八話 アンデッド発生事件
「こ、こんなに受け取れませんよ!」
シスターさんから渡された報酬額に、俺は戸惑いの声を上げた。
金貨がひい、ふう、みい……。
全部合わせて、驚愕の五十万ゴールド。
最初に受け取る約束をしていた八千ゴールドの約六十倍だ。
「これでも安すぎるぐらいです! まさかあれだけ広い墓地を浄化できる冒険者さんがいるなんて、思いませんでした!」
「は、はぁ……」
それにしても、俺が好きでやったことだしなぁ。
これだけの大金、受け取ってしまうのは気が引けるというか。
大きな教会だから、これを出したからと言って財政難になることはないだろうけど……。
「実はここ最近、アンデッドが発生する事件が何件か起きておりまして」
「え? あの墓地でですか?」
稀に、墓地の死体がアンデッドとして蘇ることがある。
しかしこれは、あくまで荒れ果ててしまったお墓の話。
数十年とか数百年とか、そのぐらいの単位で放置した場合に限られることだ。
この教会の裏にある墓地の場合、シスターさんたちが定期的に手入れをしている。
アンデッドが発生するようなこと、まずありえないんだけどなぁ……。
「はい。原因はわからないのですが、墓地を管理する教会として対策を行わないわけにも参りません。それで、今度聖女様が巡教に出られた際に街へお寄りいただく方向で話が進んでいたのですが……」
「せ、聖女様!?」
それって、ファム姉さんのことじゃないか!
姉さんが来たら、俺がここにいることがバレちゃうかもしれないぞ!
「はい。ですが、ジークさんに浄化していただいたおかげでその必要はなくなりました。あの状態なら、さすがにもうアンデッドが発生することはないでしょう」
「な、なんだ……良かった……」
ファム姉さんが来ないことを知り、ほっと胸をなでおろす俺。
念のため偽名を使っているし、聖女がギルドへ近づくようなことはないだろうけど……。
姉さんたちの勘って、馬鹿みたいに鋭いからなぁ。
半径数キロ以内に近づかれたら、俺の居場所を察知されかねない。
「それで、あれだけ感謝していたというわけですか」
「はい。聖女様にお越しいただくとなりますと、準備などいろいろと大変ですからね。この街の教会は豊かな方ではありますが、それでも負担が大きくて」
「聖女様を呼ぶ費用を考えれば、五十万でも安すぎる……と」
ファム姉さん自身は、華美を好まず清貧を尊しとする人物である。
しかし、光十字教団の頂点である聖女を身一つで移動させるわけにも行かない。
当然ながら護衛が必要だし、最低限の従者も必要だ。
巡教の途中に寄ってもらうという話であったが、それでも数百万ゴールドは飛んだだろう。
「なるほど、わかりました。そういうことであれば……五十万ゴールド、受け取ります」
「ありがとうございます。しかし、あなたはブランシェをどこで習得されたのですか? あれは聖十字教団でも、限られた方しか習得されていないものですが……」
そうだったのか……。
ファム姉さんは「覚えておくと便利な魔法」と言う程度のノリで教えてくれたから、簡単なものだとばかり思っていた。
ううーん、これはどうやって誤魔化そうか。
相手は教会関係者だし、下手なことを言うと聖女の身内だとバレてしまうかもしれない。
「え、えーっと……。村の神父様に教えてもらいました」
「神父様、ですか」
「はい。何でも、昔はそれなりに地位のある方だったそうで。いろいろと教えてくれたんです」
「そうですか。フェザーン様あたりかな……? いや、コルドバ様かも……」
俺がでっち上げたような人物は実在するらしい。
シスターさんは顎に手を当てると、ぶつぶつとつぶやき始める。
どうやら、うまく誤魔化すことが出来たみたいだ。
「では、俺はこの辺で帰らせてもらいますね」
「あ、ちょっとお待ちを!」
「何です?」
「村の神父様にいろいろと教わったと言っておられましたよね? その中にサンクテェールの魔法はありませんでしたか?」
何か困っているのだろうか?
尋ねてきたシスターさんの顔は、こちらに懇願するかのようであった。
サンクテェールと言えば、聖域を張って瘴気の侵入を防ぐ魔法。
さっき言っていたアンデッド発生事件にかかわることだろうか?
「ええ、教わりましたけど……何に使うんです?」
「地下水路の調査に同行していただきたいんです。最近になって急に瘴気の濃度が上がったので、墓地でアンデッドが発生した件との関連が疑われているのですが……。かなり広大なので、サンクテェールの魔法がないと瘴気を防ぎながら探索することが困難なのです」
「なるほど、そういうことですか」
「もちろん、後で教会の方からギルドに正式な依頼として出させていただきます。報酬は一日五万ゴールドでいかがでしょうか?」
一日五万……!
護衛でこれは、なかなかの好条件ではなかろうか。
いつも俺が受けているDランク依頼では、一日拘束されて八千から一万ってとこだし。
そこそこ危険度が高いことを考えても、十分と言える額だろう。
「それなら大丈夫です、お引き受けします! ただ……ランクが高すぎるかもしれませんね。ギルドの依頼って報酬額とかでランクが決まるそうなので」
「おや? ジークさんは高ランク冒険者ではないのですか?」
「あはは、違いますよ。Dランクです」
「えええっ!? サンクテェールまで使えるのに、Dランクなんですか!?」
叫びをあげて驚くシスターさん。
結局、俺がDランクだと納得してもらうのにそれから二十分ほどかかってしまった。
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