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ヘタレ魔王の英雄烈伝!  作者: 雅敏一世
新章第一幕 東共奪還作戦編
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新章64 親愛と殺意を込めて




NO.80親愛と殺意を込めて


 ほんの少し。時間で言うと数十秒ほど前、俺はセリカに対して啖呵(たんか)を切った。

 「たまにはカッコつけさせてくれ」調子こいてそんなセリフを吐いたことを、今は激しく後悔している。


 なぜなら――


「あぁぁぁあ!!! 無理無理無理!!」


 そんな痛いセリフ言ったくせに、今涙目で逃げ回ってるからな!!

 あぁ、背中に失望を通り越し、呆れたような視線が突き刺さってる!! なんでだよ! たまにはカッコつけたっていいじゃんか!


 ……というか、もはや恒例行事みたいになってるよな、こうやって逃げ回るの。いや、恒例行事になんてしたくないんだけどさ。自分が情けなくて涙が出てくるぜ。


 でも、しょうがねぇじゃんか。なんでかは知らんけど、強いやつとばっかり戦わされるんだもん。

 もうちょっと楽に勝てる戦いがあってもいいんじゃないですかね! 神様!!


「ほらほら! さっきまでの威勢はどうした!?」


 そんな風に心の中でぼやいる最中、ヒルデガルドが叫ぶと同時に、魔法の発動速度がどんどん上がっていく。

 ……あっぶな! 今、ちょっと掠った!


「お前さぁ! 魔法無効のくせに、自分だけ魔法使ってくるのズルいだろ!」


 振り返りざまに、仁王立ちで魔法を乱発してくる忌々しい男を睨みつけて、恨み言を投げつける。

 そう。俺がさっきから無様に逃げ回っている原因はこれなんだよ。


 こいつ、自分は魔法を無効化してくるくせに、ずっと俺の頭上に岩の塊を作り続けてんの。おかげで反撃することも出来ずにずっと逃げ回る羽目になってる。


 幸い、速度が上がっても避けるだけならなんとか間に合う上に、周りに並べられていた会議用の長机やら椅子やらは、速攻で粉々になったおかげで、多少足場は悪いものの走る邪魔になってはいない。


「「はぁ……」」


「2人同時にため息つくな!!」


 セリカはまだしも、なんでヒルデガルドまでため息ついてんだよ!

 そもそも、俺舐められてる気しかしないんだよ。さっきから魔法はバカスカ打ってくる割に、全然攻めてくる気配ないし。


 ってか、最初の不意打ちでこの魔法使われてたら、絶対死んでた気がする。

 『朧月』で防げるのって一回までだから、魔法と同時にあの手裏剣もどきで切り付けられてたらひとたまりもなかっただろう。


 裏切ったタイミングは……この部屋に何かがあったんだろう。正直、ここは考えてもよくわかんないし、今は関係ない。ただ、そのことも含めてひとつだけ、ずっと引っかかってることがある。


「なぁ、ヒルデガルド。お前、本当に裏切ったのか?」


 逃げ回るついでに、ヒルデガルドの背後へと回り込み、少し声の調子を変えて語りかける。


 ヒルデガルドの行動は、不可解な点が多い。目障りな逢魔(おれ)を消したいだけってんなら、なんでわざわざ危険を冒してまで東共から西公の駅まで来てたんだ? 

 どう考えたって中央政府(ここ)で待ち伏せする場面だろ。


 今だって、逃げ回る俺を追撃し続けるよりも、無防備なセリカを狙った方がいいはずだ。なのにも関わらず、特に有効打になっていない攻撃をしている。


 加えて、ここまでのヒルデガルドの行動。それらから察するに、ヒルデガルドは裏切っていないんじゃないのか?

 本当は裏切るつもりなんてなく、事情があって裏切っているふりをしているだけなんじゃないか?


 どうしてもそう思えて仕方ない。まぁ、俺が現実を受け入れられてなくて、都合よく解釈してるだけなのかもしれないけどさ。


 でも、俺には裏切る前のヒルデガルド――王花の発言の全てが嘘だったとは思えないし、思いたくない。


「答えろよヒルデガルド! お前、本当は裏切ってないんじゃねぇのか?」


「……くどい! そもそも、最初から貴様らの仲間などではない!!」


 もう、魔法で追い詰めてくるのはやめたのか、声を荒げたヒルデガルドが、再び切り掛かってきて、奇しくもこの部屋に入ってきた時と同じ体勢で(つば)迫り合いになる。


「やけに動揺してんじゃねぇか」


「動揺などしていない。大体、貴様なんのつもりだ。真面目にやらないなら本当に切り捨てるぞ」


 いきなり早口になったな、こいつ。

 動揺してるってより……焦ってる?なんにせよ、賭けてみる価値はあるかもな。


「抵抗しない方が、お前にとっては都合がいいんじゃないのか?」


 見透かしたような俺の言葉に、ヒルデガルドはバッと後ろに飛ばずさり、こちらを睨みつけてくる。

 ま、当てなんて何にもないから、ただのハッタリなんだけどね。

 

「そ、そんなことはないが?」


「目泳いでんぞ」


 やっぱりか。多分だけど、ヒルデガルドは俺と全力で戦いたいらしい。理由は知らん。ただ、こいつの反応を見るに、本気でやらないとなんか不都合があるんだろうな。


 ってか、こいつ絶対こっちが素だろ。ボロが出てきてんじゃねぇか。

 はぁ、なんか、いつものごとく緊張感がどんどんなくなっていく気がする。


 ちなみに、その緊張感を一番最初に消し去った張本人は……だめだ。杖で地面に絵描いてやがる。あと、その無駄にクオリティの高い猫はなんなんだよ。


「あぁもう! わっかりにくいんだよ! お前は!」


「なんの話だ?」


 とぼけたことを言いながらも、ヒルデガルドは満足げな顔で微笑む。

 もう隠す気無くなってきてるけど、いいのか?

 まぁ、事情がよくわかってない以上、俺は話を合わせるしかないんだけどさ。


「じゃあ、こっからは――」


 もう一度ヒルデガルドに向き直り、メギドフォルンの切先を向けて構える。

 ヒルデガルドがなに考えてんのかは知らないけど、『戦わなきゃいけないんだよな?』という思いを込めて見つめ、言葉を紡ぐ。


「殺す気でいくぞ。ヒルデガルド」


 それに対して、ヒルデガルドもまた、同じように構えて満足げに微笑む。まるで、俺の問いかけに応えてくれてるみたいに。


「ふん。死ぬ気でかかってこい。大和真宗」


 互いが互いに、親愛と殺意を込めて。

 今この時、本当の意味でやっと戦いが始まったのだった。


………………………………………………………………

To be continued

どもども!お久々でございます!!雅敏一世です♪

さて、ようやくヒルデガルドの目的がチラリズムしてきたところで、今回のお話はおしまいでございます。

一応、来週も投稿できるように努力はしますが、いかんせんここ1ヶ月忙しいもので、もしかしたら再来週となるかもしれません。

ではでは、また会いましょ〜♪

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