表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/301

第十三話 剣聖無双

「こりゃ厄介だな!」


 さながら、森全体が動いているかのようであった。

 以前にも悪霊の森でトレントの群れと遭遇したことはあったが……あの時以上の数かもしれない。

 しかも、木の一本一本がはるかに大きかった。

 これはひょっとすると、トレントの上位種であるマーダートレントかもしれない。

 人の生き血を養分にするとされる、極めて凶悪な食人植物だ。


「さながら、境界の森の番人といったところですね。簡単には行かせてくれないようだ!」

「どうする? ここで迎え撃つか?」

「私にお任せを。伐採してやりますよ!」


 そう言うと、ウェインさんはドラゴンの背を飛び降りた。

 そして縦横無尽に振るわれる枝や蔦を、見る見るうちに剣で切り裂いていく。

 さっすが、Sランク冒険者!

 その獅子奮迅ぶりに、たちまち仲間の女性たちから歓声が上がる。


「ウェイン様、さすがです!」

「そんな木の群れ、さっさとやっつけちゃってください!」

「ははは! よく見ていてくれたまえよ!」


 歓声に応じて、手を振る余裕を見せるウェインさん。

 ……前々から思っていたのだけれども。

 ひょっとして、ウェインさんの連れている女性陣って応援のためだけにいるのかな?

 特に、補助魔法とかを掛けてサポートしている様子もないし……。

 応援のために魔界まで行くって、それはそれで気合の入った集団だな。

 俺は半ば呆れつつも、ちょっとばかり感心してしまう。


「はああぁっ! でやあああっ!!」


 応援が効いたのか、トレントの群れを次第に押し返していくウェインさん。

 やがてひと段落着いたところで、彼は姉さんの顔を見て二ッとウィンクをした。

 自身の活躍ぶりに相当の自信があるのだろう、白い歯を輝かせてひどく自信ありげである。

 しかしここで、トレントたちの反撃が始まった。


「ん? あれは……?」

「木の実?」


 ヒュルヒュルと音を立てながら、無数の何かが飛来した。

 あれは……見たところ、木の実だろうか?

 綺麗な放物線を描いたそれらは、地面に着弾するや否やボンッと音を立てて破裂した。

 そして中から、得体の知れないガスのようなものが噴出する。

 それに触れた途端、若木が色を失って枯れた。


「ひぃっ!? ウェ、ウェイン様ーー!!」

「くっ! まさかこんな飛び道具を使ってくるとは!」

「ウェイン! 剣圧を調整して、あの実を割らずに打ち返せ!」


 とっさに指示を飛ばす姉さん。

 しかし、それを受けたウェインさんは戸惑ったような顔をした。

 そしてすぐさま、姉さんに非難めいた眼差しを向ける。


「そんな無茶苦茶な! ここは退却して、対応策を考えましょう!」

「そうですよ! うわっ!?」


 木の実の一つが、ランドドラゴンの足元に落ちた。

 たちまちガスが噴出し、ドラゴンは唸りをあげて後退する。

 当然ながら、その背中の上は大揺れ。

 たちまち上へ下への大騒ぎとなってしまう。


「落ち着け! ええい、こうなったら私がやる!」

「ね……ライザさん!?」


 見ていられないとばかりに、姉さんが飛び出していった。

 その予想外の行動に、ウェインさんはたちまちぎょっとしたような顔をする。


「ライザ殿! 何をなさるつもりですか!?」

「言っただろう? あの実を打ち返すまで!」

「ですから、そんなことができるわけ……」

「はあああぁっ!!」


 再び、トレントたちが一斉に木の実を放った。

 気迫一閃、姉さんは眼に映らぬほどの速さで剣を抜き放つ。

 伝わる衝撃波。

 たちまち、こちらに向かっていた木の実のすべてが弾き飛ばされた。

 しかも、そのすべてが割れることなくトレントたちの方へと戻っていく。

 時を逆転させたかのようなその動きは、まさしく神業としか言いようがなかった。


「グゴゴゴゴゴオオッ!!」


 木の実から放出されるガスは、トレントたち自身にも有効だったようだ。

 植物らしからぬ悲鳴をあげながら、右へ左へと逃げ惑う。

 こうして、周囲を埋め尽くすほどのトレントたちは瞬く間に逃げて行ってしまった。

 強い者には逆らわないということが、本能としてあるのだろう。

 驚くほどに素早い撤退ぶりである。


「なんだ、あっけないな」


 拍子抜けしたように、やれやれと肩を落とすライザ姉さん。

 コキコキと首を鳴らして、まだまだ暴れたりなさそうな様子である。

 それを見たウェインさんは、白昼夢でも見たかのように瞼をこする。


「ラ、ライザ殿……!?」

「ん? どうかしたのか?」

「ず、ずいぶんとお強かったんですね。高名な騎士だとは伺っていましたが」

「そうか? これぐらい、熟達した剣士ならばできるだろう。なぁ?」


 俺の方を見て、話を振ってくる姉さん。

 うーん、そうだなぁ。

 さすがにあれをそのまま真似するのは厳しいけれど……。


「八割ぐらいなら、俺でも返せますね」

「む、何だその自信のなさは。そこは全部返せます、だろう?」

「いや、さすがにそこまでは。絶対いくつか漏れるから」

「未熟者め。それぐらいできるようになっておけ」

「あはははは…………。なかなか、厳しい方のようだね」


 そう俺に告げるウェインさんの顔は、何故だかひどく青ざめていた。

 ひょっとして、ガスを少し吸い込んでしまったのだろうか?

 唇も青く、先ほどまで覇気に満ちていたのが嘘のように元気がない。


「大丈夫ですか? ずいぶんと具合が悪そうですけど」

「な、何でもない。それより、早く先に進もうじゃないか」


 そう言うと、ウェインさんはランドドラゴンの頭をポンポンと叩いた。

 それに応じるように、ドラゴンは首をもたげるとゆっくりと歩き始める。

 こうして俺たちは、魔界を目指して森の中を進んでいくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] どうでもいいことに引っかかった。 >植物らしからぬ悲鳴をあげながら、 逆に植物らしい悲鳴を聞いてみたい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ