新章38 扉を開けた先は、不思議な世界でした
NO.54 扉を開けた先は、不思議な世界でした
その光景は、あまりにも現実とかけ離れていた。
遠すぎて見えないほど高い天井。そして、無数に乱立するこちらもまたどこまで続いているのかもわからないほど背が高く、幅も数メールある本棚。
こんな状況下ですら襲われないだけましだと思ってしまうあたり、感覚麻痺してきてるなぁ、俺。
ハシゴもないのにどうやって上の本取るんだよ。とか、いくらなんでも天井高すぎるだろ。とか。ツッコミたいことは腐るほどある。あるのだが……
さっきから、ティーテーブルの上で突っ伏している黒髪の女の人。あの人は一体なぜこんなところで寝てんだ?
ってか、俺さっき結構派手に転んだのに全然起きる気配ないな。
いや、よく見たらあの一角だけ畳が敷いてあるし、ティーテーブルに置いてあるのはティーカップじゃなくて湯飲みだ。
ツッコミどころ多すぎだろこの人。
「……ん。ふわぁぁ、よく寝たぁ」
俺の頭が、押し寄せる膨大なボケを頭の中で処理していると、先程まで爆睡していた女の人が鮮やかな黒髪を揺らしながら大きく伸びをする。
そのまま、俺に気づく素振りもなく、掛けていたぐ渦巻き模様のメガネを持ち上げて、目を擦っている。
そして、寝た。それはもう綺麗な二度寝だった。
背筋をピンと伸ばし、凛とした佇まいからは、一種の芸術性すら感じられるほどだった。しかし悲しいかな。これはただの二度寝である。よくよく見ると眼鏡はずれ、よだれを垂らしている姿には芸術性もへったくれもない。
「いや、伸びまでしたなら寝るなよ!!」
「ひぃい!! ごめんなさい!! …………って、あれ? なんでここに人がいるの!?」
やっと気づいたらしい。それもワンテンポ遅かったけどな……
そして、女の人は気づいたと同時に戦闘態勢と言わんばかりに立ち上がった。
「勝手に入ってきたのは悪かった!けど事情があるんだ!カクカクシカジカで――」
「ふんふん。なるほど、要するに追われてるから匿ってくれってことだね? それくらいならお安い御用だよ!」
女の人は、そう言いながら胸を叩いて承諾してくれた。よかった。わかってくれたみたいだな。けどちょろすぎない?
ちょっと心配なんだけど。
「話が早くて助かる。って、名乗ってもなかったな。俺は大和真宗だ」
「真宗くんか。いい名前だね。ボクは麗奈。よろしく」
挨拶を返しながら差し出された小さな手を握り返す。
「いやぁ、びっくりしたよ。まさか人がここに入ってこれるなんてね。鍵の開け方すごい複雑なはずなのに、なんでわかったの?」
そういえば、ドア開ける時迷わなかったな。なんでだ?
「俺もよくわかんね。ま、すげぇ勘が冴えてたんだろ」
「勘とかそんなレベルで解けるものじゃないんだけどな……まぁいいや。こんなことそうそう起こらないんだし」
女の人――麗奈は、いじけたようにそう呟きながら、座り直して自分の髪をいじっている。
「ま、いいから座りなよ。今抹茶淹れてあげるから」
「じゃあ、お言葉に甘えていただこうかな」
……って、え? 抹茶? ティーテーブルに加え、ご丁寧にパラソルまで用意してあるのに、抹茶? 確かに、湯呑みが置いてある時点で嫌な予感はしてたけど、雰囲気台無しになるだろそれ。
混乱しつつも、促されるままに丸いティーテーブルの麗奈の反対側にあるイスに座る。
「なぁ、ここってどこなんだ? 色々おかしい気がするんだけど……」
実際、本が空を飛んでたり、照明らしいものは見当たらないにも関わらず、明るかったりとおかしな点は山ほどある。
「ヒ・ミ・ツ♪その辺は追々わかると思うよ。……ただ、1つ言っておくなら図書館ってところかな」
「それは見りゃわかる」
つまりは何も言うつもりはないってことか。
まぁ、無理言って聞き出すほどのことでもないし、別にいいか。
「ほいさ、抹茶がはいりましたよっと」
「おっ、ありがとう……って、美味っ!! 麗奈さん、抹茶淹れるのめっちゃうまいな!!」
「そ、そう? いやだなぁ。褒めても何も出ないよ?」
そう言ってクネクネしている姿はちょっとどうかと思うけど、抹茶は本当に美味い。ここまで美味いのは初めて飲んだかもしれないって程だ。
ティーテーブルに抹茶とか、ところどころ違和感はすごいけど、それを吹き飛ばすくらいのうまさだな。
「そこまで喜んでくれると、こっちも淹れた甲斐があったってもんだよ。あ、クッキー食べる?」
「いただきます」
何故この人はこうも和洋折衷にしたがるのかはわかんないけど、めちゃくちゃいい匂いがしたので思わず即答してしまった。
うーん! やっぱりこっちもおいしい!!主張が激しすぎない素朴な甘さが、渋めの抹茶と相性抜群だ。
側から見ればどうかと思う組み合わせだけど、お互いが邪魔せずに良さを引き立ててる。クッキー、紅茶と、交互に口にすれば、一生食べてられるんじゃないかと錯覚しそうになる。
「いやぁ、こんな風にもてなすなんていつぶりだろう……それこそ、鬼丸くんが来てた頃以来になるのかなぁ」
ん? 今この人鬼丸って言ったか?
「じいちゃんのこと知ってるのか!?」
「あ、やっぱりか。さっき大和って言ってたから、もしかして、と思ったんだよ」
麗奈は、してやったり。と言いたげな顔でスタイルに対しては小さいとも言える胸を張っている。
「昔、ギルド繋がりで鬼丸くんがこっちに来てたことがあってね。その時、今回の真宗くんみたいに解錠方法を当てられちゃったんだよ。やっぱり血筋なのかな?」
心底面白そうにクスクスと小さく笑っている麗奈を見ていると、正直この珍妙な状況を忘れそうになるな。
「ってか、その言い方だと、麗奈さんもギルドと繋がりありそうだな」
「そりゃあ、ボク勇者だからね」
そっかー。勇者だったのかー。だったらギルドと関係があって当たり前――
「って、はぁ!? ゆゆゆ、勇者ぁ!?」
「そっ、ボクが『嫉妬』の勇者。麗奈様だよ!改めてよろしくね。『逢魔』真宗くん」
後になって思えば、この時から俺の運命は大きく動き出したのかもしれない。
右手で作ったピースサインを、同じく右目の前にかざし、決めポーズをとるこのふざけた勇者との出会いが、この先俺の人生を大きく変えることになるとは、この時の俺には想像もつかなかった。
…………………………………………………………………
To be continued
どもども、1日遅刻の男(?)雅敏一世です!
さてさて、今回は重要そうに見えてそうでもないかもしれない回となっております。ん?それじゃああとがきの意味ないって?いやだなぁ、そんなの元からですよぉ(笑)
ではでは、本日はこの辺りで失礼します。
また会いましょー♪




