大魔王と神様②
「大魔王様、どうか、私にお恵みを」
「大魔王様、私に力を。どうしてもあいつに負けたくないんです」
「大魔王様、村の飢饉をどうか、お救いくださいませ」
「神に頼めよ!あほか!」
全世界各地の大魔王の祠に膝をつき、手を合わせ祈る現世の人間たちの願い事に苛立ちをあらわにし、大魔王は怒鳴り散らした。横に控えていた悪魔たちはオロオロして、どうしたものかとこそこそ相談していた。
「お呼びかな?」
「どぅわ!」
書斎にある祈りの祠を前に怒鳴っていたため、大魔王は思わぬ来客に椅子からひっくり返ってしまった。驚いたが慌てて立ち上がる。
「てめぇ!また性懲りも無く来やがっ……」
「流石、「大」がつく魔王だね。人々はあなたの底知れぬ魅力に引き寄せられてこうも簡単に魔に堕ちる訳だ」
「そう思うなら叶えてやれよ。なんで私がこいつらの叶えなきゃなんねえんだよ」
打った頭を撫でながら大魔王はぶつぶつ文句を言った。神は祠の中を覗きながら困った様に笑うと腕を組み悩む素振りをしている。
「うーん。それは無理かなぁ。神はあくまで補助であって、叶えることはできない。反対に魔のものは代償ありきだけど叶えられるでしょう」
「まあな。大体は人間の命と引き換えだ。私や悪魔たちはそれを餌に生きてる部分もあるし」
「そうそう。僕たち神はその人の潜在能力を見つけてあげるだけ。あとは癒し?そんなくらいだよ」
得意げな大魔王の姿を見て、神は柔らかく微笑むとそっと大魔王の頭を撫でた。
「あなたが笑ってくれると僕も嬉しいよ」
「やめろ!気色悪いな!」
ぺしっと神の手を払うと数歩後ろに下がり、少しでも近づけば噛み付くぞと言わんばかりに牙を剥き出しにしていた。その様子に神は困ったと言わんばかりに苦笑しつつ愛らしいなと自然と表情は柔らかくなる。
「大魔王様!て、またあなた様がどうしてこちらに!」
悪魔の1人が書斎に駆け込んできた。神を見つけるなり慌てて頭を下げ、要件がすっかり吹き飛んでしまったのかそれ以上動かなくなった。
「おい」
「はぅ!あ、失礼しました!貢物が到着しました」
「うむ」
悪魔は慌てて部屋から一度出ると、荷車ごと書斎に入ってきて、大きな布を取るとそこにはまだ幼さの残った女性が1人、白い着物姿で入っていた。女性はすぐに立ち上がると荷車から降りてその場に膝をつき祈る様に手を合わせはじめた。
「だ、だ、だいまおう、さま。わ、私でよければその、た、食べて。はっ!召し上がってください!」
慣れない敬語を慌てて使い、震えながら目を瞑り祈りを捧げ出す。神はその様子に顔を背けてくすくす笑っている。大魔王は女と神の様子にさらに苛立ちを募らせ、拳を握り女の前に立つとぱこんと頭を殴った。
「いたっ!」
「現世に帰れ!あほ!」
「いや、しかし。その。……あれ、大魔王様、は?」
「私が大魔王だよ!」
「えぇ!?マッチョで牙がめっちゃ大きくて、眉毛も太くておっさんて聞いてたのに!なんで?」
「うるさいわ!帰れ帰れ!」
大魔王はきょとんとしたその女を抱き上げると荷車に乗せ、窓の外から現世へ放り投げた。
「あー」
「若い女なんか送ってくんなよな」
「ほう。何だったら欲しいんだい?よかったら僕が何かプレゼントしようか」
「うるせ!お前も帰れよ!」
大魔王は神の肩を掴むとぎゅーぎゅーと書斎から追い出し扉を閉めた。扉を背に大魔王は座り込むと目の前の祠に視線を向けた。




