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6.腐敗

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 教会にはいると一人の男が話しかけてくる。先ほどルークを追い出していたものだ。教会の人間だろう。


 「いらっしゃいませ。お祈りですか?」


 「いや、ここの神父に用がある」


 「あぁ、免罪符ですか。あなたも罪を洗いにきたのですね」


 「あぁそんなところだ」


 「ではこちらへ」


 免罪符、か。初めて聞くが、ルークが言っていたのはこれのことだろう。

 金を払えば罪を許される。そんなものがあれば司法や宗教は必要ないだろうに。

 そもそもこの教会は金を集めて何をしたい?


 男に案内されるまま部屋にはいる。


 奥にいるのが神父だろう。


 「席を外してもらえるか?」


 案内してくれた男にそう伝えると何も言わず部屋の外に出て行った。


 「あなたが神父で間違いないか?」


 「そうです。今日はどうされました?占いですか?それとも免罪符のご購入ですか?」


 それも気になるが後回しだ。


 「フレンというシスターに会わせてくれ」


 神父は一瞬ぴくりと眉を上げるがすぐに元の表情に戻る。


 「現在フレンは病床に伏せておりまして面会謝絶中です。」


 「俺が診よう。会わせてくれ」


 まぁ医学の知識などないが。だがここで引いてはだめだ。


 神父はため息をつきこちらを見る。


 「どこの誰とも分からない人にうちの大事なシスターを診せろと?」


 「これでもだめか?」


 服に隠していたネックレスを見せる。

 国王からアーベンライン家に与えられた紋が彫られている。


 神父の目つきが変わる。まるで獲物を狙う獣のようだ。


 「わかりました。こちらへどうぞ」





 ルークが言っていたとおり地下へと連れて行かれた。


 「この部屋になります。鍵はこちらです」


 神父から鍵を受けとる。

 思ったよりも素直に会わせてくれる。


 わざわざ監禁しているのだからなにか理由があるのかと思ったが……。

 それとも本当に病気なだけか?


 まぁ会えば分かる。

 鍵穴に受け取った鍵を入れ回す。カチャンといい音がなる。

 そのまま扉を開けようとすると


 「ファイアボール!」

 「ウォーターウォール」


 後ろから火球が飛んでくる。

 落ち着いて水魔法で対応する。

 火が消えじゅっと水の蒸発音が鳴る。

 まさか戦闘になるとは。こんなことになるなら鍛冶屋に行くのは後回しにすれば良かった。


 水の壁で射線を切りつつ部屋の中へ入る。

 部屋の奥には椅子に縛り付けられた少女がいた。口には猿ぐつわがつけられている。

 隅の方に片づけられていない食器が見える。一応食事は与えられていたようだ。


 「スモールファイア」


 指先に火を出し彼女の手を縛っている縄を焼く。少しやけどするだろうがそんなことを気にしている余裕はない。

 そのまま猿ぐつわも外す。

 「ありがとうございます!」

 「礼はいい隠れてろ」

 

 そろそろウォーターウォールの効果が切れる。

 そう思っていると廊下から再び火球が飛んでくる。さっきのものより大きい。

 急いで水魔法を発動しようとすると


 「ホーリーバリア!」


 後ろから声が聞こえると同時に火球が見えない何かに阻まれ消える。


 「わたしも戦えます。回復と防御なら任せてください!」


 ルークから聞く限りフレンの回復魔法の腕は確かだろう。

 ならば防御は気にせず戦おう。鎧もないのだし下手に防御にリソースを割くよりましだろう。もとより防御は苦手だし都合がいい。


 「頼んだ」


 そう伝えそのまま神父に向かって走る。


 「ファイアアロー!」


 神父の声とともに火矢が五本飛んでくる。

 魔法の多重使用はそれなりに技術がいる。この神父もそれなりに手練れだ。


 「動かないでください! ホーリーバリア!」


 効果範囲内で待てということだろうが正直まどろっこしい。


 フレンの言葉を無視しそのまま走るとなにか不思議な感覚に襲われる。おそらく効果範囲を抜けたのだろう。

 そのまま火矢が二本当たる。肩と脇腹が焼ける。

 痛みの感覚から推察するに貫通はしてないので問題ないだろう。


 「え!? ちょっと!?」


 後ろで何やらフレンが叫んでいるがまぁいいだろう。


 逃げようとする神父の肩を捕まえこちらを向かせる。


 「どこいくんだ?」


 神父から話は聞きたい。

 なのでそれなりに加減をして腹を殴る。


 ぐにゃりと表現すればいいだろうか。殴った感覚がおかしい。

 少なくとも人間を殴った感覚じゃない。どちらかと言えば獣に近い。


 「あんたナニもんだ?」


 「ふはっ、ばれちゃったかぁ」


 そういうと神父の体がぐちゃぐちゃと音をだし形を変える。


 うすい茶褐色と白い体毛にとがった耳、黒い鼻、するどい爪。そして腰から生える九つの尾。

間違いない。魔族だ。


 「あぁ、もうちょっと時間があればこの町は腐りきってたのになぁ。ざんねん。ざんねんだなぁ」


 耳にこびりつくような不快な声だ。


 「……占いや免罪符とやらはお前がはじめたのか?」


 「そうさ!まぁ占いも免罪符も全部でたらめだけどなぁ!人間っておもしろいよなぁ!ちょっと甘い汁なめさせたら後は勝手に落ちていくんだぜ。庶民はころって騙され占いに金を落とすし、汚いことをする権力者は許しを請い免罪符を買う。教会の奴らなんてもっとおもしろい。最初こそ反対してたくせに大金見たら態度を変えやがった!こんなにアホな生き物そうそういないよ!」


 なるほど、この教会は腐敗しきっていたのか。

 ギルドマスターが言いたかったのはこのことだろう。


 「……あなた神父様をどこにやったの!」


 フレンの声が廊下に響く。 


 「神父ぅ?ああさっきまでのガワのことかぁ。あいつはまずかったなぁ。俺が大嫌いなくそ真面目な味がしたよ」


 「そんな……」


 フレンは膝から崩れ落ちる。


 ここまで聞けばもう十分だろう。あとはレスターさんや関係者の情報で事足りる。


 「お前、名前は?」

 「名前? ウルペースってんだ。これから殺されるんだからよぉしっかりおぼえときなぁ」


 ウルペース、か。


 「それにしてもこんなところで勇者様の一族と出会うとはなぁ。おまえはどんな味がするんだろうなっ!」


 鋭い爪が振り下ろされる。

 そのまま左腕で受け止める。ざっくりと突き刺さるが骨に到達すると同時に動きが止まる。

 思ったよりも痛い。血がドクドクとあふれ出す。放っておくと血が足りなくなる。早めに終わらせなければ。


 左腕の筋肉を締め爪が抜けないようにする。


 「ん? なんだぁ? ぬけねぇ!」


 鈍い痛みに声が出そうになる。


 こいつは人間じゃない。魔族だ。

 すでに人も食っている。

 名前もちゃんと聞いた。ウルペース。しっかりと心に刻んだ。


 今から俺がこいつを殺す。

 意思疎通のとれる生物を殺す。

 こいつを食べて生きる糧にするわけじゃない。

 人類を守る。

 そんな俺のエゴのために殺す。


 だからためらうな。

 一撃で、一瞬で終わらせる。


 右の拳に力をこめる。

 数瞬遅れて右の拳に様々な色の光が集まり始める。

 甲高い音が周囲に響く。


 「な、なんだぁそれは」

 「勇者の一族なら誰でもできる。それこそ勇者に選ばれるような出来損ないでもな。まぁ俺のはまがいものだけどな」


 音が消え光は集まりきる。そのまま光は極光色に輝き出す。

 右の拳を振り上げ構える。


 「ま、まて。まってください!」

 「……きれい」


 呆けたようなフレンの声が聞こえる。

 肝のすわった女だ。


 「じゃあな」

 「や、やめてくれ!たのっ、くっそ。ファイッ」


 呪文を詠唱しきる前に首にむかって思いっきり拳を振り抜く。

 ぐちゃりという感覚が拳を覆った後にぱんっと音がなる。


 すでにウルペースの頭と胴体はつながっていなかった。


 廊下に転がった頭を見ると口をパクパクと動かしていたが、それもすぐに止まる。


 ちゃんと死んだだろう。

 俺が殺した。

 俺の証言があれば死体は必要ないだろう。だからあとで燃やしてやろう。

南無

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