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春風のしらせ side利麻

最近、悠馬ゆうまの様子がおかしい。


ここは孤児たちが住んでいる家。私も悠馬も他の子供たちもみんな親がいない。他の子達は親の虐待やらでここに連れてこられたみたいだけど、私と悠馬だけは違う。親の記憶もないし、苗字もない。私は生まれて間もない新生児のまま保育園の前に捨てられていたときく。

悠馬は、どうだったかな。ぽつんと捨てられていたとしか聞いたことがない。現代日本でそんなことあるのかって疑問になるけれど、あったのだからしょうがない。

だから、この施設の前理事長である風巻かざまき道重みちしげって人の戸籍に入れてもらって今に至る。道重さんは私が中学に上がる前に亡くなってしまったから、実質私たちは血は繋がってなくても兄妹の関係で、唯一の家族。


話を戻そう。

新年度に入って、私は中3で悠馬は高2。できれば私は悠馬と同じ高校に行きたいなと思っている。理由?それは、まあ、だって、県の中で一番の高校だし。それだけ、理由なんて。


それで、学校が始まってから数日経って、受験勉強も兼ねて勉強していたんだけど、どうにもうまく解けなくて悠馬の部屋に行ったの。うるさい正平しょうへいはリビングでバラエティ見ながら騒いでるから今がチャンスかなって。


必要な勉強道具を抱えてコンコンと部屋をノックした。しばらく待ってみたけど返事がない。帰ってきてるよね・・・?

もう一回ノックしたけれどやはり返事がない。私はノブに手をかけた。ガチャリと扉の開く音がしてゆっくり部屋を覗き込んだ。あかり一つ灯されておらず、月明かりでかろうじて部屋の中が薄ぼんやり見える。

いない、のかな。

私はあまり中を確認せず、諦めて扉を閉めようとした。でも次の瞬間、窓の下の方にうずくまる悠馬を見つけた。


「悠馬、大丈夫?」


ぎゅっと勉強道具を抱えながら暗い部屋に足を踏み入れた。古い建物だから床が歩くたびにギシギシ鳴る。声をかけても反応はなく、私は自分の体をぎゅっと抱きしめている悠馬の肩に触れた。するとバッと勢いよく振り返り、私を見るなり慌てて立ち上がった。でも自分の机の方へと後退りして机の端に寄りかかると頭を押さえた。

ちらりと悠馬の目が黄金に輝いていたように思う。月明かりのせいかもしれないけれど。


ただごとではない様子に勉強道具を床に置くと、私は恐れることなく悠馬に近づいた。


「大丈夫?」


「っ、・・・なんの用だ」


「勉強、見てもらおうと思っただけ。でも具合悪そうだから今度に・・・」


尋ねてきたくせに私の言葉を聞く余裕もなさそう。悠馬は肩を揺らし息が荒くなりながらも必死で何かに耐えているように見える。どうしてあげたらいいかわからない。


何を思ったか、私はおずおずと空いている方の手で悠馬の頭に触れた。悠馬はぴくりと震え、私の肩を掴んで引き離して驚いたように見上げる形で私を見つめた。


「悪い」


「ううん」


弱った悠馬は月明かりのせいも相まって幻想的に映る。この世のものではない、何か特別な雰囲気が悠馬を照らしている。美しいと素直に思った。

いつもは兄妹のような関係でしかないのに、今日はなんだか不思議な、いや。わかってる。私は昔から悠馬のことが好き。兄妹になんてなりたくなかった。悠馬がいつか知らない女と付き合ったり、果てには結婚したりすることを思うだけで身が焼けてしまいそうなくらいの嫉妬でいっぱいになる。


「利麻?」


「あっ、え。ごめん。治ったんならいいよ。よかった」


固まったままの私を見て、心配そうに顔を覗き込まれた。慌てて私は離れると、勉強道具を抱えて部屋を出て自室に戻った。すぐに鍵をかけて荷物を床に置いてベッドに顔を埋める。はっきりとわかってしまった自分の気持ち。


好き。大好き。

神様でも誰でもいい。私の悠馬を誰にも渡さないで。


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