一年目の学校祭 side山本
いよいよ待ちに待った学校祭。まぐれで入れたこの高校の勉強は全くと言っていいほどついていけないけど、風巻と連みながら遊ぶのは本当に楽しい。
中学の頃、転校してきた俺がいじめられていた時に話しかけてくれたのが風巻だった。クラスも一緒になれて、楽しむぞって時にクラスの出し物当番の時間がずれたのだけが想定外。
他のやつと遊ぶのも楽しい、けど。何も言わなくても面白いこと見つけてケラケラ笑えるのが風巻と一緒にいる一番の理由だ。なのになぁ。
なんて思いながら俺は、受付の仕事を淡々とこなす風巻の横で飴を咥えながら座っていた。
「なんで、風巻と当番の時間違うんだよー。つまんねえ」
風巻が返事をする前に、同じ野球部の仲間が数人、俺の頭をこづき立ち上がるように促す。
「別にいいだろ。ほら、俺たちと他巡ろうぜ。メイドカフェあるってよ」
「まじ!?」
忘れちゃいけないもうひとつ高校で楽しみなこと。彼女を作ること!まして、学校祭だからこそ見れる可愛い女の子達のかわいい姿を見ないわけにはいかない。
危ない、危ない。
風巻と遊ぶことで学校祭が終わるところだった。
その言葉にぴょんと立ち上がると野球部仲間を連れて1組の反対側にある6組まで走った。
「すげえ列だな」
「あぁ、これは入れんのか?」
ついた矢先、最後尾の看板を持つ男子学生に案内されて列に並ばされた。ちらりと教室が見え、中を覗くとふわふわのスカートを穿いた女子がたんまりいた。
「うわっ、うわっ!ブスもいるけどそれなりに可愛く見えんじゃん!やべえ!」
我ながら酷いことを言ってるのは分かってる。けど、けどな、実際ブスでも可愛い格好したら可愛いんだよ!全国の女子に言いたい。みんな可愛いんだぞ!絶対可愛いんだ!
溢れる興奮で自然と息が上がるが、すぐにそれをかき消す出来事が目の前で起こった。
「土端さん、ちゃんと参加してよ」
あからさまに機嫌が悪そうな声が聞こえた。メイド服に身を包んだ委員長タイプの眼鏡女子と、まるで西洋人形のような見た目の土端だ。薄茶髪を高い位置でツインテールにしてるから尚そう見える。
まあ、かわいいよな。知ってる。
土端は一応着替えたのだろうが接客をする気は毛頭ないようだった。眼鏡女子は何も答えない土端にため息を吐き、これから校内を回ろうとしていた男子から宣伝看板を取り上げ、半ば無理やり土端に押し付けた。
「もういい。これ持って1組まで歩いて戻ってきたら終わりでいいわ。……出来るでしょ?」
「出来るかじゃなくてやって欲しいんでしょ?きちんと頼んでよ」
「は?」
折角の妥協案を高飛車な言葉で返して、眼鏡女子はついにキレそうになっている。やばいじゃん!
「まぁまぁ!折角の学校祭じゃん!なかよくなかよく」
つい、中に割って入ってしまった俺。土端はちらりと俺を見ると、それ以上何も言わず看板を肩に預けながらその場を離れてしまった。
眼鏡女子はどこに向けたらいいかわからない怒りでフンと鼻を鳴らし、教室に戻ってしまった。
「つちはし、さんだっけか。あいつ」
仲間の1人がぼそっと呟いた。
「山本、知ってっか?あの女、魔女って呼ばれてるんだってよ。とにかくこえぇから関わんなよ」
関わるなと言われても、そういや風巻絡まれているよな。あいつは一体どうしたらいいのだろう。とぼんやり思った。
「次のご主人様どーぞ!」
案内人の男子生徒の声で我にかえった。自分の番が回ってきたのだ!メイドカフェに入ってからは楽しんで、思っていたことをすっかり忘れてしまってめっちゃ楽しんだ。