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駒鳥たちの勘違い side徳原

『親分、本当にこのガキンチョを人間界に送るんですかい?』


 汚らわしい世界。生き物とも思えない醜い化け物が俺を指差しながら何か言っている。ドロドロに溶けた指先、鼻をつまむような異臭。ここは本当に最低だ。


『そうさな。人間界に神の子がいるって言うじゃねえか。アレを喰らえば俺も女狐大魔王みたいに強くなれたりしてな』


『『ギャッギャッギャッ!』』


 親分と呼ばれた男は他の化け物たちとは少し違った。削れ落ちた岩で適当に作った玉座にどんと腰を下ろし俺を見下ろしている。見た目こそ人の形をしているが、やはり他の化物と同じ汚らわしい。かろうじて服に見えなくもない汚い布を身に纏い男は俺をニヤニヤと見つめている。認めたくはないが、こいつが俺の親父だ。

 物心つく頃には既にお袋はいなかった。汚い水面で何度か確かめた自分の見た目はおそらくお袋譲り。親父たちとは違いまるで普通の人間のように育った俺をここの化け物たちは馬鹿にした。

 親父は口こそ荒々しいが見た目は少年のようだった。インキュバスという種類の魔族である親父は愛らしさで売っているらしく、人間の女はそんな親父を可愛いと部屋に招き入れてしまうらしい。その後は女と契約して夢をいただく。俺はこんな親父みたいな可愛らしさはない。


『よし。今日からお前はハジメだ。適当にコセキとやらを作ってやるから神の子を俺の前に連れてこい。そうしたら出来損ないのお前のこと少しは認めてやるよ』


「……」


『まあ、帰ってこなくても良いぞ。お前みたいな弱虫、いなくなった方が清々するってもんよ』


 暗に出ていけと言われているようなものだ。

 願ったり叶ったりだ。仮に神の子を手に入れても俺はこいつらになんて絶対やらない。俺のものにしてコイツら全員従えるくらい強くなってやる。


 気がついた時、俺は人間界にいた。8畳ほどのワンルーム。生活必需品は整っている。テーブルに置かれた戸籍謄本。見たことのない人間の親、兄弟の写真。コイツらは本当にいるのかも定かではない。

 そんなことはどうでも良い。俺は晴れて1人になった。

 人間として忍び暮らし、神の子を手に入れる。





「そのねじ曲がった性格は治んねえな、クソ野郎」


 神の子である土端をからかっていると突然声をかけられた。今朝、からかった大魔王の息子である風巻だ。俺はコイツに力を奪われた。なけなしの魔族の力を。

 初めて対峙した時にはもうわかっていた。コイツには敵わない。

 親父が願った通り俺はもう帰ることができなくなった。魔の国の瘴気に当てられて平気な人間なんていやしない。

 別に未練もない。あんなドロドロの臭いところ。見せかけの戸籍でも俺は人間界にいられる。金だって必要なものは最低限ある。高望みさえしなければ真っ当に生きられる。魔の国にいるよりもずっと。


 風巻に払われるまま俺は校内に戻った。昼休みも終わりに近づいているのに生徒たちはのんびり過ごしている。

 魔族の力がなくなろうとも俺の見た目は変わらない。少しやんちゃな俺の風貌がお気に召す女なんてごまんといる。通りがかるだけで頬を赤らめて避ける女、話しかけてなんとか仲良くしようとする女。どの連中に対しても俺は平等に笑顔を振り撒く。それで嬉しいのなら俺にとっても不利益ではない。

 魔の国と人間界は同じだ。瘴気がないだけで同じように腐っている。


 特に行く宛もない俺は教室に戻ろうと階段を上がった。踊り場を通り2階に向かおうとしたところ。突然書類の波に襲われた。目の前から大量の紙が舞い降りる。というより、雪崩に近い。俺は驚いたが、紙の向こうから落ちてくる人影を見つけて咄嗟に手を伸ばした。人影は遠慮なく俺の上に覆いかぶさり、そのまま俺も床に倒れた。幸い頭は打たなかったが、腰はかなり痛い。


「いっ……」


「ひい!ごめ、ごめんなさい!……あっ、徳原くん」


 俺の上に跨ったまま顔を抑え慌てる女。成田はブンブンと顔を横に降り力の限り謝り、そして俺を見るなりなぜか安堵していた。


「よかったぁ、徳原くんで。知らない人だったらどうしようかと……」


「成田さん」


「ん?」


「とりあえず、下りてもらっていいかな」


「あー!う、ごめん!」


 成田は飛び上がるように立ち上がると俺の方へ手を伸ばした。俺は意味がわからず張り付いた笑みを浮かべながら首を傾げた。


「なに?」


「あ、いや。立ち上がれるかなって」


「あぁ……大丈夫。そんなに柔じゃないよ」


 俺の言葉に安堵し、何故か頬を真っ赤にした。恥ずかしさからかパタパタと手で自分を仰ぎ冷まそうとしている。それで冷めるなら世話ないよね。

 打ち付けた腰をさすりながら俺は起き上がり、成田と並ぶように立った。自然と成田に視線が行く。


 ただのちっぽけな人間の女だ。土端のような神々しさも、風巻のような禍々しさもない。俺も人間になってしまった、この女と同じ、何でもない存在。


「やっぱり怪我しちゃった?」


 無意識に俺は苦笑混じりに笑っていた。それを見て成田はどこか痛めたかと勘違いしたのだろう。俺は「何でもないよ」と人懐っこい笑みを浮かべて首を横に振った。不安そうな成田を置いて俺は教室に向かって歩を進めようとした。


「徳原くん」


 すぐに呼び止められて俺は振り返り成田に向き直った。成田は俺を見ると心配そうな顔からふと柔らかい笑みを浮かべた。


「なんか徳原くん変わったよね」


「え?」


「悪い意味じゃなくて。なんて言うのかな、フツーになった、て言うのかな。転校してきた頃よりずっと生きやすそうだよね」


 俺は驚き絶句した。ただの人間である成田に俺がヒトになってしまったことなどわかりっこない。わからずとも本能がそう言ったのだろうか。もうヒトを穢すことはないと。

 黙り込んだ俺に成田は慌てて手を振った。


「ごめんごめん!変だよね。こんな言い方したらなんか前の徳原くんが……」


「化け物みたい?」


 俺の言葉に成田は息を飲んだ。自分の言葉で俺が傷ついたと思ったのか、不安げな視線は更に濃くなる。俺は首を横に振って笑った。


「無きにしも非ずかな。気にしないで」


 チャイムが鳴り、俺は成田を残し自分の教室に向かった。

 

 元々、風巻と同じ土俵にはいなかった。何にでも恵まれているあの男と自分を比べれば比べるほど情けなくなる。くだらない。

 プラスに取ろう。俺を縛るものはもう何もない。


11月29日(月)の週はお休みさせてください。次話からいよいよ核心に迫っていきます。

そのため、最終話まで駆け抜けられるよう準備して参ります。

次回の更新は12月6日(月)です。

コメントをくださる方、更新があるといらしてくださる方、ちらりと訪れてくださった方、皆々様に大感謝です。

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