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ヘタレ魔王の英雄烈伝!  作者: 雅敏一世
新章第一幕 東共奪還作戦編
66/123

新章47 同行者




NO.63同行者


「どどどどうしよう!! イナが! イナがどんどん小さくなってくんだけど!?」


「まぁ、落ち着けって。あいつの意志を無駄にしないように頑張ろうぜ」


「……イナ、死んでない。よ?」


 どうしてこいつらはこんなにも呑気なんだよ。

 とはいえ、出発しちまった以上、どうすることもできないし……


「ぐぅぅぅ」


「とりあえず飯にすんぞ」


 リズの提案に乗ることにした。


「おっ、この焼肉弁当美味いな」


 指定席へと座り、半ば現実逃避気味に弁当を食べる。

 マジでどうしよう。まさか間に合わないなんて思わないじゃんか。

 そもそも、誰だよ。こんなギリギリに出発した奴。


「もぐもぐ……一応、駅につけば連絡手段はあるけど、それまでは何にもできないね。はむっ、心配だけど、しょうがないよ」


「んな美味そうに弁当食いながら心配とか言われても、説得力ないぞ。あと、人の弁当盗み食いするならそっちもよこせ」


 おっ、この卵焼きうまっ! 出汁かな? 出汁がうまいのかな? 噛むたびにジュワッと溢れ出してくる旨味がたまらない!

 そもそも、匂いだけで美味いのわかるしなぁ、セリカが途中で買いに行ったのも無理ないぞこれ。


「ふぅ、美味かったぁ」


 弁当を食べ終わり、幸福感に包まれていたのも束の間、やることがなくなるとイナがどうなったのかが気になってしょうがない。


「……真宗。多分、イナは平気、だと思う。きっと……おそらく」


「そんな保険かけられるとかえって心配になるんだけど?」


 本当に大丈夫だよな?


 窓から眺める、目にもとまらない速さで流れていく景色に、普段なら大興奮なんだろうが、今はそれすら気にしている余裕もなく、気づけば全員黙りこくったまま、東共へと着いてしまったのだった。


♦︎♦︎♦︎


 列車に揺られ、たどり着いた先は西公の駅を和風にしたような作りの、これまた美しい駅だった。

 いや、美しいかっただろうと言うべきか。こっちも元の綺麗さを残しつつ、全体的に(さび)れている。


「っと、ついたぁ。にしてもすごい速さだったな。3時間くらいしかかからなかったぞ」


「でも、どうしよう。イナちゃんと連絡する手段もないし……」


「まぁ、そのうち来んだろ」


 なんでこいつはこんなに楽観的なんだ?俺もなんとなく大丈夫な気はしてるけどさ。


「あと2分もすれば次の便が到着するだろうからな」


「へっ? そんなに早く次の便来るのか?」


「当たり前だろ。通常運行してないせいで列車なんか余りまくってるんだから」


 そういえばそうだった。わざわざ任務のために動かしてもらってるから、余裕はあるんだったな。


『間も無く、6番線に列車が参ります。ご注意下さい』


 おっと、噂をすればだな。果たしてイナはちゃんと来れるのか?


 そんなことを思い、大きさの割に全く人の降りてこない列車のドアを眺めていると、見覚えのある金髪の少女が意気揚々と出てくる。

 そして、そのまま通り過ぎていく。


「待て待て待て。どこまで行くんだよ」


「あら、みんな待っててくれたのね」


 ふふん。と鼻を鳴らしながら、イナがさも今気付いたかのようにこちらに向かってくる。

 白々しい。チラチラこっち見てたから丸わかりだっての。


「……イナ」


「あらルナ、お姉ちゃんがいなくて寂しかったの……ひじゃい! な、何するのよ!」


 イナがどうやらご立腹らしいルナに、頬をつねられているが、何にしても無事でよかった。

 ま、口に出したりしたらすぐ調子に乗るから絶対言わないけど。


「にしてもお前、よく来れたな」


「ふふん! この人に連れてきてもらったから、余裕だったわ!」


「結局、助けてもらったんかい」


 今のはもう考えても、自力できたやつの顔だっただろ。……って、この人? どの人だ?


「あ、どうも。自分、井瀬韋王花(いせいおうか)と申します」


「――!?」


 びっくりしたぁ……いきなり後ろから話しかけられたから体ビクッてなったわ。

 今笑ってるイナは後で〆るとして、これまた変わった風貌に、変わった名前の人だな。


 どちらの性別かわからない中性的な顔立ちと声、そして、宝石をはめ込んだような冷たく澄んだ瞳。肩まで伸ばした煌びやかな黒髪は、もはや性別などどちらでも関係なく惹かれるものがあった。


「ふふ、そんなに驚かれなくても何もいたしませんよ。クロスさまの命で、草薙小隊の皆さまをサポートするために参りました。まさか、置いていかれるとは思いませんでしたが」 


 そして王花は、くすくすと笑いながらどうやってイナと会ったのかを話してくれた。


♦︎♦︎♦︎


 目の前で列車に置いていかれたイナは、何が起こったのか分からずに立ち尽くしていた。


「ゆ、夢ね。きっとこれは悪い夢なんだわ。目覚めたら、まだベッドの上で、これから出発……ひじゃい!」


 現実を受け止められず頬をつねると、夢じゃないと嘲笑うようにヒリヒリとした痛みだけが頬に残る。


(うぅ、どの列車に乗ればいいのかわかんない……帰るにしてもお金ないし……)


「うわぁぁぁぁあ!!!」


 最終的にはパニックになり、泣き出してしまう始末だ。


「あのぉ、お嬢さん大丈夫ですか?」


「ふぇぇ?」


 その時、不意に背後から声をかけられ、涙で顔をぐじゃぐじゃにしたイナが、鼻を啜りながら振り返る。


「自分は、井瀬韋王花と申します。自分でよければお話し聞きますよ」


「ずびっ、ほんどに? 実はね?――」


 まだ目元に涙を残しながらも、なんとか今置かれている状況を語り終える。


「なるほど……それは大変でしたね。では、自分が責任を持ってご案内します。次の列車がもうすぐ来るので、まずはそれまで待ちましょう」


「いいの!?」


 得意げに胸を叩く王花に、イナがパァッと表情を輝かせる。

 基本素直じゃないイナだが、こういう時は素直なのだ。


「それが自分の任務ですから」


♦︎♦︎♦︎


「そして、無事に次の便に間に合い、今に至るわけです。神樹を見てはしゃぐイナさま、可愛いかったぁ……」


 なるほどな、なんか出来すぎてて少し不自然な気はするけど、イナと合流できたわけだしいいか。


「と、いうわけで、自分も同行させていただきます」


「え? いいの?」


「え? そんなにあっさり了承されるんですか?」


 いや、ギルマスから何も聞かされてないのはたしかに気がかりだけど、イナを助けてくれた人だしな。

 それに、俺は人を見る目に関しては自信があるんだよ。目がつげている……この人は悪い人じゃない!


「ってなわけで、よろしく頼みます!王花さん?」


「ふふ、呼び捨てで構いませんよ」


 そんなこんなで、草薙小隊にもうひとり同行者が加わったのだった。


………………………………………………………………

To be continued

ども、先月2回しか投稿しなかったなろう物書き(笑)です……

言い訳させていただくと、今回登場した新キャラの名前を考えてたり、ここから新章第一幕のクライマックスの展開をどうしていくか悩んでいた結果、気づけば6月が終わっていました……解せぬ…僕の周りだけ時間が早く進んでるんじゃないですかね?

…面白くもない冗談はさておき、先述した通り、いよいよクライマックスが近くなってきました。

未だ姿形すら見せないヒルデガルト、一体これからどうなっていくのでしょうか!?

はい、これ以上はネタバレしそうなので控えておきます。

ではでは皆さん、また会いましょー♪

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