プロローグ2 地獄より
残酷な描写があります。
「ああ、いい眺めだ」
荒野が割れた。
轟音とともに広がるのは、どこまでも深い、奈落の裂け目。
ひとつの裂け目からは業火が噴きだし、またあるひとつの巨大な裂け目からはとめどなく重たい濁流がながれ出る。
荒野には、異形のモノたちがひしめきあっていた。
「全て、殺してしまおうか」
辺りには、立っていられないほどの熱風が吹く。翼をもがれ、視界を奪い、竜巻がその身を毒々しい色の空へと放り出した。
一歩踏み出せば足元を流砂に掬われ、息つく間もなくナニカが蠢く砂の底へと引きずり込む。
それでも乾いた大地を前に進んできたモノの心を折るのは、突如地面から身を貫く、棘のついたイビツな植物。
あっという間に精気を吸われて、干からびた物体に姿を変える。
すぐそこに死が転がっている世界。
人はここを、魔界と呼ぶだろう。
「これでしばらく、魔界からの追手はかからないだろうね」
一瞥でこの状況を作り出し。背後から現れた醜悪な怪物を斬って捨てたのは、一人の男。
見る者にぞくりと寒気を覚えさせる空気をまとっている。ボサボサの銀髪のすき間から、禍々しい紅玉の瞳がのぞいた。
たった一人の為だけに。
男は千の天変地異を起こし、万の異形を殲滅したのだ。
満足そうに、ナニカの焼けた臭いが漂い、アカイロに染まる大地を眺める。
「頑張っておくれ、娘よ」
諸悪の根源にして天災たる男は、人知れず微笑んだ。