暑い夏のベンチで
4時間目までぶっ通しの講習会は昼休みを迎えた。午後の講習は今日だけ1時間遅れて始まるという。
理由は、野球部の新人戦練習試合の開催校になっているため、色々と教員たちも駆り出されているからだ。普段、夏休みは閉まっている売店も学食も開いていて、他校の野球部員たちも利用し賑わっていた。
風巻は、売店でイチゴミルクを買うとグラウンドがよく見えるベンチに腰を下ろし、一緒に買ったサンドウィッチを膝の上に広げ食べようとしていた。
すると聞きなれた声が聞こえた。
「ここ空いてる?」
「お前、今日はクラス違っただろ」
「別にあなたの近くにいたいわけじゃないわ。どこのベンチも野球少年たちがいて空いてないんだもの」
土端は機嫌を損ね、承諾を得ることなく隣に腰を下ろし、自分の弁当を開けて黙々と食べ始めた。
2人は何も話さなかった。
静寂の中、時折、遠くでバットがボールを打つ音が響く。
ふと口を開いたのは風巻の方だ。
「いつから気付いていたんだ」
「何が?」
箸を止め土端はきょとんと風巻に視線を向けた。風巻は土端を見ることなく遠くで行われている野球を眺めている。
「俺がお前と同じ、人と違うって」
「一緒にしないで。あなたとは違うでしょ。なにもかも」
同じと言われたことが気に障ったのか、土端はぴしゃりと否定した。風巻はふっと小さく笑うとベンチに寄りかかりながらイチゴミルクに口をつけた。
「なんで人の気を悪くする奴がのほほんと学校生活を送れるんだか」
「失礼ね。事実を言われて怒る方がどうかしてるわ」
カーンと乾いた音が響いた。すぐに歓声に変わる。今までにない盛り上がり方をしている。
反して、再び2人は黙り込んだ。土端が食べ終える頃に風巻も飲み終え、立ち上がると両手を上にあげ、ぐーっと伸びをした。
「あなただけは怒らないで聞いてくれるから、嫌いじゃないわ」
土端は弁当箱を袋に包んで立ち上がった。どこか寂しげな雰囲気を持つ笑みを浮かべて呟いたのを風巻は見逃さなかった。土端から出るとは思えない言動だったからだ。
いつものつっけんどんな様子とは裏腹な土端の様子に、風巻はつい笑ってしまった。
「ふふっ、ずるいな。お前って」
「そうかしら。フツーよ」
2人は互いに顔を見合わせると今までの冷たい雰囲気はなくなり、代わりに小さく笑い合った。
グラウンドからは試合終了の笛が鳴り響いていた。




