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十八話 姉と研究員

「どうしたんですか? そんなに焦った顔をして」


 俺は実験を中断すると、部屋に駆け込んできたロウガさんの方を見やった。

 すると彼は、胸に手を当てて息を整えながら言う。

 

「ライザが帰ってきたんだ! 例の研究員を連れて!」

「え? 姉さんが!?」


 一人で戻ってくるならともかく、研究員さんを連れて?

 姉さん、ずいぶんとまた急いだようだな……。

 あのスライムへのリベンジを、そんなに急ぎたかったのだろうか。

 あれで姉さんのプライドが傷ついていたことはよくわかったけど……。


「それで、話があるからギルドへ来てくれって」

「わかりました。すぐ行きます!」

「ああ、そうしたほうがいい。それで、例のプレゼントはできたのか?」

「最終試験はまだですが……何とか」

「やるじゃねえか! 俺はてっきり、あと一週間はかかるとみてたぜ」


 驚いた顔をするロウガさん。

 まあ、偶然いいアイデアを思い付いたからなんだけどね。

 マリーンさんやクルタさんのサポートもあったことだし。

 要は恵まれた環境だったからだ。


「じゃ、ボクも行こうかな」

「そうですね。たぶん、スライム討伐に関する話でしょうし」

「なら、ニノのやつも呼ばねえとな」


 こうして俺たち三人は、姉さんが待つギルドへと急ぐのであった。


――〇●〇――


「おお、ジーク! 待っていたぞ!」


 俺たちがギルドの酒場兼エントランスに入ると、すぐさま姉さんが声を上げた。

 凄まじいまでの強行軍をしてきた割には、ずいぶんと元気そうである。

 代わりに、その隣には青ざめた顔でテーブルに寄り掛かっている少女がいた。

 彼女は一体……誰であろうか?

 姉さんの知り合いにしては、見覚えのない顔だな。


「えっと……姉さん、この人は?」

「研究員のケイナだ」

「この人がそうだったんですか! 何だかちょっと、元気なさそうですけど」


 ケイナさんと言えば、この街に来る予定だった魔物研究所の研究員さんである。

 その到着が遅れているので、姉さんが迎えに行ったのがそもそもの発端だ。

 

「……うぅ、目が回るわぁ。人間って、あんなに速く走れるもんなんやなぁ……」


 くらくらとしながら、何事か呟くケイナさん。

 これはもしかして……乗り物酔いでもしているのか?

 目の焦点がろくにあっておらず、口調もふわふわとしている。

 俺がとっさに姉さんの方を見やると、彼女はにわかに視線をそらせた。


「……姉さん、どんな無茶したんですか?」

「べ、別に大したことはしてないぞ!」

「大したことしなきゃ、こんなふうにはならないと思うんですけど」

「そ、それはだな……」

「何か綺麗な花畑が見えるでぇ……」

「あっ! そっちに行っちゃダメだよ!」


 何だかヤバい雰囲気になったケイナさん。

 クルタさんはとっさにその肩を掴むと、ゆさゆさと揺らして正気を取り戻させようとする。

 ……いや、本当に姉さんなにしたんだよ。

 俺が非難めいた目を向けると、姉さんは渋々ながらも語りだす。


「私はただ……少しでも早く戻ろうと思ってな。ケイナをおんぶしてきただけだ」

「それで走ったんですか」

「あ、ああ。ただ、配慮はしたぞ。川を渡るときに水面を走ったぐらいで、他は大したことはしていない!」

「いやいやいや。おんぶして水面を走れる時点で、いろいろとおかしいだろ!」


 思わず真顔でツッコミを入れるロウガさん。

 俺とクルタさんも、彼に同調してうんうんとうなずいた。

 いくら小柄な女性であるケイナさんとはいえ、それなりに体重はあるはずだ。

 それをおんぶして水面を走って来たって、いったいどんだけだよ……。

 いやまあ、姉さんは空気を蹴って空飛べるような人ではあるけどさ。

 さすがにちょっと予想外過ぎるぞ。


「……わ、悪かったな。反省しよう」


 あれ……意外なほど素直だな?

 前だったら絶対に自分の非を認めようとはしなかっただろうに。

 ここ最近、姉さんの態度が柔らかくなっているような気がする。


「わかればいいですよ。それで、話って言うのは例のスライムに関することですか? ケイナさんも来たことですし」

「そうじゃないぞ。実はな……シエルがこの街に来ようとしている!」

「…………ええっ!?」


 あ、あのシエル姉さんが!?

 いつも研究のためとかどうとか言って、家を出ることすらまれだったあのシエル姉さんがか!?

 こりゃ、いよいよ厄介なことになったぞ……。

 猪突猛進で脳筋なライザ姉さんと違って、シエル姉さんは賢者だ。

 アエリア姉さんほどではないにしても、知恵が回る。

 説得して帰ってもらおうとしたら、ライザ姉さんの比じゃないぐらい大変そうだ。


「それで、大慌てでケイナさんを連れて戻って来たってわけですか」

「ああ。一刻も早くジークに知らせる必要があったからな」

「誰だ、そのシエルって言うのは?」

「女性の名前……ですか?」


 こちらの事情を知らないロウガさんとニノさんが、ほぼ同時に尋ねてくる。

 えーっと、これはどう説明するのがいいのかな。

 姉が賢者で、それが街にやってくるとか言っても混乱を招きそうだし……。

 というか、そもそもどれぐらい猶予はあるんだ?

 さすがに明日来るとかなったら困るぞ!


「と、とりあえず落ち着いて話しましょう! 人に聞かれないように場所も移して――」

「ケイナさん、マスターを連れてきましたよ!」


 俺が場所を移そうとしたところで、受付嬢さんが現れた。

 まずいことに、その後ろにはマスターまでいる。

 姉さんがケイナさんを連れて来たので、さっそく調査のことで話をしに来たようだ。

 た、タイミング悪いぞ……!?


「な、何をすればいいんじゃ!?」


 自分のキャパシティを越えそうになった俺は、思わず変な口調で声を上げるのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 慌ててるとはいえ揺れて気分が悪くなってるところに肩つかんで揺さぶるとは…、悪の所業ですね
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