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配達員またはお嬢様 side風巻

 二学期の期末テストは2点差で土端つちはしに勝てた。一学期の中間以来でうれしさもひとしおだ。残るは三学期の学年末テストのみ。


 部活に入っているわけでもなく、冬休みも短いため学校の講習会もない。暇な年末を過ごすくらいならとバイトの求人から手っ取り早く金が稼げそうなものを見つけた。給与が高いだけあって体力勝負な仕事。初めてのバイトで右も左も分からない俺に対して、優しく一つ一つ教えてくれる社員の大人たちには感謝しかない。


 ある日、社員の1人と仕事を任された。トラックに乗って近くまで行って配達する。簡単そうでなかなか難しい。地域の地理を把握しているわけではないから一つ一つ悩みながらの配達になった。


風巻かざまき、お前はこっち配達しておけ」


「はい」


 休む間もなく次の箇所に着くと、社員に頼まれた荷物を抱えて書いてある住所へ向かう。

見たこともない大きな屋敷。鉄格子の向こうの更に向こうに少しだけ家の外観が見える。あとは木々に隠されてあまり見えない。豪邸とはこういうことを言うのだろう。


 チャイムを鳴らし、執事らしき男が荷物を受け取り、屋敷に帰ったところで聞きなれた声がして驚いた。


「私の家になんの用?」


「え?お前の家?」


「そうよ。それよりあなた何してるの?そんな格好で」


 伝票には確か「土端」とは書かれていなかったように思う。俺は表札と伝票を見比べた。やはりそこには「土端」の名はなく、「松波まつなみ」の文字だけだ。


「不思議でしょ」


 土端はなぜか自信満々な表情だ。俺はそれ以上、聞いてはいけないと思った。なんとなくだが、俺が施設にいるのと似たような境遇な気がしたからだ。俺だったら聞かれたくない、なぜ施設にいるのか、親はどうしたとか。


「別に。仕事あるから」


 俺はすぐにその場を離れようとした。だが土端は帰ろうとする俺の前に立ちはだかっては不服そうな表情を浮かべる。


「なんだよ」


「興味なさすぎじゃない?」


 興味あるかないかで聞かれたら、あるのは事実だ。入学式の時から思っていたが土端はどこか謎めいていて、他の生徒とは何か違う、それでいて何か惹かれるところがある。


惹かれる?


俺がこいつに?


「人様のお家事情なんか知ってどうすんだよ。話したいなら別だが」


 ふとよぎった感情を見られまいと早口に捲し立てるように言った。これで土端ならふいっといなくなるだろう。そう思ったのに、次に出た言葉は思いもよらないものだった。


「話したい」


「は?」


え?今こいつなんて言った?


 驚く俺を見て、土端はどこか寂しげに下を向いてもじもじと自分の手を握っていた。


いつもと違う。


 だが、すぐいつもの調子に戻ると、俺の横を抜けてインターホンを鳴らした。


「冗談。お願いされても話してなんかやんないよ」


 言葉はいつも通りのつっけんどんな物言い。だがどこな切なく、何かが引っかかった。これをスルーしていいとは思えない。

 土端がインターホンで執事と話し、やりとりが途切れた瞬間、俺は土端の腕を掴んでこちらを向かせた。


「なに?」


「明日、13時。第二公園で休憩する。休憩時間は30分」


「だから何よ」


「何でもない。ただ俺の予定を言っただけだ。じゃあな」


鉄格子の向こうから執事の姿が見えた。俺は踵を返しその場から逃げるように仕事に戻った。







 次の日、約束の時間。第二公園で30分の休憩を取ったが、そこに土端は現れなかった。





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― 新着の感想 ―
[一言] >「何でもない。ただ俺の予定を言っただけだ。じゃあな」 かっけえ!! そしてその後の展開に笑わせていただきました。
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