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神様の言う通り side風巻

ごめんなさい!次の更新は9月6日(月)を予定しております。

「嘘だろー!?今の取れたじゃん!」


 俺と山本は、風呂を済ませてホテルについてる簡易的なゲームセンターに来ていた。特に欲しくもないよくわからないぬいぐるみが入ったUFOキャッチャーにかじりついて数十分。言う割に山本も得意ではないみたいで、このヘンテコなぬいぐるみに3000円くらい投資していた。

 まあ、楽しいならいいかと俺も黙って眺めている。


 すると、突然キィーンと耳鳴りがした。いや、耳鳴りというより、なんだ、これは。聞いたこともない高い音が、鼓膜を揺さぶり俺は立っていられないほどになった。


「どうしたんだよ!?風巻?」


 山本の心配する声が聞こえる。でも、俺は耐えられず両耳を手で押さえてしゃがみこんで強く目を瞑った。おそらく山本には聞こえていない。というより、周りにいる数人の生徒たちも変わらない。俺だけにこの妙な音が聞こえている。理由はわからない。けれど、何かよくない感じがする。


 ほどなくしてその音はぴたりとやんだ。なんとなくだが音の発生源がわかった。ここから近い場所。大露天風呂と客室を繋ぐ、ホテルのロビー。脱衣所を出てすぐ横にあるこのゲームセンターからならすぐに行ける。


「風巻?」


 心配する山本の声に俺は顔を上げた。視線を合わせるようにしゃがみこみ、少しでも落ち着くようにと背を撫でてくれていた。山本のこう言うところが好きだ。損得なしに、出会った頃から俺と対等にいようとする。そう、損得なしに。

 俺は立ち上がるとしゃがんだまま見上げる山本の頭を撫でた。


「大丈夫、ありがとう」


「本当か?」


「あぁ」


「そっか」


 にへらっと笑いながら山本は立ち上がった。すると露天風呂から出てきた野球部の面々が山本を見つけるなり走り寄ってきた。山本も楽しそうに応対している。俺は山本に部屋に戻るとだけ伝えて離れた。さっきの音が気になったからだ。


 ホテルに備え付けのスリッパーのせいで歩きにくい。ほどなくして廊下を歩きながらすぐに異変に気づいた。ロビー近づくに連れ、人の気配がなくなっていく。大露天風呂と客室を繋ぐ場所であるはずのロビーに人気がないなんておかしい。


 すると、ソファに座っている数人を見つけた。だがその人たちはお互いに体を預け合いながら眠っている。ただ眠っているわけではないのは一目瞭然だ。額から白い糸がロビーの方へ繋がっている。


徳原の仕業だ


 ならば、さっきの音も徳原のせいかもしれない。そしてそんなことをする理由は簡単だ。近くに土端がいるということ。


「あなたのすべきことは、もうわかるよね?」


 突然俺の背後に気配を感じた。そして、かけられた声に振り向くと、そこには俺よりも少しばかり背の高い男が立っていた。薄茶色の長い髪を束ねず腰のあたりまでキレイにおろされている。白い装束に身を包んだ紅い瞳の男。


俺はこの男に会ったことがあるような気がする。


 誰だと尋ねようにも、金縛りにあったように体が動かず、そして声も出ない。おそらく浮世離れしたこの男のせいだ。

 男はにっこりと微笑んだかと思うとまっすぐ俺を見据えた。


「あの娘を、助けて欲しい。一見あの娘は完璧に見えるけれど、あなたよりもずっと力が不安定なんだ。本来なら人の世に神が住むことはあってはいけない」


 男は俺の回答など待っておらず淡々と話し続ける。出てくる言葉一つ一つが新しい情報すぎてついていけない。

誰が不安定だって?誰が、神……?


 ふと、学生たちが土端に向けて言っていた呼び名を思い出す。


魔女


 誰がつけたか、真逆の言葉だ。やっとわかってきた。俺が何で、土端が何者か。それは人から見たら真逆に見えている。願いを叶える俺が神で、人を焚き付け人が自ら叶えるように仕向ける土端は願いを叶えない魔のもの。

人に干渉したくなくて怯える俺と、干渉して力を得ている土端。


「僕は、あなたのことはどうにも好きになれない。自分の力に怯え、何も成し遂げようとしないあなたに、何の魅力があるんだろう」


 突然現れた男は、失礼な物言いで俺のことを貶している。誰かさんにそっくりだ。


「あなたを消してしまえるならどれだけ楽だろう。でも、僕の愛する人が……ヘレンが悲しむ姿を見たくはない」


 聞き覚えのない女の名前。男はどことなく悲し気に微笑んだが、首を横に振り再び俺を何の感情もなく見据える。


「話がそれてしまった。……もうわかるだろう、あなたの為すべきこと。魔族の彼から力をとっておいで」


 男は動けない俺に一歩、また一歩と近づくいては目の前に立つと手を伸ばし俺の額に手を当てた。すると、眩い光と共にほんのり温かさを感じた。ほどなくして男は手を離すと、またニッコリと微笑んだ。


「命をとるだけが魔族の力ではない。相手が誰であれ、何かを代償に願いを叶えてやれば、力を得られる。やってごらん」


 男は俺の後ろに回ると、そっと背中に手を当て軽く俺を押した。途端に金縛りのようなものは解け、俺は即座に振り向いた。だが男は既にその場にはいなくなっていた。

 癪に触る男だったけれど、幼い頃からずっと怯えてきたことが嘘のように晴々としている。十中八九あの男のせいだろう。


 知らないなんて嘘だ。ずっと俺はこの力のことを理解していた。人でありたい、普通でありたいと抗う自分をやめたらいいだけ。やることは決まっている。俺と同じ魔のものを……。


 俺はスリッパーを脱いで束ねて持つとそのままロビーにかけて行った。

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