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祭りの前のできごと

「今日は学校祭で上演する舞台について話し合いたいと思います」


学級委員長の号令でHRが始まった。ここの学校祭では学年ごとに役割が違う。1年生は教室を使った出し物。2年生は決められた順番での体育館で催し物。ここ2年5組は体育館の舞台上を使う権利が充てられた。無論そうなれば演劇をすることしか思いつかなかったようだ。

皆はそれぞれ仲の良い友達同士で集まり、何にしようかなどと話し合っている。風巻かざまき山本やまもとはもう1人のクラスメイトに困っていた。


「なんでお前こっちきてんだよ」


「仕方ないじゃない。誰かと話し合えって言われたんだから。私友達いるように見える?」


「まあまあ、いいじゃん。ね、土端さんは何がいいと思う?」


土端つちはしは椅子に座りながら足を組み、それ以上話すつもりはないと言いたげに椅子に背を預けながら黒板に視線を向けている。山本が気を利かせて尋ねたが返事すらしない。


「さて、皆さん。何がいいか各々教えてもらっていいですか?」


学級委員長が生徒達に尋ね、副委員長が黒板に記していく。暫くすると委員長は3人に視線を向けると土端に尋ねた。


「土端さんはなにかある?」


「あっ、この人ね、話しかけても答えてくれないよ」


山本が答えようとも土端はツンと無視を決め込んでいる。委員長も苦笑まじりに違う人に当てて逸らした。


大多数の賛成意見で演目はかぐや姫になった。子どもっぽいとやる気がなくなるものもいたが、なんだか楽しそうと衣装やお話に目を輝かせる女子も多い。早速配役の話になる。


「かぐや姫は絶対、土端さんだろ!」


1人の男子が周りの女子の目を気にすることなく、大声で訴えた。当の土端は見向きもせず黒板を眺めている。他の男子数人も「いいね」などと相槌を打っているが、女子は気に入らずコソコソと悪口を言い始めた。するとその雰囲気が嫌で1人の女子が手を挙げた。


「私、かぐや姫やりたい!なぁ、なんちゃって」


成田は羞恥心いっぱいで顔を真っ赤にしながら立候補した。土端はちらりと成田を見たがすぐに視線を逸らして何事もなかったような様子。恥ずかしさとこれから来るであろう女子たちの苛立ちに成田はわなわな震えていると、風巻が成田の方に視線を向け委員長に向き直った。


「俺はいいと思う。やりたい人がやった方が」


その一言で女子たちは「そうよそうよ」と成田を称えるように拍手した。今までの暗い雰囲気が一気に吹き飛んだ。鶴の一声とはまさにこのことだろう。成田は風巻と視線が合い、更に肯定してくれたことが嬉しくて泣きそうになりながら笑っている。


風巻にはわかっていた。成田が土端のことを気にしてわざわざ立候補したことを。









なんやかんやで、配役と役割が決まった。山本はおじいさんの役、風巻と土端は余っていた照明係になっている。数人の照明係と2人は集まって話し合いが行われた。体育館のステージの見取り図と、付けられる照明、ピンスポットの数などが書かれた紙を眺めながらあーでもないこーでもないと相談しているが、もちろん土端はやる気がない。生徒の1人が大体の照明の配置を決めると二つのピンスポットの担当を決めることになった。


「えっと、舞台の上にある照明の部屋に行って光を当てる仕事だけど、やりたい人いる?」


「私「俺がやる」」


2人は同時に声をあげてしまった。風巻と土端はお互いに見合うとすぐに視線を逸らしてそっぽ向いた。


「俺はいいや」


「私もいいわ」


「やれよ。誰かやんなきゃ進まねえだろ」


「あなたがやりなさいよ」


「あっ、あの、2人ともやっていいよ?」


生徒の1人が慌てて2人を止めたが、風巻も土端もあからさまに嫌な顔をしてぷいっと視線を逸らした。照明室で2人きりになることが嫌だからだ。だからと言って他の人と2人になるのも嫌だし、などと悶々と各々考えていると、1人がササッと役割の紙に2人の名前を連ねて教師に提出しに行ってしまった。

抗う術もなく決まってしまった役割に2人は何も言わず黙り込んだ。


昨年とは違う波瀾万丈な学校祭が幕を開ける。


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