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ヘタレ魔王の英雄烈伝!  作者: 雅敏一世
新章第一幕 東共奪還作戦編
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新章58 リズの苦悩




NO.74リズの苦悩


「そういやよ。お前ら記憶喪失なんだって?」


 最上階へ向けて延々と続く廊下を歩いている最中、思い出したようにリズがそう投げかける。


「そうね、別に不都合もないから特に気にしてもいないけれど」


 それに対して、イナも「だからどうしたの?」と言った顔で返す。

 何十分も無言で歩くのが退屈で、何気なく話題を振ったリズとしては、それ以上何も言えず、再び沈黙が横たわる。


「どの辺まで記憶があんだ?」


 話を続けようとしたのが意外だったのか、イナは瞬きを繰り返しながら黙ってリズの顔を見つめる。

 そして、しばらく思案してから


「うーん……王都で暮らし始める前のことが思い出せないくらいで、日常生活にししょーはないわよ。ルナはどうなのか知らないけど」


「こいつの場合、有って無いようなもんだろ」


「…………失礼。私だって――」


 と、そこまで言ってルナは黙り込む。おそらく、話している途中で、自分でもその通りだと思い直したのだろう。


「いや、そこで黙んのかよ」


「そういえば、あんたこそどうなのよ」


「は?」


 身も蓋もない……そもそも何を言ってるかもわからない問いかけに、リズも思わず目を丸くして黙り込む。

 流石に言葉足らずだった自覚があったのか、イナも慌てて続ける。


「ほ、ほらあんたこそ自分のこと全然話さないじゃない? 仲間なんだし、聞いてみたいなーって」


「あ? 聞いても面白くねぇぞ?」


「いや気になるし、とんでもなく暇だからこの際面白くなくてもいいわよ」


 ついにぶっちゃけ始めたイナに、リズがこめかみをぴくつかせるが、ここでキレても面倒なだけなので、ひと息ついて我慢する。


「しゃーねーな。言っとくけど、本当に大したことないからな?」


 そう前振りをして、リズは話し始める。地獄のような日々から一転、人生が変わった……いや、変えられた日を思い出しながら――


♦︎♦︎♦︎


 率直に言おう。リズの父親、先代の『爆炎王』ローズ・インスグレイドはクズだ。

 ギャンブルに狂い、かつイカサマまでやってのけた上で負け分は息子に丸投げする始末。


 さらには、あろうことか息子に押し付けた負け分を全てなかったことにして『無敗の王』を名乗っている正真正銘のクズ。


 親の愛? 母親は早くに亡くなっており、父親がドクズであるリズに、そんなもの感じる余裕もなく、賭け場でバイト三昧の日々。


 齢10歳にも満たないリズにできることは少なかった為、労働内容は皿洗いなど過激な労働ではなかったが、それでも、まだ幼い少年にとっては耐え難い苦痛であることは間違いない。


 そんな日々を送っている最中、現れたのが先代『逢魔』――鬼丸だった。

 初めて会ったのはリズが5歳の頃、いつものように親の尻拭いでバイトをしている時だ。


「はっはは! おっしゃー、これで俺の30連勝だな」


「はぁ!? んでイカサマしても勝てねぇんですか!!」


「はっ、てめぇがイカサマしてようが、丸聞こえなんだよ」


 ふらっと現れた鬼丸は、手のひらの上で弄ぶように父親にポーカーで勝利をすると、そのままの流れで、1番高いお酒を注文する。おそらくこれを賭けの対象にしていたのだろう。


「つか、スキル使うなんてずりぃですよ」


「どの口が言ってんだイカサマ野郎」


 ローズに、心底呆れたような視線を向けていた『逢魔』だったが、ふと思い出したように手を打ち合わせる。


「そういや、ガキ生まれたんだって?」


「いや、いつの話してんすか」


「確か……リズだっけか」


 全く話を聞かない鬼丸に、ローズがため息を吐きながらリズの方を指差す。

 すると、鬼丸の姿が一瞬でかき消え、直後にリズの目の前に目線を合わせて座り込んだ。


「よぉ、お前がリズか?」


 突然の出来事に声が出ず、あわあわと手を振り回した後、俯いたままコクリと頷く。すると、優しい手つきで頭を撫でられた。

 

「――あ」


 そんななんでもない行為が、一度も親から撫でられたことなんてなかったリズにとっては衝撃的で、同時にとても暖かく、涙が滲んでくる。


「大変だな。あんなんが父親で」


 そんな心情を察してか、笑いかけてきた鬼丸に、そのまま抱きしめられる。


「あんなんで悪かったっすね」


「お前なぁ、流石にこの仕打ちは俺でも引くぞ」


 リズを胸に抱き寄せながら、鬼丸が冷ややかな視線をローズへと向ける。

 真宗たちには、絶対こんなことをしないあたり、やはり鬼丸も照れ屋……もとい、ツンデレなのだろう。


「そいつにはそのくらいが……いや、鬼丸さんの言う通りっすね。流石に構ってやらなすぎだった気がするっす」


「そこだけじゃねぇよ。まだ5歳だろ? こんなとこで働かせやがって。俺の孫なんて今頃鼻くそ食ってるぞ。下の方が」


「へーい。はぁ、これでもう『無敗の王』なんて名乗れないっすね」


「はっ! 俺にボロ負けしてるくせになーにが無敗だばーか」


 普段、誰にでも高圧的なローズが、鬼丸に対しては何も言えずに言い負かされている。しょげている父親を見るのなんて今日が初めてなくらいだ。


「あの……ありが、とう」


「おう。どーいたしまして。なんかあったら頭ん中で俺の名前を念じろ。すぐにきてやっから」


「うん!!」


 今度は元気よく返事するリズに、鬼丸はもう一度頭を撫でながら立ち上がる。


「ねぇ、おじさんはどうして俺によくしてくれるの?」


「あ? ……そーだな。甥っ子が可愛い親戚の叔父の気分。だな」


「どーゆーこと?」


 訳がわからず聞き返すと、鬼丸はしばし「うーん」と思案した後


「まっ、そのうちわかるから大丈夫だ」


 最後に笑いかけると、嵐のように去っていった。


♦︎♦︎♦︎


「んで、改心した親父とリズ少年は、穏やかに……比較的穏やかに暮らしましたとさ。な? つまんねぇだろ?」 


「あんた、苦労してたのね」


 話し終えた途端、同情するかのようにイナルナ2人から頭を撫でられる。


「ちょ、お前らやめろ!!」


 ムカつく顔で頭を撫でてくる2人を引っ剥がすと、リズは1人早歩きで置いていってしまう。


「あっ、待ちなさいよ!」


「……リズ、速い」


 真宗たちも大概だが、こちらもまた任務中とは思えないほのぼのとした雰囲気で珍道中はもう少し続くのだった。


………………………………………………………………

To be continued

どもども、お久しぶりでございます!雅敏一世です♪

今回は、リズの過去をちょびっと深掘り(?)の回でございます。

リズが真宗に敵愾心剥き出しだったのは、鬼丸への憧れもあったからなんですねぇ〜

おっと、これ以上は余計なことを喋りそうなので、おしゃべり作者はさっさと撤退しますよっと。

ではでは、また会いましょ〜♪

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