新章46 いざ東共へ
NO.62いざ東共へ
「旅費よし。着替えよし。日用雑貨は全部持ったし、覚悟も決まった! それじゃ、東共に向けてー、しゅっぱーつ!!」
「えっへへぁ!」
「えっ!? 誰!? ……ってセリカか。お前いつからいたんだよ」
『東共奪還作戦』の開始当日、東共行きの荷物の最終確認をしていると、いきなりドアが開き、セリカが変な声を上げながら倒れ込んできた。
「えっへへへ。ウキウキで準備する真宗くんが尊すぎて、肺が耐えられなかった……」
「ははは、はっずいところ見るなよ!」
くっそ油断した。ってか、朝っぱらから覗きとか変態かよ。……そういえば、変態だったな。
「東共に行くの、そんなに楽しみだったの?」
「まあな。状況が状況だし、不謹慎って思われるかもだけど、草薙小隊全員で遠出するのって初めてだからさ」
「真宗くん……任務が終わったらどこか遊びに行こうね!」
「うわぁっ!」
勢いよく抱きついてきたセリカに、そのままベッドへと押し倒される形で倒れ込む。
あっ、まってこれいつものパターンだと――
「おい、真宗。もう時間だぞ……って、あぁ、わりぃ。邪魔したな」
「まってリズ!! 誤解だから!! 行かないでくれぇ!!!」
予想した通り、リズがドアを半開きにした状態で、再びドアを閉めようと一歩後ろに下がっていた。
くそっ、また誤解を解くための説得1時間コースか?
「冗談だ。どうせまたいつものパターンなんだろ?」
と思っていたが、どうやらリズも段々とこのノリに慣れてきたらしい。ちなみに、俺は俺はとっくに慣れた。
慣れたくはなかったけども。
「リズ!!」
「おいやめろ。くっつくな気持ち悪い!!」
ベッドから飛び起きてリズにしがみつくも、背中にくっついていたセリカともどもベッドに逆戻りさせられてしまう。
「おら、ふざけてねぇでさっさと行くぞ。列車に間に合わなかったらお前らのせいだからな」
「れっしゃ? 何だそれ」
何気なく聞き返すと、リズとセリカが揃って信じられないものを見たような顔でこっちを見つめてくる。
あっ、またこれ俺だけ知らないやつだ。
「お前、マジのマジで言ってんのか? お前、鬼ヶ島から来たんだよな? どうやってきたんだよ」
「徒歩だけど?」
「うっそだろ?」
食い気味に聞き返された。そんなにおかしいか?
元々船で王国との国境近くまで送ってもらってたし、王国ではシルヴァにお持ち帰りされたしで、別に長旅だった気はしないけどな。
「あんたたち、やっぱりここにいたのね。ほらそろそろ出るわよ」
「…………遅れる、よ」
その時、イナルナがドアの隙間からひょっこり顔を覗かせる。
よく見ると、なんかすげぇ大荷物だけど、そんなに持ってくものなくないか?
「いや、真宗がおかしいのなんて今更か」
「おいちょっと待て。それどういう意味だ」
リズの方へ振り向き睨みつけると、目を泳がせながら顔を逸らしやがった。
「真宗くん、そろそろ出ないと本当に時間まずいよ!!」
おっと、出発しようとしてからもうそんなに時間経ってたか。
「まっ、いいか。それじゃ改めて……しゅっぱーつ!!」
♦︎♦︎♦︎
身支度を済ませ、馬車をいくつも乗り継いで“駅”とやらに着いた俺たちは、5時間にも渡る身辺調査の末に、やっと乗車券を買うところまで漕ぎ着けていた。
「まーじで長かったぁ。なんでこんな長いんだよ」
「しょうがねぇだろ。東共はまだ閉鎖中なんだ、ここに来れてること自体が奇跡なんだよ」
あ、だからこんなに人が少ないのか。広さの割に全くと言っていいほど人影が見当たらない。
客はおろかスタッフも居ないせいで乗車券の発行作業も自分たちでやらなきゃいけない始末だ。
にしても、本当にでかいな。『ウグリアセントラルステーション』とかいう、誰がつけたのかわかんないそのまんまなネーミングから察するに、多分この大陸で1番でかい駅なんだろう。
とはいえ、お世辞にも栄えているとはいえず、人はもとより設備も老朽化が進んでいるのか全体的に薄暗い。
「なぁリズ。これどうやればいいんだ?」
「あぁ!? そこで大人しく待っとけ! 今チビどもの分と一緒に書いてやっから!!」
怒られた……セリカは自分だけさっさと作って、お土産コーナーの方に行っちゃったし、俺とイナルナは、そもそも乗車券ってものがいまいち分かっていないしで、リズだけがひとりで忙しそうにしている。
……なんでお土産屋だけあるんだ? 全くもって構造が把握できない。
「ほらっ」
「おっととと」
シュンとしながら待っていると、全員分の乗車券を携えたリズが雑に投げ渡してくる。
「そいつをあそこにある『改札』ってのに入れれば通れるようになる。あ、乗る時は戻ってくるから取り忘れんなよ?」
リズの指差す先には金属でできたゴツいゲートがあり、こちらから見て正面には上に『投入口』と書かれた小さな細長い穴が空いている。
ボロボロになった設備の中で、こいつだけがまともに機能しており、最新技術? なこともあって、改札回りだけ異質な空気を放っていた。
「あれ? これってどうやるのかしら……きゃっ! は、入ったわ……ふふん! どうよ真宗! このこーとーテクニックがあんたにできるかしら?」
どうやったらあんだけもたついてドヤ顔ができんだよ。
ルナなんか無言で通っていったぞ。
「その様でドヤ顔すんのはちょっと無理だな」
「そういう意味じゃないわよっ!!」
顔を真っ赤にして叫んでくるアホは無視して、俺も改札をくぐる。えっと、ここに入れればいいんだよな?
「ごめーん!! お土産買ってたら遅くなっちゃった!!」
俺が改札を抜けたのと同時に、紙袋を持ったセリカが小走りで駆け寄ってくる。
「お前な。荷物になるし、お土産なら帰りでよかっただろ」
「えへへ、つい……」
「何買ったんだ?」
「なーいしょ♪それに、お土産はちゃんと帰りに買うよ。これは別のもの」
セリカは人差し指を唇に当ててイタズラっぽく笑った。
……っ、危ない危ない。見惚れてる場合じゃないっての。
てか、こういうのは悟られないようにしなきゃな。絶対調子に乗るだろうし。
「おい! いちゃついてないで、さっさと行くぞ!」
「い、いちゃついてなんてねぇし!!」
心外なセリフに反論するが、リズのやつ聞く耳持つどころかさっさと歩いていってしまう。
あれ? そういえばルナ見てないけど、あいつどこ行ったんだ? ……あ、いたいた。リズの目の前にいたわ。ちょうど死角になってて気づかんかった。
あいつら仲良いのか? そういえば、ルナのやつリズには人見知りしなかったし、リズといる時は心なしかいつもより元気だもんな。
♦︎♦︎♦︎
再び場所は変わり、今度は駅にある“ホーム”とやらにきた。が――
「おおぉ! すっげぇぇ!!」
長さにして数十メートルもある黒い鉄の塊が、煙を吹き出しながら走っていく。率直に言ってめちゃくちゃすごい!
現状、国境が封鎖されている東共と唯一行き来できる場所ということもあって手続きとか超面倒くさかったけど、そんなことどうでも良くなる程圧巻だ。
「何これすごいじゃないの!!」
「…………うぅっ。音、大きい」
これが列車か!! すげぇ!! あんな長い鉄の塊がどうやって動いてるんだ!?
「東共の方だと、汽車って呼ぶらしいよ。最近、急激に発展してきた“魔導化学”っていう技術で作られてるんだって! ……ふふふ、はしゃいでる真宗くん。かわいい」
「へぇ。すっげぇな!」
最後にセリカが変なこと言ってた気がするけど、気のせいだよな。うん。気のせいだ。
「今走ってるのが貨物線。で、俺らが乗るのはあれだ」
リズが指差す先には、一際大きな列車が鎮座していた。
「でっか!」
『間も無く〜6番線、東共中央区駅着便、発車いたします』
「マジか! おら急ぐぞ!!」
やっぱりか!! えっと、さっきリズが言ってたのは……あれだ!
人ごみをかき分け、標識に従って6番線を目指す。
「間に合えぇぇ!!」
っと、セーフ!! 危なかったー。俺たちが列車にかけ乗ったちょうどその時、タイミングよくドアが閉まった。
セリカたちもなんとか間に合ったみたいだな。
「……イナが、いない」
息を切らしたルナの呟きに、嫌な予感がしてに着いている小さな窓から外を見ると、何が起こったのか分からず、ポカンと口を開けたイナが呆然と立ち尽くしている。
「うっそだろ!?」
こうして、遠のいていくイナを置き去りにして、波乱の『東共奪還作戦』が、真の意味でスタートしたのだった。
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To be continued
ども!皆さま!お久しぶりぶりブリ大根でございます!
雅敏一世です!
ほんっと〜に!遅くなって申し訳ございません!そのかわり、ボリュームは満点だったかと思います。それで許して……
さて、次回からはついに東共に到着!真宗たちは無事に任務を達成できるのか!そもそも、イナは合流できるのか!
今後の展開に乞うご期待ください。
ではでは、また会いましょー♪




