春が来ても変わらない side土端
お義父様に求められば、私は逆らえない。だって、身寄りのない私を受け入れてくれて、何不自由なく育ててくれたんだもの。
あの夏祭りから自分の力が思うように使えなくなった。理由はわからない。けれどきっかけはわかっている。風巻くんが何かをしたせいだ。私は受け入れた。何をされるかわからないのに。
信じていたといえば聞こえはいい。けれど、そんな格好いいことじゃない。委ねた。自分のことなのに、風巻くんに全てを。
甘えていたのは私の方。弱かったのも、人に頼ってばかりなのも。風巻くんに偉そうな口を叩ける身分ではない。それでも、何かとっかかりが欲しくていつも強く当たっていた。他の誰にもしないのに風巻くんにだけは近づき、話し、時には喧嘩を売って。風巻くんならわかってくれる気がした。……ほら、甘えているでしょう。
◇
精も根も尽き果てた私のところに現れたのはやっぱり風巻くんだった。心の中では期待していた。御伽話のように王子様が迎えに来る。馬鹿みたい。
現れた風巻くんはとても大胆だった。私の手を掴むし、抱きしめてくれるし、そう……王子様。綺麗なお話なら私はお姫様で風巻くんはやっぱり王子様。でも、これは御伽噺じゃない。目の前の王子様は魔族で、私は神の子。決して相入れてはいけないし、人よりもずっとずっと距離を取らなければならない存在。そんなこと、知ってる。
知っているけれど、止まらない。何かしら、この感情。
「お前が望むなら叶えてやる。どんな願いも全て」
まるで月明かりのように怪しく光る黄金の瞳。抗わなきゃいけない。神として、魔族の手に落ちることはしてはいけない。わかってる。わかってる。
でも、縋りたい。この世界にいられるなら、この人のいる世界にいられるなら。
目の前の月に吸い込まれそうになると、ふと身に覚えのない記憶が蘇ってきた。アランの記憶だ。
いつもアランは苦しんでいた。神であることを忘れ、魔族の女、しかも魔族を統べる大魔王に恋をしてしまっていた。神様が一番してはいけないこと。
そこを突かれて、私という半身を生み出さなければならなくなり、それを人間の元へ堕とさなくてはならなくなった。身の潔白を証明するために。魔族と交わっていない。力を半分失おうとも自分は人のために尽くすことこそ喜びなのだと他の神たちに見せつけた。
やっぱりアランの半身だけある。私も同じ過ちを繰り返そうとしている。
わかっているの、本当は。この気持ちはアランが大魔王ヘレンに向けたものと同じ。それ以上の執着。
「契約しよう」
悪魔の囁き。ここで否定すれば私はアランの元に戻り、二度と消えて戻らない。ライラもそう言っていた。私だけが我慢すればいい。未練なく捨て去ればいい。
「風巻くんのいる世界にいたい」
考えるより先に口が動いた。ごちゃごちゃ考えていたのが嘘のようにさらりと出た言葉。言ってしまった。その罪悪感に押しつぶされそうになる。
本体に戻らなきゃ。私の勤めは終わったの。お義父様も、立花も、皆自由にしてあげなきゃ。
泣きじゃくる私に風巻くんは優しく微笑みかけた。いい、これでいいんだと言われているようだった。
風巻くんが何を言ったかわからない。きっと悪いことだろう。だっていつだって自分本位で人のことを考えていそうで何も考えていない。最低な奴。
自分のことでいっぱいいっぱいの高校生の男の子。私はそんなあなたが好き。
地の文でも「くん」付けしてます。明日は22時23分に更新。そして完結です。




