二年目の学校祭 side天界組
「学校祭ってのはこんなに楽しいのか!?ひゃっほー!」
「ちょ、お待ちください、だいまお……あ、ヘレン様」
人間界に降り立った大魔王、仮名ヘレンは長い黒髪をふわふわさせながら学校内の廊下を歩いていた。服はいつもの露出度の高いものとは一変、黒のワンピースに来賓用のスリッパーを履きながら、小さな手提げ鞄を持っている。見た目は20代前半女子である。はたから見ると一般の外国人観光客が紛れ込んだようにしか見えない。
その後ろからは角をフードで隠し、真っ黒なパーカーとジーパンを履いたおっさん、もとい従者の悪魔だ。大魔王の気ままな旅行に付き合わされ既にヘトヘトである。
「はー!なるほどなあ。これがアオハルて奴か。なんか大したことねえのに好きだ嫌いだってなっちまうな。こんな雰囲気じゃ」
「ふふっ、そうだね。僕たちもアオハルしてみよーか」
「ぶわっ!て、てめ!」
いつものように神は突然現れた。大魔王の横を既に陣取っていて楽しそうに笑っている。普段の神服ではなく、どこで手に入れたのかスーツを見事に着こなしている。そしてちゃんとスリッパーも手に入れているところが用意周到。長い薄茶色の髪は一本に結われ、紅い瞳も合間ってどこぞの王子様のような出立ちだ。
「そうそう。僕のことは『アラン』とでも呼んでよ。昔みたいに名前で呼び合えるなんて、下界も捨てたものじゃないねえ」
「うるせー!誰が呼ぶか。つか、何ついてきてんだよ」
「ううん?君の行くところ全てについて行きたいくらいだよ」
「ヘレン様、こちらみたいです」
従者がパンフレットを見ながら大魔王と、ついてきてしまった神を体育館へ案内した。すでに最初の演目は終わり、舞台の入れ替えで幕が下されている。1人生徒が出てきて看板を「かぐや姫」に差し替えた。
「へえ。平安の話か。あの頃はぼやーっとしてて時間がのんびりしててよかったよなあ」
「そうかなぁ」
「水刺すなよ。てか、うちの子どこ?何の役やるんだ?」
「僕の子はもちろんかぐや姫だろうね。あんなに美しくて品のある子はそうそういない」
「は?テメェんとこのがかぐや姫ならうちのは、……かぐや姫って王子様出てこねえな。何の役だったらかっこいいんだ?」
「あの、ヘレン様、アラン様。ご子息とご令嬢はあちらです」
「「え?」」
2人の言い合いがヒートアップしながら席につくと、従者はあらかじめ調べておいた場所を指さした。ちょうど2人の頭の上にある照明室だ。
「え?あそこ?」
「はい」
「あそこからワイヤーで飛ぶのか?空飛んで出てくるシーンなんかあったか?」
「い、いえ。その。舞台には上がらないみたいで」
「えー?そうなのかい?」
「じゃあ何で下界に降りてきたんだよ!」
「あなた様が行きたいと、おっしゃるから……」
怒鳴られた従者はため息交じりに言い返したが、2人は聞く耳も持たずまらなさそうに幕の閉まった舞台を見ていた。だがふと大魔王は上を見上げ、上の様子を透視した。すると風巻の方からただならぬ黒いもやっとしたものが見えている。
「うーん?」
「足りていないねえ」
「やっぱりそうか?」
「下界にいるってだけでかなり辛いからね。とても不安定だ」
「そーか」
「よくここまで持った方だよ。僕らも同じように辛いけど比較的簡単に得られるからね。君たちのは代償付きだから、あの子は出来てないんじゃない?」
「かーっ。いい子に育っちまったってことかな」
「ふふっ、親バカ」
神はどこか自慢げな大魔王の様子にクスクス笑いながら答えた。
ジリリリリと開演の合図がなると2人は黙って公演を見届けた。




