ファンクラブと紅葉色 side黒田
僕の人選は完璧、のはずだった。
まさか風巻くんに断られるとは思ってもみなかったからだ。
土端くんには何度もお願いして、とても冷ややかな目を向けられたけれど承諾してもらった。とても助かった。
なぜか1人、1年の女子が立候補してくれたから難を逃れたけれど、本当に大変だった。
まあ、けれど。これから一年この面々でやっていくわけだし、辛くならず楽しくやっていこう!
そう思っていた矢先、生徒会室に珍客がやってきた。僕と同じクラスの河山さんだ。数人の女子を引き連れ、女王様の様に現れた彼女は勝手に生徒会室のソファに腰を下ろし、短いスカートにも関わらず足を組みこちらを見下してきた。
「どういうことですの」
「え?」
「私の部活申請についてですわ」
「部活作るのかい?」
「まっ!しらばっくれるのもそこまでよ!成田とかいう小娘に預けた書類は見たでしょう!?」
「成田くん?もらってないけど」
身に覚えのないことで怒り始めた河山さんは、キィと漫画みたいな声を出しながら立ち上がり、今にも殴りかかりそうになった。僕は怖くて腕で顔を隠した。
「私ですよ、捨てたの」
僕と河山さんの間にスッと立ちはだかったのは土端くんだった。
僕が言うのもなんだけど、この子本当に肝が座っててかっこいいよね。
「あ、あなたは!魔女!」
「センパイに言いたくないですけど、あんなアホな部活通るわけないですよね」
「キィ!アホとはなんですの!?ちょっと見た目が良くてちょっと頭良いからって良い気にならないでくださる!?」
「「そーよそーよ!」」
取り巻きたちまで応戦して、土端くんがひとりで立ち向かう構図になってしまった。
僕も1人の男として何か、こう、役に立ちたい。けれど、どうしたらいいかわからず僕はオロオロしているだけになった。
「部活じゃなくて、好きにやってたら良いじゃないですか。会議室を貸して欲しいだけなら相応の手続きすればいつでも使えますし」
「え?……部活じゃなくても使えるんですの?」
淡々と土端くんは応対しながら、引き出しから一枚の紙を取り出し河山さんに渡した。学生用の特別教室の利用許可書だ。河山さんはきょとんとしながらそれを受け取ると、取り巻きとコソコソ相談してすっと立ち上がった。
「き、今日のとこは引いてやりますわ」
悪者みたいな捨て台詞を吐いて、河山さんとその取り巻きたちは生徒会室から出て行った。
土端くんは、見送ることもなく自分の作業に戻ろうと机に向かって腰を下ろした。オロオロしていた僕もようやく落ち着き、一つ深呼吸すると土端くんの元へ向かった。
「あの、ありがとう。土端くん」
「いいえ」
簡単な返答だけでこちらに視線すら向けず、回収してきたアンケートを手際よく分け始めた。
僕は自分の席に戻って土端くんに目を向けた。窓から入る風でふわりと髪が揺れる。うっすら紅葉に似た赤い唇と瞳はとても美しい。僕の形容の言葉がうまく思いつかないのは許して欲しい。でも本当に美しくて、
はっとした。
風巻くんと一緒に生徒会を盛り上げることばかりに目がいっていて、土端くんのことをしっかり見れてなかった。
あとで気付いた。僕はこの時生まれて初めて恋をしていたのだ。




