新章41 ヒルデガルド
NO.57ヒルデガルド
3年前……大陸全土を巻き込むとある戦争が起こった。
俗に、第3次領土統合戦争と呼ばれるその戦争では、数えきれないほど多くの悲劇がもたらされることとなる。
代々、南方帝国においては皇帝の代替わりごとに他国に対して領土拡大を目的とした戦争を仕掛ける。という傍迷惑な風習があるのだが、こと第三次領土統合戦争においてはとある宗教団体が便乗してきていたため、その被害は過去最悪とまで言われている。
雷刃の前任、先代『傲慢』の勇者が命を落とし、鬼丸が呪いを受けたというのはその被害の内の一部に過ぎない。
ただ、大陸の東側に位置する東方共和国……通称『東共』にとっては、戦後こそが悲劇だった。
それまで中立の姿勢を保っていた3魔王の1柱『主恩』のヒルデガルドが突如として反旗をひるがえし、東共の首都を占拠した。
南方帝国以外で締結されていた、相互不可侵条約が仇となり、そのままの状態で各国が手出しできないまま、3年という月日が流れ、今に至る――
「ってのが、ヒルデガルドと、今の東共が置かれている状況だよ」
「やべーじゃん」
えっ、東共って今そんなやばいことになってたの?紅茶飲みながらゆっくり聞くつもりだったのに、思わず聞き入っちゃったじゃんか。
そういや、門番に扮してた時のシルヴァも、一度出たら戻れないって言ってたな。
あのときは、意味わかんなくて大丈夫だって言っちゃったけど……もし、あの時の門番がシルヴァじゃなかったって思うとゾッとする。
「なーんでじいちゃん、そういう大事なこと教えといてくれないかなぁ」
「じいちゃんがテキトーなのは、今に始まったことじゃねぇだロ」
『いやぁ、忘れてた。わりぃわりぃ』悪びれずそう言い放つじいちゃんが脳裏に浮かび、俺と雷刃は盛大にため息をつく。
ま、雷刃の言う通り、じいちゃんがいい加減なのは今更だな。ってか、毎日やっていたあの座学は一体なんだったんだろうか。
「そういえばさ、バルトが使ってたあの薬って、結局何だったんです?」
「バルト? あぁ、ゾラークのリーダーのこと?」
「そう、そいつ!! ……いでっ」
うろ覚えのクロスを、ティースプーンで指すと雷刃に手の甲を叩かれた。雷刃って、普段の言動からは想像できないけど、意外とマナーとか厳しいんだよなぁ。
「となると……あっ。薬って、あの押収されたやつのことか! あれなら、もう検査結果は出てるよ」
「なんだったんだ?」
「人の血」
「…………は?」
いつもみたいにふざけているだけかと思い、クロスの顔を見つめるが、どうやらそういうわけではないらしい。
「最初に検査結果を聞いた時、僕も耳を疑ったんだけどね。いくら精査しても、人の血ってこと以外わからないらしいんだ」
クロスは、困り顔で座っている椅子をくるくると回している。
こいつ、いちいち行動が子供っぽいよな。それも含めて、クロスはまだまだ謎が多い。『歴代最強』とか呼ばれてるグリムを、ワンパンとかおかしいだろ。
「そもそも、誰の血なのかも、なんであれを飲むとドーピングみたいな作用があるのかもわかんないのさ。ってなわけで、今のところ手がかりは何にもなし!」
クロスは、「お手上げだよ」とこぼしながら、上に向けて伸びをしている。
「けっど、悪い知らせばかりじゃないんだよ。今回、ゾラークの一件に、ヒルデガルドが関与してることがハッキリした。つまり――」
「つまり?」
「ギルド、ひいては、西公に対する明確な『敵対行動』なんだ。この事実さえあれば、相互不可侵条約を向こうが先に破ったことになる」
ん? 不可侵条約を向こうから破ったってことは……
あっ! そうか!!
「こっちからヒルデガルドに攻撃できるってことか!!」
「そゆこと。まっ、しばらくは様子見になると思うから、実際に作戦立てるのはまだ先だけどねん」
そっか……まぁ、流石に思い立ったら即行動! ってのは無理があるんだろうな。
ヒルデガルドが国の中枢を牛耳ってるなら、かなり大規模な作戦になるだろうし。
「今回言いたかったのはこれだけ! ふたりとも、せっかくの休日に呼び出してごめんね」
手を合わせて、謝ってくるクロスの言葉をきっかけに、俺たちは解散することになったのだった。
「これくらいなら全然大丈夫っすよ」
「そーだゾ、ギルマス。おかげでマサにも会えたしナ」
こいつ、どんどん遠慮がなくなっていくな。
♦︎♦︎♦︎
「おかえりなさい。真宗くん。私と……い・い・こ・と☆しない?」
「しない」
もっと遠慮がなくなった変態が、部屋におったわ。
「えー!! さっきの、『そういうのは2人きりの時でな』って、そういう意味じゃないの!?」
「んなわけねぇだろ! バッカじゃねぇの!?」
こんの頭ん中花畑が……
ここまできっぱり断っても、セリカはまだブツブツと文句をこぼしている。
「そういうことは、結婚してからな!! まだ早いんですぅ!」
「そんなことないもん!! もうキスだってしたんだし、そろそろその先があってもいいと思うの!!」
「どんな理屈だよ!! そもそも、宿暮らしなのに子供ができたりしたらどうすんだバカ!!」
「バカじゃないもん!!」
「バカだろうが!! そもそもなんで勝手に部屋に――」
数分後……
「「ぜぇぜぇ」」
つ、疲れた……だめだ、かなり低レベルな言い争いをしてしまった。
「「ぷっ、あっはははは!!」」
息を切らせながらお互いの顔を見合うと、笑いを堪えきれなくなった。
ただ、それはセリカも同じだったらしく、声を揃えて爆笑してしまう。
セリカの言っていた通り、こんな関係も悪くないかもな。
そんなことはないと思いたいが、着実に毒されている証なんだろうか……
「なんか、喧嘩して笑いまくったら腹減ってきたな」
「だね」
「よっしゃ! リズたちも呼んでなんか作るか!!」
「名案だよ! それ!! じゃあ、私はイナちゃんたち呼んでくるね!!」
セリカはパァッと顔を輝かせ、ドアを開けて出ていった。
「はぁ、我慢するこっちの身にもなれっての」
あいつ、俺がクズ野郎だったらどうしてたんだよ。
……あぁもう。顔あっつ。
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To be continued
どもども皆さん、あじゃぱるら!雅敏一世です♪
今回はコメディ増し増し回となっておりますが、いかがだったでしょうか?ここ最近、真面目な回が多かったので、書くのに時間がかかってしまいました。
若干のお下ネタが含まれておりますが、処女作故、探り探りのためお許しください。
このくらいなら全然大丈夫だよという方は、ぜひいいねで押してくれると嬉しいです♪
ではでは、また会いましょー!




