浄化の乙女と大司教様の往復書簡
「六股令嬢の二番煎じは全力で辞退したい」のその後のお話です。
短めです。
拝啓
春の暖かな日差しに神の御恵みを感じる今日この頃。
大司教様におかれましては、御心安くお過ごしのことと存じます。
(=大司教様は神に祈りを捧げてりゃ一安心なんだから、気楽なモンですね!)
神より賜った私の使命ですが、率直に申し上げますと、矮小な私の手には余るように思われます。
(=ムリムリムリ、本ッ当に無理!)
ある女生徒が用いる怪しげな術によって、第一王子殿下及び将来側近となる御令息方が、その御心を奪われています。
術は長期間にわたって掛けられているようで、彼等は件の令嬢にすっかり心を委ねています。
故に、浄化のために近付くのが大変困難なのです。
(=ガッチリ強固な逆ハーレムを築き上げてるから、割り込む余地がありません。)
また、第一王子殿下の婚約者である御令嬢も、上記の状況に嫉妬心を募らせ、無意識に邪気を呼び集めています。
こちらは可能な限り浄化を行いたいとは思っていますが、悪魔祓いに長けた方の御助力が必要になるかと思われます。
(=やれることはやるけど、もし悪魔が出てきたら、怖いし近寄りたくないし、若干専門外だから専門家を呼んでください。)
私だけの力では、神の御心を叶えることができず、大変心苦しく思っております。
神の御意志を成すべく、大司教様のお力添えを賜りますよう、切にお願い申し上げます。
(=状況が悪いのは分かったよね?大司教様も聖堂の奥に引きこもってないで、なる早で助けてください!)
大司教様のお側に神の御心があらんことをお祈りしています。
(=『神の御告げ』がどーたら言うなら、投げっぱなしにしないでよね?)
敬具
大司教様へ
リリアン=シャーウッドより
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拝啓
穏やかな春の風に神の御恵みを感じる今日この頃、リリアンにおいては神の御心を叶えるべく、日々努めていることと思います。
(=サボっているとは言わせません。)
先日、貴女とドミニク助祭より手紙を受け取り、貴女達及び学園がおかれている状況は把握しました。
浄化が必要な者の中に第一王子殿下が含まれているとのことですが、貴女もご存知のとおり、教会は王室に対し中立の立場を取っています。
つまり教会は、基本的には執政、及び、王族の立ち居振る舞いに口を出すことは許されていないのです。
故に、この件に関して、現時点では教会から手出しはできません。
(=政治的な諸々とかがあるし、王族が絡むなら教会はノータッチです。)
また第一王子殿下の婚約者である御令嬢の件ですが、悪魔を引き寄せてしまうと、学園内に要らぬ不安や恐怖を蔓延させる上に、悪魔を祓った後も御令嬢自身の将来に影を落とすことでしょう。
最悪の事態が起きる前に、速やかに邪気を浄化してください。
(=悪魔を呼ぶ前に貴女が浄化した方が早いです。)
現状は決して芳しくないことは分かります。
しかし、神は決して達成できない困難は御与えにはなりません。
(=ガンバ!)
そして、貴女は決して一人ではありません。ドミニク助祭が貴女を支えてくれることでしょう。
それに何より、神は何時如何なる時も貴女を見守ってくださいます。
神の御心は、常に貴女と共にあります。
(=ファイト!)
貴女が神の御意志を成し遂げられんことを、聖堂より祈っています。
(=さっさと浄化しなさい。)
敬具
リリアン=シャーウッドへ
大司教 ジョセフ=ベネディクトより
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親愛なる大司教様へ
私の浄化の仕方はご存知ですよね?
相手と手を繋がないと浄化ができないのです。
未婚の、まだ婚約者も決まっていない私が、六人もの男性の手を取っ替え引っ替え繋ぐなど、とてもできません!
件の御令嬢は、陰でとんでもない呼ばれ方をしています。
そんな彼女の二番煎じ扱いを受けるなんて、耐えられません!私にだって恥じ入る心くらいあるのです!
リリアン=シャーウッドより
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親愛なるリリアンへ
神がお選び給うた、そして浄化の力を御与えになったのは、リリアン、貴女ただ一人なのです。
誰が何と言おうと、神は貴女の行いを見ています。何ら恥じ入ることはありません。
大司教 ジョセフ=ベネディクトより
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大司教様へ
前の御手紙で「第一王子の婚約者の今後の人生に悪影響を及ぼさぬよう」というようなことを仰っていましたが、まるっきり私にも当てはまると思いませんか?
私にだって私の人生があります。
御考え直しいただけないなら、私では神の御意志を成すには力不足なので、還俗して神の御許から離れたく存じます。
リリアン=シャーウッド
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選ばれし乙女、リリアン=シャーウッドへ
敬虔な信徒である貴女の御父上は、「全ては神の御心のままに」と仰っていましたよ。
もう一つ付け加えるならば、貴女の学園への入学は神の御告げによるものが大きいので、入学金及び学園生活に掛かる費用は、全て教会が支払っています。
大司教 ジョセフ=ベネディクトより
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「あっっっンの、クソジジィ〜〜〜!!!」
女子寮の私室にて、私は大司教様からの手紙をかなぐり捨てて叫んだ。
時を同じくして、何故か男子寮の方から叫び声が響いてきた。
最後までお読みいただき有り難うございます!
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