新章45 東共奪還作戦概要
NO.61 東共奪還作戦概要
男は、延々と続くかに思われた廊下を抜け、成人男性が5人ほど手を繋いでも足りないほどの大きなドアを、軽々と開け放つ。
廊下も豪勢な装飾が施されていたが、男が入ってきた大広間と比べると、やはり霞んでしまう。
もはやそれだけで小さな家一つ建ってしまうのではないかと思えるほど、豪華な装飾が施されたシャンデリア。
それが照らす、殺風景な大広間。そして、敷かれたカーペットに沿って一糸乱れぬ動きで一礼する騎士達。
真紅のカーペットの先には、厳かな玉座があり、そこには氷のような冷たい表情を貼り付けた絶世の美女が鎮座している。
彼女の小さな頭に合うように乗せられた、少し小振りな王冠が、高貴な立場を代弁している。
マナカルク西方公国157代目公妃
エルダ・スカーレット・マナカルク
それが彼女の肩書きと名前だ。
「やぁやぁ。ご無沙汰だねぇ。お姫様」
そんな一国家の元首に対して、男――クロスは、普段の調子を一切崩す様子もなく、飄々と語りかける。
「その呼び方、不敬罪で切り捨てさせますよ」
「いくらなんでも酷すぎない!?」
クロスは話しながらもカーペットを歩き続け、エルダの前までたどり着くと、形式上は深々とひざまづく。が、その態度からは微塵も敬意の念が感じられない。
一方でエルダも、長い付き合いで慣れているのか、口では注意するが別段気にする様子もないのが救いだが。
「いやぁ、にしても会うの久しぶりだねぇ。それこそ、1対1で話すのは3年前の戦争以来なんじゃない?」
「そうですね……にぃ、ごほん! クロスも忙しいようですからね」
「あっははは。昔みたいに『にぃに』って呼んでくれてもいいんだよん?」
「なっ――ッ!!」
からかったようなクロスのセリフに、エルダは顔を真っ赤にして押し黙る。
もう何年もクロスに言いくるめられている彼女は、口では勝てないと、身にしみて分かっているのだ。
「さってっと、お姫様からかうのはこれくらいにして……僕を呼びつけたってことは、あの件の可否が出たってことでいいのかな?」
「はい。その認識で構いません」
急に真面目な態度になったクロスに、エルダも先ほどまでの和やかな雰囲気とは打って変わり、当初の氷の面のような表情に切り替える。
「で? 2週間も待たせて、出た結論を聞かせてもらおうか?」
そんな彼女に対し、クロスは嫌味ったらしく応じる。しかし、嫌味の矛先はエルダではなく、彼女の周りで踏ん反り返っている大臣達だ。
実際、エルダの一存で決められるなら、今回の件もその場で結論が出ていただろう。
まぁ、当の本人たちは、血筋のみで今の位に着いたものばかりなので、嫌味に気づくそぶりすらない。
真意に気づき、なおかつクロスの危険性を理解して青ざめたものは、ごく一部の優秀な者だけだ。
「『東共奪還作戦』について、国家間で問題にならない……という条件下においてのみ、東方共和国に戦力を投入することを認めます」
「ってことは!!!」
「はい。この時をもって、『東共奪還作戦』の開始を宣言します!!」
この一言を持って、東共奪還作戦が開始される。3年という長い時間を経て、ヒルデガルドに対して、反撃の狼煙が上げられたのだ。そして、物語はついに大きく動き出す。
♦︎♦︎♦︎
出張帰りだというクロスに、大事な話があると呼び出された俺たちは、揃ってクロスの執務室に集まっていた。
もっとも、セリカとイナルナは、クロスが持ち帰ってきたお土産のアイスクリームに夢中で、まともに話を聞いているのは俺だけだ。ちなみに、リズはトイレに行っていて、今はいない。
「――ってのが、ついさっきのお話だね」
なーんかとんでもないことになってきたな。けど、なんでこんな大事な話を俺らにするんだ?ってか、まだ全員揃ってないのに話すのかよ。
「で、君ら草薙小隊には、『東共奪還作戦』を遂行してもらいたい!!」
そんな俺の疑問は、クロスのその一言で解消された。いや、されたのはいいんだけど……
「待て待て待て。なんで俺ら!? そういう大事な任務は、勇者とかに頼めよ!!」
「いや、勇者いるでしょ」
クロスの視線の先を見てみると、呑気にアイスを食べていたセリカが、スプーンを口元に当てて小首を傾げている。
そういえば、こいつも勇者だったな。一回も戦ってるところ見たことないから忘れてた。
「そういや、セリカって戦えるのか?」
「あったり前さ! 3年前も大活躍だっ――」
「ギルマス」
嬉々として語ろうとしていたクロスを、セリカがやんわりと遮る。
「あっ……ごめん」
「ううん。気にしないで」
な、なんかワケありそうだな。流石に、この流れで聞く気にはならないけど。
「で、なんの話だっけ? ……そうそう。なんで君らがこの任務に抜擢されたか、だったね!」
さっきまでの気まずい雰囲気を変えるためか、クロスはやけに明るく話題を変える。
「おい、俺抜きで何勝手に話進めてんだよ」
ちょうどこのタイミングで、リズがトイレから戻ってくる。
「ズバリ、君らには他にないものがあるのだよ」
「いや、説明してくれねぇのかよ」
「まあまあ。後で俺が説明するからさ」
「私たちにも後で説明しなさいよ!」「……よ」
「お前らは聞いてなかっただけだろうが」
きっぱりと断ると、イナルナが左右から揺らしてくる。
鬱陶しいから、俺の分のアイスを渡すと、目を輝かせてさっきまでアイスを食べていた位置に戻っていった。
本当に自由だな、あいつら。
「はーい話戻すよー」
いつものわちゃわちゃした流れになりかけたが、クロスが手を叩いて本題に戻してくれる。
あぶねえ、また収拾つかなくなるとこだった。
「まずひとつ目の理由だけど、からはシンプルに人数に対する戦力の高さ。作戦の性質上、少数精鋭を用意する必要がある。その点、覚醒者が3人もいる君らは適任なんだよ。そもそも、みんな勇者の下に付きたがるから、うちで小隊って珍しいし」
そう言われてみれば、魔王2人に勇者1人って、字面だけ見れば俺たちかなり優秀だよな。字面だけ見れば。
「ふたつ目は、勇者からの推薦。ま、これは雷刃からだから、ほぼ身内贔屓だけどね。けど、他の勇者からの反対もなかったし。採用しました! 以上、ふたつの理由から君らが選ばれたってワケさ。ちなみに、これは決定事項なので、拒否権はないよ」
拒否権ないのかよ。まぁ、この人のことだから、薄々気づいてはいたけどさ。
勇者からの反対が出なかったのは、単に面倒な任務を押し付けたかっただけだろ。
「日時は1週間後! それまでに備えておいてくれたまえ!」
こうして、理不尽にも一国家の存亡をかけた重大任務が、あまりにも軽い調子で押しつけられた。
そして――
「待ってくれ。マジのマジで、なんの話してんだ?」
完全に周りから置いてけぼりにされたリズだけが、困惑の表情を浮かべていた。
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To be continued
どもども、大遅刻常習犯、雅敏一世です!!
遅くなり大変申し訳ない。
さて今回ですが、ついに物語が大きく動き出します!
次回からは、ついに大台、『東共奪還作戦編』となりますので乞うご期待ください!!
ではでは、作者はこの辺りで失礼!
また会いましょー♪




