昨日の敵は明日の
一週間お休みをいただきました。ここから2章完結まで通常通り更新してまいります。
「風巻くーん!」
修学旅行最終日の5日目。一行はバスに乗せられ空港についていた。昼の飛行機まで少しばかり時間があるため、空港内をそれぞれ友達同士で楽しんでいいと言うことになった。
風巻は山本と歩こうかと思ったが、早々に野球部の連中に連れて行かれてしまったため、1人広場で買ったいちごミルクを飲みながらぼうっとしていた。そこに何人かの女子を侍らせながら、目を輝かせて走ってきたのは徳原だ。風巻はあからさまに嫌だと言わんばかりにため息を漏らすとわざと背を向けて座り直した。
そんなことでは負けない徳原は女子に別れを告げて、近くにあった椅子を引き寄せると風巻の隣に座って顔を覗き込んだ。
「……なんだよ」
「暇そうだなって思って」
「あっちいけよ。うるせえな」
「えー?冷たくない?俺、山本くんよりは静かだと思うけどなぁ」
またがるように椅子に座り、背もたれに抱きつきながら徳原は風巻をじーっと見つめ続けた。その視線が鬱陶しくて、風巻は舌打ちをすると立ち上がってその場から離れた。一刻も早く離れたくて早足になっても徳原はついてくる。風巻は徳原に根負けして歩きながら声をかけた。
「何の用?」
「んー……そうだね。昨日さ、キミに何かされてから体がスッと軽いというか。その、飢える感じがなくなっちゃったんだよね」
「よかったな」
「あとね、俺多分、もう魔族じゃない気がするんだけど」
2、3歩先を行く風巻に追いつこうと少し駆け足に追い抜くと、徳原は風巻の前に立ちはだかった。風巻は自然と足を止めることになり、目の前の徳原に視線を向けた。
「で?」
「いや、なんて言えばいいかわかんないんだけど。人の夢、食べるのそんなに嫌いじゃなかったけど、辛いって言うか。いつも餌探し回ってる感じ?そう。力がなくなったのは寂しいけど、楽になったよって伝えなきゃって思って」
まとまりもない長い話を風巻は黙って聞いていた。徳原はようやく伝えられたことが嬉しくて「じゃあね」とだけ告げると走ってどこかに行ってしまった。
風巻はため息を漏らして近くにあったベンチに腰を下ろした。もう影も形もない徳原の言った方角を見ながら手に持っていたいちごミルクに口をつけて周りに行き交う人々を眺めた。すると、許可もなくトスンと土端が風巻の横に腰を下ろした。
「1人で何してるの?」
「別に」
「そう……」
土端が横に座ったことで遠巻きに見ていた親衛隊たちが目をぎらつかせたのを、土端は知っている。そんなことはお構いなしに土端は話し続けた。
「ねえ」
「ん?」
「どうしてあの時、付き合ってる風なこと言ったの?」
「あぁ……」
「……他の子にでもあんなこと言うの?」
たった数日の出来事だったが、風巻にとってみればとても前の出来事に感じられ、問われた言葉に暫く思案した。答えは既に決まっている。きょとんとこちらを見つめている土端に向き直ると、悪戯な笑みを浮かべた。
「なんだと思う?」
「は?」
「理由」
「こっちが聞いてるのよ。答えなさい」
「そうだな……」
風巻は知らない。親衛隊たちが風巻と土端の言動を注視していたことを。
睨みを効かせ凄んだ土端に風巻は小さく笑うと、ベンチに手をつき土端との距離を縮めた。そして、反対の手でそっと土端の頬に触れると、周りの賑やかさで土端にも僅かに聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。その言葉に土端は顔を真っ赤になって飛び上がるように立つと、風巻の手を払い除けた。
「ばっ、ばっかじゃないの!?」
「そうか?」
「はあ!もう、お礼言いにきたのに。知らない!」
土端の大きな声に親衛隊はもちろん周りの客たちが2人を気にしている視線にすら土端は恥ずかしくなって、すっとぼける風巻から逃げるように走り去っていった。
「風巻ー。あれ?今の土端さんじゃね?」
「あぁ」
「珍し。土端さんも走るんだな」
野球部の部員たちと離れて、両手がふさがるほどのたくさんのお土産を抱えた山本が走り去る土端とすれ違った。それを見送ると風巻に向き直って首を傾げた。当の風巻は楽しそうに笑いながら、山本の買ってきた土産を尋ね、山本は楽しげに紹介した。




