二十五話 スライムを止めろ!
更新が遅くなってしまい、すみません!
いよいよ二章も、本格的に話が動き始めます!
「おいおい、冗談じゃねえぞ……?」
山をも飲み込まんとするグラトニースライム。
いったいどうすれば、これほどまでに巨大化してしまうのか。
もはやスライムというより自然災害のようなそれに、俺たちは愕然とした。
「いくらなんでも、さすがに成長が速すぎませんか?」
「谷の水位も、まだそれほど高くないですね」
雨が降り出してから、まだ小一時間といったところ。
いくら谷に水が集まるからと言って、あそこまで一気にスライムが成長するものであろうか。
事実、明かりを手に谷底を見ても水位はまださほどでもなかった。
「……とにかく、あのスライムのとこへ行くで! このままだと、手が付けられんようになる!」
「ああ! 急ぐぞ!」
「……はい!」
相変わらず高いところが苦手な俺は、ややためらいつつも答えた。
今は高所恐怖症などと言っている場合ではない。
恐怖を押し殺しながら、谷沿いの道を足早に進んでいく。
そうしている間にも雨は強まり、俺たちを守る空気の膜の表面が時折白くなる。
この風向きはまるで……スライムに向かって、雨を送り込んでいるかのようだ。
「あれ、なんでしょう?」
不意に、俺の前を歩いていたニノさんが空を指さした。
彼女の示した方を見やれば、雲間に何かが浮いているように見える。
あれは鳥……なのだろうか?
それにしては縦に長く、奇妙な形だ。
「もしかして……人か?」
目を細めながら、つぶやく姉さん。
剣聖であるライザ姉さんの視力は、俺たちを大きく上回っている。
どうやら俺達には見えない詳細なところまで、はっきりと見えているようだ。
「おいおい、人が飛んでるっていうのか?」
「断言はできないが、そのように見える」
「もしかすると、魔族かもしれないね……」
深刻な顔をするクルタさん。
確かに魔族ならば、空を飛ぶぐらいは十分あり得そうだな。
けど、どうして魔族がこんなところに……。
あのグラトニースライムと関係があるというのだろうか。
もしそうだとしたら、かなり厄介だな。
「それよりもあれ、なんだ?」
さらに先へと進んでいくと、先頭を歩くロウガさんが何かを指さした。
目を凝らしてみれば、それは……巨大な岩であろうか。
谷底へと落ちたそれが、すっかり水の流れを遮っていた。
さながら天然のダムのようになってしまっている。
どうやらこいつが、スライム巨大化の原因のようだ。
「あの岩……そういえば、前に来た時もありましたね」
「休憩したときの岩か?」
「ええ、おそらくは」
前に訪れた時、崖に突き刺さっていた大岩。
それが雨によって土砂と一緒に崩れ落ちてしまったらしい。
これによってせき止められた水を吸って、スライムは一気に巨大化したようだ。
「まずは、あれを破壊して水を抜くのが一番かな」
「せやね。足元の水がなくなれば、スライムの巨大化はひと段落するはずや」
「けど、あの巨大な岩をどうするんです?」
「斬ればいい」
きっぱりとした口調で言う姉さん。
なんともまあ……頼もしいお言葉。
しかしあれほどの大岩、本当に切ることなんてできるのか?
少なくとも、俺にはちょっと難しいな。
そんな俺の不安を察したのか、姉さんはすこぶるいい笑顔で言う。
「任せておけ。私を誰だと思っている」
「……わかった、頼むよ姉さん」
「任せておけ!」
そういうと、勢いよく谷を降りていく姉さん。
天駆も使用しながら、落ちるように谷底へと向かう。
風の膜から出た彼女の体を、容赦なく雨が打つ。
一人で闇の中を進むその姿は、とても孤独に見えた。
しかし……同時に、なんとも誇り高く力強いものに見える。
これが、剣聖の持つ力なのだろう。
「姉さんがあの岩を何とかするうちに、俺たちはあのスライムを止めないと!」
「せやね。ちょうど岩の上が通れるから、行かせてもらうとしよか」
俺たちは姉さんに一声かけると、大岩の上を通過して反対側へと渡った。
いよいよ、グラトニースライムの巨体が近づいてくる。
こうやって近くで見ると、一段とでかいな……。
こんなもの、俺たちにどうにかできるものなのだろうか。
弱気になりそうになるが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
急がないと、こいつはますますでかくなるのだから。
「これを使ってください。雨でも使える火薬です!」
「ありがとう!」
「じゃあ、僕は使い損ねた竜血薬を使おう。これを火薬に混ぜてみて!」
竹筒から取り出された黒い砂のような火薬。
それに一滴だけ、竜血薬を加えた。
たちまち火薬の色が変化して、紅い光沢を帯びたものとなる。
これは……!!
「竜血薬を火薬にほんの少しだけ混ぜると、威力が劇的に上がるんだ」
「聞いたことあるな。竜炎薬とか何とかいうんだっけか」
「うん。威力があまりにも高すぎて使いにくいのと、竜血薬が貴重だからあまり知られてないんだけどね」
「助かります!」
これで俺の魔法の威力を底上げすれば、グラトニースライムを焼き払うことだってできるかもしれない。
けど、スライムの範囲がこうまで広がってしまっていると厳しいな。
どうにかスライムを追い込んで、一か所に固めることができればいいのだけど――。
俺が頭をひねっているその時であった。
「ノアッ!!!!」
どこからか、聞き覚えのある声が聞こえた!
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