新章21 手を差し伸べる理由
NO.37手を差し伸べる理由
「ごめんちょっと何言ってるかわかんない」
俺の心境は、困惑。この一言に尽きる。この土壇場でいきなり何を言い出すんだこいつは。結婚? なんで今その単語が出てくるんだよ。全くと言っていいほど戦闘とは無関係だろ。
「ち、違うの!! えっとね、えっとね。言う順番間違えちゃったの!!」
言う順番?ますます意味がわからなくなってきた。しかし、混乱しているのは俺だけではなくセリカも同じらしく、パタパタと両手を振りながら目を回している。
……ちょっとかわいいな。小動物みたい。
「この状況を変える方法がね? 私と真宗くんが契約することなの。それでね? そのために――」
「そのために、結婚する必要があるってことか。」
多少の急から、半ば食い気味に確認を取ると、セリカは嫌な顔をするでもなく、鷹揚に頷く。
「そう言うことなの。交わす契約の内容は、私と真宗くんの魔力最大値。そして、私のスキル『暴食』の共有……なんだけど、これほど大掛かりな契約になると、パートナーと離れられなくなるの」
「それで結婚の話が出てきたわけだな……とはならねえよ! 離れらないってどう言うことだよ!!」
肝心の雑な説明をしてくれた張本人は、何がわからないか分からない。といった風に顎に指を当て小首を傾げている。
「離れすぎるとばくはつするだけだよ?」
「爆発するだけだよ? じゃねえよ!! ……はぁ。まあいい。そこは飲み込もう。けど、一個聞きたいことがある」
「何?」
「すきるってなんだ?」
「へ?」
セリカがそこを聞かれるとは思わなかったとばかりに間抜けな声をあげる。そして、驚きのあまり取り落とした杖を拾って渡してやる。
なんとなーくはわかるんだけど、確信はないから一応聞いとこうと思っただけなんだけどな。
「あ、ありがとう。スキルっていうのはね? 簡単に言うと特殊能力のこと。今は説明してる余裕はないから、帰ったらギルマスに聞いてみてね?」
なるほど。超能力的なアレと見て間違いなさそうだ。
「やっぱり、私みたいな女の子とじゃ、いや?」
上目遣いにセリカが聞いてくる。というか近い!! こちとら、里出てから女子との面識ほとんどないんだっての!
「い、嫌なわけないだろ」
「え?」
嫌と言われると思っていたのか、驚いたように声をあげ、目を輝かせる。やめろよ、その顔。今さら断れない雰囲気になってくるだろ……まあ、最初から断る気なんてなかったけど。
「だから。あんたとなら結婚してもいいってことだよ!馬車の中でのちょっとの間だったけど、あんたといた時間はその……悪くなかった」
「真宗くん……」
これは俺の本音だ。俺は見た目に関しては、まあいいに越したことはないとは思うが、別にそんなに気にしない。
少なくともそこだけに固執するほど貧相な生き方はしていないつもりだ。じいちゃんがそう育ててくれたからな。
その点、セリカは信用できる。本当に数時間の付き合いだけど、人生を預けるに足ると判断できるほどにいいやつなのだ。
さっきだって、自分の気持ちを押し付けるのではなくまず俺の気持ちを聞いてきた。まあ、多少卑屈なだけかもだけど。
「それに、契約ってのをすることで全員の生存率が少しでも上がるってんなら。手遅れになる前に賭けてみる価値はあるだろ?」
「うんっ!!」
ぐっ。こいつこんなにかわいかったか?ま、まあ今は別にいいか。
「じゃあ、契約の儀式を始めるね? 基本はこっちでやるけど、最後だけ真宗くんの協力が必要なの」
「おう、まかせろ! ……で、何すればいいんだ?」
「私が最後に言った言葉を復唱して欲しいの」
「なんだ、そんなことか。わかった」
セリカは早速目をつぶって何かの詠唱をしている。
「ってなわけで悪い! シルヴァ!! もうちょっとかかる!」
「何がどういうわけかわからんが、早くしてくれや! もう持たねえぞ!!」
うん。大丈夫そうだな。……と、足元でゴソゴソと音がするので見てみると、リズが立ちあがろうと地面に腕をついていた。
「おい。まだ魔力戻ってないんだろ? じっとしとけって!」
「うるせえ。てめえに守られるくらいなら、ここでくたばった方が……マジだ」
「何言ってんだよ!! こんなとこで死なせるわけないだろうが!」
「うるせえって言ったのがわかんねえのか! 何にも知らないくせに、でしゃばってくんじゃねえ!!」
リズの声は切実であり、まるで何か感情を押し殺しているような。怯えているような。そんな声だった。
「何にも知らないから、知らないまま死なせたくないんだろうが! 馬鹿じゃねえのか!?」
そのまま、うつ伏せで寝ているリズの胸ぐらをかがみ込んで掴み、持ち上げる。
「いいか? このまま誰も死なせない。お前もだ!」
「んで……なんで……」
相当辛いのか、リズの声がいつになく弱々しい。
「理屈はわかんねえけど、お前とは友達になれそうな気がするんだよ。だから……これが終わったら話してくれ。なんでお前が、いつもそんなに苦しそうにしてるのか。何もかも。全部さ」
「…………わかった。俺の負けだ。好きにしろ」
そう言って、リズは降参とばかりに両手を挙げる。
よし! リズをそっと地面に下ろし、再びセリカに向き直る。
儀式とやらもそろそろ終わりそうかな?
「私の全てを、今ここで君に捧げます……はい、真宗くん!!」
きたか! えっと、確かこう言ってたよな?
「今ここで、俺の全てをお前に捧げる!!」
「うん。契約成立だよ。じゃあ、いってらっしゃい。旦那様」
なんかムズムズするな。その呼び方。けど、今言うべきはそれじゃない。いってらっしゃいと言われて返す言葉なんて一つしかないからな。
「いってきます!!」
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To be continued
どもども、今回特に言うことがない男。雅敏一世です!
3100pv達成。ありがとうございます。あ、言うことありましたね。
今回は、ヘタレつの核に関わってくる重要な話となっております。伏線が散りばめられていたりいなかったり。
ではでは、余計なことを言い出す前に作者は退散しますよっと。
また会いましょー
 




