三十四話 合成魔法
「次はジーク君の番ね。期待しているわ」
俺の方を向き、微笑むマリーンさん。
いよいよ、勝負の時だな……!
剣に魔力を通すと、そのまま高く掲げた。
たちまち魔法陣が空中に展開され、紅い光がほとばしる。
濃密な魔力が実体化し、揺らめくオーラとなって輝いた。
「なかなか悪くないわね。魔力の練り上げ、上達したじゃない」
俺の様子を見ながら、ふぅんと満足げにうなずくシエル姉さん。
さすがにまだ余裕たっぷりと言った様子で、焦りはみられない。
でもまだまだこれから、こちらにだって策はあるんだ。
シエル姉さんのあの余裕を、必ず打ち崩して見せる!
「はああぁっ!!」
「おや、珍しいねえ」
剣から炎が噴き出し、渦を巻いた。
俺はそのまま正眼の構えを取ると、続いて軽く剣舞を披露する。
炎が揺らめき、轟々と風斬り音が響く。
使用者のほとんどいない魔法剣。
それを見たマリーンさんは、少しばかり感心したように目を見開いた。
……よし、悪くない感触だ。
俺は続いて、光の魔法を発動する。
「サンティエ!!」
空中に展開された魔法陣。
幾何学模様と古代文字からなるそれを、俺は黒剣で真正面から切り裂いた。
氷を砕き、ばら撒くような心地よい音。
刹那、凝集していた魔力が弾けて光へと変わる。
そこから続けざまに二つ、三つ。
魔法陣を切り裂くたびに、音と光が華を咲かせる。
「さすが、ジーク君だね! やるじゃないか!」
「これなら、ひょっとして……」
「ああ、いけるかもしれねえ!」
「……いや、これだけではまだ弱いな。シエルに勝つには、足りないぞ」
俺の魔法を見て、興奮した様子のクルタさんたち。
ロウガさんに至っては、腰を上げて立ち上がってしまっている。
しかし、さすがにライザ姉さんは冷静だ。
これだけではまだ押しが足りないという彼女の判断は、とても正確である。
ここで一つ、勝負をかけなきゃ……!!
「次だ。オードゥメール!」
「……混ぜた? 剣を軸に?」
「なるほど、剣を芯にすれば二つの魔法を混ぜられるってことねえ」
炎を帯びた剣に、水流の蛇が巻き付いた。
通常、性質の異なる魔法を同時に発動して合せることは極めて困難である。
炎と水の場合、互いに打ち消し合ってしまって最悪の場合は大爆発が起きる。
それを俺は、黒剣を軸として回転させることで安定させた。
清らかな水と炎が渦を巻き、美しい輝きを振りまく。
「……ふうん」
シエル姉さんの目が、不機嫌そうに細められた。
先ほどまでの余裕がすっかりなくなりつつある。
いいぞ、この調子だ!
俺は炎と水の逆巻く剣を手に、そのまま剣舞を続けた。
舞い散る飛沫が炎に照らされて、幻想的な空間が展開される。
そして――。
「そりゃああああっ!!」
剣を振り上げ、勢いよく闘技場の中心に突き立てた。
その瞬間、炎と水が強烈な爆発を起こす。
轟音、そして爆風。
白い蒸気が濁流となって周囲を呑み込んでいった。
即座にマリーンさんとシエル姉さんは障壁を張り、熱気を防ぐ。
やがてすっかりモヤが晴れると、闘技場の地面に大きな花の文様が焼き付けられていた。
「おお、さすがだな! いいぞ、ジーク!」
「悪くないですね。高評価です」
「盛り上げ方が分かってるじゃないか。これならきっと……!」
「うむ、いけるかもしれん!」
興奮するクルタさんたち。
やがて客席から、パチパチと拍手が響いてきた。
ふぅ、ひとまずやり切ったぞ……!
俺はほっと胸をなでおろすと、剣を納めて手を振った。
しかし……。
「悪くなかった。けど、私には及ばなかったわね」
胸を反らし、自信満々に告げるシエル姉さん。
彼女はそのまま俺に近づくと、人差し指で頭をチョンッとついた。
そしてやれやれと肩をすくめると、俺が披露した魔法の問題点を指摘する。
「確かに、パフォーマンスとしては優れていたわ。それは認めてあげる。最後に爆発して花が出てくるってのも良かったわ。でも、魔法としては中級魔法が主体で制御も私よりは甘かった。合成魔法も……」
シエル姉さんはそこで言葉を区切ると、不意にこちらに向かって手を伸ばした。
そして俺が腰に差していた黒剣を抜き取ると、その重さにふらつく。
「……あんた、よくこんなに重い物を振り回してたわね!」
「そりゃあ、俺は鍛えてるから」
「伊達に、ライザ姉さんに絞られてないってわけか……」
重さに閉口しながらも、どうにか踏ん張るシエル姉さん。
彼女は腕をプルプルとさせながらも、剣を正眼に構えた。
そして足を肩幅に広げて姿勢を安定させると、つぶさに呪文を紡ぐ。
「ヴァルカン! オードゥメール!」
瞬時に展開された二重魔法陣。
そこから噴き出した炎と水が、絡み合うようにして剣に巻き付いた。
驚いた……さすがシエル姉さん!
俺が見せた合成魔法を、一度見ただけで習得してしまったらしい。
「やっぱり媒体が良かったのね。ふふ、まだ完全じゃないけど私でも再現できたわ」
「むむむ……!」
「これで、私の勝利は確定的よね。マリーン先生?」
ニコッといい笑顔をしながら、話を振るシエル姉さん。
するとマリーンさんは、最後に地面に描かれた花の文様を何度も確認して――。
「いいえ、ジーク君の勝利です」
穏やかで、それでいて有無を言わせぬ覇気を溢れさせながら宣言するのだった。
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