新章44『強欲』に酔いしれて
NO.60『強欲』に酔いしれて
「ねぇ、真宗くん。シーシャのこと、力になってあげられないかな? あの子、何年も片想いしてるの」
シーシャと話し終えた後、肝心の胃腸薬をもらい忘れたことを思い出し、もらいに行った帰り道、セリカが不意にそんなことを言い出した。
「力になるつってもな。俺、相手のこともよく知らないし」
話したのも一回きりだ。しかも、あれを会話と呼んでいいのかどうかも怪しいくらいビミョーなやつ。なんなら、相手側は途中で寝てたし。
「そっか……確かに、真宗くんにとっては初対面だもんね」
ぐっ、そんな健気な表情されると、なんとなく罪悪感が湧く。
とはいえ、さっきも言った通り、何かしてやれるわけじゃないし困ったもんだなぁ。
「じゃあ私こっちだから」
「あぁ、もう着いたのか。んじゃ、また明日な」
T字になっている曲がり角で、セリカが右に曲がるのを見届け、俺も一旦部屋に戻ろうかと、セリカとは逆方向に曲が……ったところで、反対側から来ていた人に気づかず、ぶつかってしまった。
「いでぇっ! てめ、どこに目つけて歩いてんだ!!」
「ひぃ! ごめんなさいごめんなさい!!!」
やばい! 絶対関わっちゃいけない系の人とぶつかっちまった!!!
とりあえず、変に絡まれないように平謝りして……ってあれ?
「あんた、『強欲』の勇者!?」
「様をつけろやクソガキ。ったく、いってーな」
いやいや、タイムリーすぎるだろ! 今の今までこの人の話してたんだぞ?
「だっ、大丈夫でした――」
「ごぶぁっ!!」
「本当に大丈夫ですかぁっ!!!」
なんでこの人血吐いてんの!? ぶつかったって言っても、体が軽く当たっただけだぞ!?
ちよっ、まじで大丈夫なのか? ありえないくらい血ぃでてるけど!?
「だ、大丈夫……だ。驚かせて悪りぃな。体弱くてよ」
弱いとかそんな次元じゃないだろ……本当にこれで勇者なのか? 1発殴られたら気絶しそうなんだけど?
「あれ? なんか落としましたよ?」
なんだこれ? ロケットペンダント?
勝手に中身を見ちゃいけないんだろうけど、気になるな。すごい咳き込んでるし、今ならチラッと見ても気づかないんじゃ?
そんな考えが頭をよぎり、そっとペンダントを開けてみる。
…………って、あれ? ペンダントの中の人もしかして――
「シーシャ?」
ペンダントの中にあった写真。そこに写っていた人物に見覚えがあり、思わず小さく名前を呟くと、ヒュートが血相を変えて俺の手からペンダントを奪い取った。
「み、みた……か?」
「いや、全然全くこれっぽっちもソナコトナイ」
鬼のような形相でにらまれたせいで、思わずカタコトになっちまった。
「じゃあ目合わせろやぁ!!」
「ひぃぃい!!!」
こ、殺される!! ………………あれ? 何にもされない?
頭を抱えて、床に伏せていたが、恐る恐る少しだけ顔を上げてヒュートの方を見てみる。
すると、ヒュートはブチギレて殴りかかってくるでもなく、ただ顔を真っ赤にして俯いていた。前髪が長く、さらには俯いているため表情は良く見えないが、少なくとも怒ってはいないようだ。
あれ? さっきは怒ってるように見えたけど、もしかして照れてただけ?
「はっず……」
「ピュアか!!」
ちょっと怖そうかなとか思ったらこれだよ!
このギルドには、まともな奴は1人もいないのか!!
……って、あれ?怖い人じゃなかったなら別によかったのか?
「お前、名前は?」
「や、大和真宗――」
「言いふらしたらコロス」
「あ、はいわかりました」
また、いらぬ心労を背負ってしまった。まぁいいか。言わなきゃいいだけだし。
「おい。ちょっとついてこい」
そう言われた矢先、腕を掴まれてどこかに連れていかれる。あっ、やっぱり勝手に見たこと怒ってたんだ。どうしよう。痛いの嫌なんだけどな。
♦︎♦︎♦︎
そんな俺の予想には反して、連れてこられたのは質素な小部屋だった。
「ここは一応仮眠室なんだが……まぁ、宿と併合してるここじゃ、ほぼ空き部屋みたいなもんだ」
「で? こんなところに連れてきて一体――」
「単刀直入言う。どうすれば好きな人に振り向いてもらえるか教えてくれ!! お嬢の旦那のお前にしか頼めないんだ!」
なーんか、ついさっきも似たようなセリフ聞いたな。それも、こいつに惚れてる奴から。
セリカの旦那って、安全安心のブランドか何かなのか? ……そもそも、まだ旦那じゃないけど。
なんか、あれだな。面倒くさいし、両思いだから告白しちゃえよ。って言いたい気分だわ。
ま、面白くないからそんなことしないけどな。
それに、こういうのは初対面の第三者から告げられるより、自分達で気づいた方がいいと思う。
ってか、面白そうだし見守っててやるか。
「ふっふっふ、そういうことなら俺に任せろ! 間を取り持ってやるよ!」
「ひゅう! そう言ってくれると思ってたぜ! なぁ、アニキって呼んでもいいか?」
「よせやい。真宗でいいよ」
はっきりと言おう。俺は調子に乗っていた。こんな性分だから、人に頼られるなんて、ゼロとは言わないが、ほとんどなかった。
セリカから、シーシャのことを頼まれたこともあり、断る理由もないしな。
そうして、来週末にまた仮眠室で落ちあうことを約束し、意気揚々と別れ、部屋に戻ったところで気づく。
「やばい。そういや俺、恋愛経験なんてねぇじゃん」
人生は基本、調子に乗るとロクなことがないなと再認識したとある夏の日だった。
………………………………………………………………
To be continued
あ、ども。2週間以上も投稿がなかった男、雅敏一世です……
《以下、投稿が遅れた言い訳です。別に読んでも得することはありません》
これには、別に深くないけど重大な理由があるのですよ!雷刃以降の勇者の話って、この後にメインの話が控えてるのもあって、構想が浅かったんですよ!
実質ゼロからお話を作っている状態なので、普段と同じ投稿ペースを守ると、クオリティが落ちてしまいそうで怖かったんです!
というわけで、今回は長くなってしまいましたがこれにて失礼!
また会いましょー♪




