夏休みの始まりに side成田
まずアンタ誰?てとこから始まると思うので自己紹介。
はじめまして。成田由依です!
どこで出てきたかというと。学校祭のとこでちょこっとだけ出てきたの。
そう、風巻くんに話しかけたけど撃沈した、あの女よ!て、ちょっと待った!撃沈なんてしてない!
私は中学の頃は学校で成績トップ。ただ、見た目がとっても地味子ちゃんだったの。二つに結ったおさげですごーい分厚い眼鏡かけてて、スカートは膝下。眉毛も揃えてない感じ。ただ、顔はそこそこだと思う。うん。そこそこ。
でもね、この高校に入学した日に出会ってしまったの。王子様に。ほんと、もう、言葉にできないくらいのイケメン!いや、イケメンとかそんな辛いものじゃないの。
コホン
それで、入学式の日のうちに眼科に行ってコンタクトにした。そしてありったけのお金を持って化粧品店に行って眉毛揃えてもらって、化粧品も揃えて。で、最後には美容室。生まれて初めて行った。綺麗なストレートボブにしてもらった。いつもはお父さんの理容室に行ってたんだけどね。あのアワアワしたお髭剃るやつ、好きなんだけど、綺麗になるには致し方ない!
話は戻って今日。講習会が始まった。学年の成績は、皆知ってると思うけど私実は5本の指に入るんだから。もちろん、風巻くんと同じコースにしました。あらかじめリサーチしたからね。
これで毎日、風巻くんに会える!
と、思ったんだけど。
風巻くんの隣の席が、あの悪名高い「土端」だったの。あの女、綺麗なのは認めるけど全然風巻くんには合わないし、漫画や小説で言ったら完全に悪者よ。私がヒロインでしょ。いつか絶対彼女の座をものにするわ!
まてまて。脱線してるわ。
講習会が始まって、少し遠いけど確実に風巻くんの横顔が見える席で本当に良かった。
ほうっ、とつい声が出ちゃう。
それも束の間。講習会が始まった途端に見つめる時間なんて無くなってしまった。
え?早くない?ちょ、何その問題。むずくない?え?
全くついていけない。先生はシュッシュ黒板消すし、写すので手一杯。なのに当てられる。ちらりと風巻くんを見たら涼しい顔して解いていた。
カッコいい!!
やばい。これはついていけるように頑張らなきゃ、と昼ごはんの時間も返上して講習会が終わるまで勉強した。
「はい、ここまで。明日は……えっと、化学か。教科書を忘れないように。おつかれ」
先生の号令と共に皆立ち上がって帰る準備をしはじめる。私はそそくさと荷物をカバンに詰めた。
風巻くんと帰ろう!そう思ったらすでに風巻くんはいなくなっていた。
まじかよ!
だけど、机の中のものをカバンにしまって帰り支度をする土端の姿はあった。ライバル、にすらならないけど。敵が何考えてるか探るチャンスだわ。
「土端さーん!」
土端はこちらをちらりと見ると、ふわりと天使のような笑みを浮かべた。
「あっ、あのさ。一緒に帰らない?」
「いいわよ」
あれ?嫌がられると思ったけど。
周りの噂から最悪の性格かと思っていたので、私は拍子抜けした。裏ではほとんどの人が土端を魔女と呼んでいるから。
すっごい、緊張する。
教室を出て靴を履き替えて、私は土端と2人で駅までの道のりを歩いた。学校から出るときも、その後の道も、すれ違う人々は土端に見惚れていた。
たしかに、綺麗よね。私だってそれなりに可愛いと思うけど。
しばらく何も話さず口を閉ざしていたけど、勇気を出して声をかけてみた。
「つ、土端さん」
「ん?」
「風巻くんとはどういう関係ですか?」
ひいいい!単刀直入に聞きすぎた。
土端の優しい表情がふっと消え、代わりに意地悪な笑みが浮かんで足を止めた。
「どうであってほしい?」
「え?」
「ふふっ。冗談。成田さん、風巻くんのこと好き?」
「ええっ!?」
つい変な声が出てしまった。多分顔が真っ赤になってる。返事ができず口をパクパクしている私を尻目に更に土端は話し始めた。
「こう言ってはなんだけど、釣り合わないと思うわ」
あ、……この子やっぱり嫌な子だ。
「見た目だけでしょ?風巻くんを好きな理由って。・・・彼の本質知らないで簡単に好きになるのは良くないと思うわ。成田さんが危ない目に会うだけよ」
「だったら、土端さんは知ってるの?」
ついムカっときて声を張り上げてしまった。
だって、見た目も好きだけど、でも風巻くんの内から溢れる気品さとか、優しさとか、声とか、全部好きだもん。
土端は驚くこともなく私を見つめた。紅い瞳が長い睫毛の向こうから現れ、口を開きかけた。
「百華様」
突然背後から声が聞こえ、私はびっくりして振り向いた。すらりとした高身長の男がスーツ姿で立っていた。
「そろそろ時間です」
「そう。……では成田さん。また明日」
持っていた荷物を男に渡すと、土端は道路に止めてあった黒塗りの車に乗り込んだ。
え?