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大魔王と神様⑤

「その半身様の力不足で私の息子は覚醒させられたって言い訳しにきたのか?」


 今まで隠されていた怒りが風となってアランの元へ吹き込んだ。ヘレンはまっすぐ見つめながらアランの答えを待っている。


「そうだとしたら、君は怒るんだろう?」


「ハッ、わかってんじゃねえか」


 アランの試す様な物言いにヘレンは呆れて殺気を消し、ふいっと視線を逸らして窓の外、城下町に向けた。はぐらかしてばかりのアランの常の言動を思えばそれ以上言っても無駄なことはわかっていたからだ。

 一発や二発は殴られるかと思っていたアランはヘレンの怒りがおさまってしまったことに内心驚いていた。今にも吹き荒れんとしていた風すらすっかり止んで、先程の穏やかな時間に戻っている。まもなく口火を切ったのはヘレンだった。


「知ってると思うけど」


「ん?」


「私は下級魔族のサキュバスで、伴侶が死神って呼ばれるほどの上級魔族だった」


 身の上話をし始めることも稀で、アランは戸惑うが黙って聞くしかない。ヘレンは感情を押し殺し淡々と話し続ける。


「息子……悠馬は、母である私のサキュバスの力と父である死神の力を色濃く受け継いでいる。人を魅了し、魔力を得るために人の命をとる。魔族らしいっちゃ魔族らしいけど、アイツは多分それに苦しむってのをわかっていた。わかっていて私は下界に堕とした」


 長い付き合いであるアランでもこんなに落ち着いたヘレンを見るのは初めてかもしれない。アランはいつもは元気でどこかガサツで暗い魔の国を照らすほど明るいヘレンに救われてきた。だからこそ目の前のヘレンの変化に、アランはきゅっと拳を握った。

 静かだったヘレンはくるりとアランに向き直ると漆黒の瞳は黄金に輝き、ギロリとアランを睨みつけた。


「もう一度聞く。なぜあの子の力を覚醒させた。お前のエゴだけならこの場で……」


 アランはふと息を吐くと負けじと強い眼光でヘレンを見つめ返しながらゆっくり話し始めた。


「いずれは目覚める力。君がただのサキュバスじゃない。魔族の力を奪う。だからこそ下級魔族である君が大魔王として君臨できている、そうだろう?」


「説明になっていない」


 ヘレンの言葉と同時に壁が軋む音が響いた。


「息子に人として生きて欲しかったんなら、何故力を奪わなかったんだい?君なら全てをとって堕とすこともできたのに」


「っ……」


 アランは変わらずゆっくりした口調で告げた。ヘレンほど力のある魔族が怒りにまかせて暴れてしまえば取り返しがつかない。それくらいアランは知っている。

 対するヘレンはその通りだと頷かざるを得ないため、言い返す術がなかった。黄金の瞳は漆黒に戻り、先ほどまで飲んでいたワインの瓶を握ると行き場のない怒りをアランの横のサイドテーブルに瓶を叩きつけることで収めた。パリンと高い音が響きガラスの破片が舞う。


「帰れ」


 低く唸る様に紡がれた言葉。これ以上アランをここに止めることを拒絶した。アランは困った様に笑うと光となって消えていった。


 ヘレンは再び外に視線を向けた。変わらない光景。変わらない暗さとマグマの明かり。


「何が満月だ。何が……」


 散らばったガラスの破片を無視してヘレンはベッドに倒れ込んだ。呟いた言葉は誰にも届かない。

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