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別れある月にまた

 卒業式。3年生は自分の教室や友との別れを惜しみ涙した。前会長である黒田は卒業生代表を立派に成し遂げ、在校生代表である現会長の風巻もまた大きなミスをすることはなかった。するすると卒業式は滞りなく終わり、黒田は両親を待たせ、生徒会室に最後の挨拶をしにきていた。


「えぇ、……グスン。皆、今日のこの日まで、本当に、ありがとう!僕はまだまだだけど、皆の力でここまでやってこられた。本当に、本当にありがとう!」


 1人感極まった黒田に対して、付き合いの長い3年生はぱちぱちと手を叩くだけで一緒に泣くことはなかった。1年生も3年生に続き、おとなしく拍手をしている。ただ2年生の成田だけが大号泣している。


「かいちょー!黒田かいちょー!ほんと、今までアビガボーございまびた!」


「なびだぐーん!」


 黒田は成田が涙してくれたことが嬉しくて、2人は固く抱きしめあった。

 その後、生徒会役員たちは卒業生と話したり、式場の片付けに出かけたり、それぞれが最後の時を楽しんでいた。

 土端は空っぽになった体育館を一通り見渡すと、生徒会室に戻ろうとした。すると廊下に黒田が背筋をぴんと伸ばし、花束を抱えながら立っていた。


「土端くん、少し時間もらえるかな?」


 黒田の仰々しい言動に土端は顔色一つ変えず頷いた。





 すっかり日も暮れて、在校生はおろか卒業生もほとんどが学校からいなくなった。

 風巻は他の生徒会役員を先に帰し、一人で後片付けをしていた。部活があったり、先輩たちと遊びに行ったり、それぞれに予定があるだろうと最後の片付けを買って出たのだ。

 締めていたカーテンを開け夕日が差し込み、風巻は自然と目を細める。帰ろうかと窓から部屋へ視線を移すとガラリと扉が開き、何処か清々しい表情の土端が花束を抱え入ってきた。


「なんだそれ」


「黒田前会長が」


「……ふーん」


 風巻は覚えのないイラつきを覚えた。普段の素っ気ない土端が黒田から花束をもらって喜んでいる、そう思ったからだ。でも風巻は表に出さぬよういつもと変わらない返事をした。

 対する土端はどこか嬉しそうにその花束を自分の机に置き、綺麗に包まれた包装紙を取ると花を机の上に広げた。迷うことなく戸棚から飾り気のない白い花瓶を取り出し、水を注いだ。そして引き出しから大きな鋏を取り出すと慣れた手つきで花瓶に花を挿していく。


 パチン、パチンと小気味いい音が生徒会室に響く。日暮れの温かな光と花を一輪ずつ整えていく土端の姿に風巻は見惚れてしまい、立ち尽くした。その視線に気づくと土端はあからさまに機嫌を損ね、チラリと睨みを利かせて風巻に視線を向けた。


「なに」


「……別に」


「さっさと帰ったら」


「戸締り任されたからお前が出ないと俺も帰れねえんだよ」


「あっそ」


 尤もらしい言い訳を風巻は当然のように言ってのけた。生徒会室には確かに大切な資料が多くあるが、カギをしめたあとは職員室に返しに行く。役員なら誰が最後に戸締りしようと教師に言われることはない。風巻の言葉がウソだと土端にはわかっていた。


 風巻はカバンを下ろすと近くにあった椅子に座り、行き場のない手は自然と近くにあった興味のない本を掴んでいた。パラパラと開き、字面を目で追うが風巻の頭に全く入ってこない。

 すると土端は手を止めることなくぽつりとつぶやいた。


「最近はどうなの」


「ん?」


「力が足りないとか。そういうのあんまりなさそうだけど」


「お前こそどうなんだよ」


「あなたに心配されるほどヤワじゃないわ」


「ふーん……」


 小さく笑った土端に風巻も同じように鼻で笑って答えた。互いに構うなと暗に伝えた形になってその後話すことはなかった。

 綺麗に活けられた花瓶を窓際に置き、二人は生徒会室を出た。風巻がカギをしめ終えたときには土端の姿はなかった。


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