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1.旅立ちの日

勇者が世界を救うらしいです。

 早朝。まだ日が昇り間もない頃。

 街では音楽が、人々の喧噪が鳴り響いている。


 周りを見渡せば既に酒を片手にどんちゃん騒ぎしている人も見える。


 「勇者さまー! がんばってくれー!」

 「応援してるぞー! 必ず、必ず憎き奴らを倒してくれ!」


 声の先にいたのは俺だった。

 期待のこもった目でこちらを見ている。


 民衆に対してのパフォーマンスも必要だろうか。


 そう考えて何も言わず右の拳を掲げる。


 人々は同じように右手を突き出し雄叫びを上げる。


 本当に騒がしい街だ。

 生まれてから十八年。ずっとここで過ごしてきた。


 春には色とりどりの花が咲く。とてもきれいだ。

 夏には多くの動物を見ることができる。見ていて飽きない。

 秋は一番過ごしやすい。飯もうまい。一番好きな季節だ。

 冬は少し寒い。だから嫌い。でもたまに見ることができる雪景色はちょっと好きだ。


 そして何よりもつらいときこそ騒ぎ、明るく過ごすここの人々が好きだ。


 俺は今日、そんな街を旅立つ。

 身の丈に合わない大義を背負って。

 見かけだけの儀式だということ。そんなことは俺が一番分かっている。


 でも成し遂げるのだ。

 成し遂げればこの街を、人々を、ひいては世界を守れるのだ。

 約束だってした。

 だから俺は諦めない。できるだけ多くの命を守るために。




 旅立ちの日の前日。王座の間に数人の男がいた。


 「ソル、おまえは私を憎んでいるか?」


 玉座に座った初老の男が悲しげな顔でそう声を漏らした。


 「我が王よ、そのようなこと天地がひっくり返ろうとありえません」


 ソルの声を聞き王はさらに表情を曇らせる。


 「……おまえも知っているように勇者という称号は飾りに過ぎない。たしかに勇者の一族アーベンライン家の持つ力は強大だ。屈強な兵が束になってかかろうとも返り討ちにできるだろう。しかしそれほどの力を持っていても、民が望む魔王討伐などたった一人で成し遂げることなど……。不可能だ。」


 そのまま言葉が続く。


 「実際に成し遂げた勇者はいない。あたりまえだ単身で敵地に行くなど正気の沙汰ではない。それでも数十年に一度勇者を送り出すのは民衆の不安を和らげるためだ。だから一族の十五を越えた男の中で最も戦力が低いものを勇者とする。わざわざ国の切り札となる者を殺すわけにはいかないからな。つまるところソル、おまえは私に殺されるのだ」


 王ははっきりと口にした。己の罪を告白するかのように。

 両脇に控える側近達は何も言わず、ただそこにいる。何も聞いていないと言うように。


 「……私は貴方に感謝しております。王という立場がありながら兄弟共々幼き頃から面倒を見ていただき、様々な話を聞かせてもらいました。貴方のおかげで私は今ここにいます。だから貴方のために命を落とすのであれば本望です」


 王は己の唇を噛みきってしまいそうな程の力で噛みしめる。


 「私が命を落としたら王は悲しんでくれますか?」

 「ふざけたことをぬかすな。私も妻もそして何よりおまえの家族も三日三晩泣き続ける」


 ソルは照れたように笑みを浮かべ頭をかく。


 「それは困りましたね。私実は幼い頃に大切な人を泣かせるような男になってはいけないと教えられておりまして。なんでも赤子の頃はおしめまで替えてもらったことがあるそうで、今も頭が上がらないんですよ。……だから今一度ご命令をいただけないでしょうか?」


 ソルはそういうと片膝をつき頭を下げる。そのまま自らの剣を抜き両手で王に差し出す。

 十秒ほど王は目を閉じ玉座から動かなかった。


 その後王は立ち上がりソルの目の前に立つ。

 剣を受け取り流れるようにソルの肩に刃を乗せる。


 「勇者ソル・アーベンラインよ!」

 「はっ!」


 二人の声が玉座の間に響く。


 「エルドリエ王国国王フリードリヒ・エルドリエの名において命ずる。必ず生きて帰ってこい!」

 「我が王の命とあらば。この剣に誓って必ずこの街に戻って参ります」



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