あたしたちは、ガルド様のとある計画に協力してただけなのよん♪」
ポーズを取るのはもう飽きたのか、再びブランコに座り直しながらデスピナは続ける。
「加えて、操られている状態から抜け出すには、死ぬしかないらしいのよん☆」
「あぁ、そうかよ」
今度はツッコまないのかと、デスピナが唯一のツッコミ要員に流し目を送るが、当のリズはもはやそんな気力も残っていないらしく、ひと言相槌を打つだけにとどめた。
「んもう☆釣れないわねん♪……当然あたしたちは反対したわ。けど、ガルド様の意志は固かったわん☆半ば押し負ける形で、仕方なくプロテウスちゃんが計画を考案したのよん☆」
プロテウスのスキルは『計算』これから起こりうる事象に対して、未来予知に等しい予測を立てることができる。
それを最大限活用してプロテウスが考案した計画はこうだ。
まず、下受けであるゾラークを利用して、ギルドに東共攻略の大義名分を作らせる。
そして、プロテウスが『計算』して導き出して導き出した日程を基に、ヒルデガルド自身が出向いて派遣される隊員を見極め、自分と全力戦闘ができる人材かどうかを判断する。
ヒルデガルドの行動は、操っている何者かに常時監視されているため、わざと負けるわけにはいかず、あくまで全力戦闘の果てに競り負けたことを演出しなければならないのだ。
ちなみに、ここで草薙小隊か、勇者以外の誰かが派遣されていた場合、タコ殴りにされてギルドに強制送還されていた。
しかし実際にはそうならず、真宗たちはヒルデガルドのお眼鏡にかなった。
そして、念のためと真宗に試練を与え、ギリギリでヒルデガルドに打ち勝てる程度に育てた。
あとは裏切ったように演出し、ヒルデガルド自身を殺すように仕向ける算段だったのだが――
途中まではうまくいったものの、爪の甘さが原因かバレてしまい、その後どうなったのか、この時のリズたちは知る由もない。
「あっ、二手に分断したのはあたくしの独断よん☆」
「はぁ!? ぶざっけんなよ!!」
「あっはっは! だって暇だったんだもの♪あたくしに一任するってことだったからねん☆『逢魔』を鍛えれば、ひとりで十分って判断したから、分断させてもらったわよん♪」
どこまでもふざけ倒すデスピナに、怒り心頭で威嚇しつつも、ふととあることがリズの頭をよぎる。
「じゃあ、今頃あいつらは戦ってるってことか?」
「えぇ、ちょうどさっき戦闘が始まったところよん」
「けど! あいつらが戦う理由なんて――」
「ないわよん。本来ならねん」
食ってかかるリズに、普段とは違い落ち着いた声の調子でデスピナが被せる。
そして悲しげに目を伏せ、再び口を開く。
「それでも、これがガルド様の願いなのよん。あたしたちは寄り添うだけ」
先程までとは打って変わり、重い静寂が鎮座する草原で、デスピナの悲痛とも言える囁きだけが、ありもしないはずの風に流されて行った。
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To be continued
どもども!またまたお久しぶりでございます!雅敏一世です♪
ついに、ヒルデガルドの真の目的が明かされましたね!
本当は、半分このお話し、半分戦闘シーンの予定だったんですが、何故か長くなったので戦闘シーンは次回にお引越しです!
ではでは、また会いましょー♪




