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夏休みの始まりに

 学校祭での事件のあと、警察が来て難なく犯人は連れて行かれた。事情聴取を受けた風巻かざまき土端つちはしはあるがままの事実だけを伝えてことなきを得た。


 一学期の期末テスト。風巻と土端は同点を取り、毎回貼られる廊下の順位は共に一位だった。中間テストは風巻の一点差で勝っていた。


「夏期講習は目指す進路に合わせたものにする。各自進路を書いて提出するように」


教師は紙を配りあらかじめアンケートをとった。






 いよいよ始まった夏休み初日。

浮き足立つ生徒はほぼいない。県の中でトップのこの高校では、すでに先の進路のために時間を使う生徒がほとんどだからだ。


「おはよう、風巻くん」


 難関私立理系大学コースと分けられた教室に風巻が入ると、先に席に座っていた土端がひらひらと手を振った。入学当初からは想像もつかない土端の様子に風巻は怪訝な表情で見ると、軽く手を挙げるだけで黒板の席順を見にいった。


「ここよ、あなたの席は」


さらに土端に声をかけられ言われた通り隣の席になっていて大きくため息を吐いた。それ以上話をすることなく隣に腰を下ろす。


 羨ましそうに見る数人の男子の視線。

また、女子たちの土端を見る嫉妬の目。


 当の風巻、土端は気にするそぶりもなく、置かれているプリントの束に目を向けている。


講習が始まればそれに集中して話す余裕もなくなった。


「では、午前はここまで。昼休みの後もこの教室でやるから間違えないように」


教師の号令と共に悲鳴に似た声が学生たちから上がった。いつもの授業の数倍も難しい問題と進む速さが辛かったようだ。

学生たちはその教室から離れるように弁当や財布を抱え早々に出ていってしまった。残ったのは、講習に追いつこうとさらに勉強をしようとする数人と、風巻と土端だけになった。


 土端は自分の弁当をカバンから取り出すと、いつものように教室から出ることなく机に広げ食べ始めた。

風巻は、時間割の違う山本とのご飯は諦めていたため、カバンからコンビニのサンドイッチとイチゴミルクを取り出し食べ始めた。


「女みたいな食事ね」


「……今の世の中じゃ、女からの性差別も問題発言だぞ。何食ったっていいだろ」


「そーね。失礼しました」


悪びれる様子もなく簡単に土端は謝った。しばらく何も話さない時が過ぎて行ったが、ふと土端が口を開いた。


「あなたがいると、意地悪してくる女がやってこなくて助かる」


「相変わらず絡まれてるのか」


「あなたのせいで絡まれてるのよ。モテる男は大変ね」


「モテる女が何言ってるんだか」


お互いに顔を合わせることなく黒板に向かいながら淡々と会話を続けた。2人でこんなに話したのは初めてかもしれない。


 それ以上話が盛り上がることなく、昼休みは終わり講習会が再開され、そのまま1日が終わった。

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