九話 オルトさんの店
「そいつはまた厄介なことになってんなぁ……」
「簡単な依頼だと思っていたら、やられちゃいました」
「もし俺がいたら、その酸も盾で防げたかもしれんなぁ。運がない」
ギルドに併設された酒場にて。
事の次第について大まかな説明を受けたロウガさんは、やれやれと肩をすくめた。
なぜそんなにトラブルに巻き込まれるのか、とでも言いたげだ。
それについては、むしろ俺だって聞きたいぐらいだ。
ちなみにロウガさんの方は、本人の機嫌から察する通り無事に依頼を達成したらしい。
これで彼も、Aランクまであと一歩と言うところまで近づいたわけだ。
この調子ならば、来月か再来月ぐらいにはあっさりと到達してしまうかもしれないね。
「それでライザの機嫌を取るのに、何かいい方法はないかって聞きたいわけだな?」
「ええ。ロウガさんならこういうこと慣れてるんじゃないかなって」
「ははは! 任せたまえ、少年よ!」
胸をドンと叩いて、ウィンクをするロウガさん。
白い歯がキラリと輝き、何とも言えない存在感を醸し出す。
……あまりにも自信のある様子が、逆にちょっと不安になってきた。
ま、まあここはロウガさんを信じていこう!
「……それで、どんな方法なんです?」
「機嫌を損ねた女には、心の籠った贈り物をするって昔から決まってるぜ」
「要は貢げと?」
「そうそう、それでジェニファーちゃんも落とした……って! 言い方!!」
辛辣な物言いをするニノさんに、たまらずツッコミを入れるロウガさん。
相変わらず、仲の良い二人である。
こうやって見てると、本当にしっかり者の娘とダメなお父さんって感じだな。
……おっと、ダメって言うのは失礼だったか。
「まあ、贈り物をするってこと自体にはボクも賛成かな」
「だろ?」
「けど、何を贈るかが問題だね。それについて案はあるのかい?」
「それなら、防具を贈ればいいんじゃねえか? スライムに溶かされちまったんだろ」
「なるほど。でも、防具ってサイズが分からないといけないんじゃないですか?」
俺がそう尋ねると、ロウガさんは豪快に笑った。
「大丈夫だよ。防具のサイズっつーのはある程度調整が効くもんだから。特に術式が刻んであるような高級品は自動調整機能なんてのもあるんだぜ」
「へえ……! そりゃいいですね!」
「その分だけ高いがな。けど、ジークの稼ぎなら問題ないだろ」
もろもろ含めて、いま俺の手元には一千万程のお金がある。
さすがにこれだけあれば、防具を買うには困らないだろう。
俺はあまり買ったことがないが、剣よりは相場も安かったはずだし。
「じゃあ、明日バーグさんのお店に行きましょうか」
「ん? 親父の店は防具は取り扱ってないぜ」
「え、そうなんですか? 参ったな、他にいいお店は知らないんですけど……」
この街のお店と言うと、バーグさんのとこぐらいしか出かけたことないからなぁ。
この機に新規開拓してみてもいいが、さすがに姉さんへのプレゼントで失敗したくはない。
すると黙っていたクルタさんが、何かを思い出したように語る。
「うーん、そうだねぇ……。ボクのおすすめはオルトさんの店かな」
「オルトさん? はて……」
どこかで名前を聞いたことがあるような、ないような。
喉に小骨が引っかかったみたいな感じで、ちょっと気持ち悪いな。
あともう少しで何か思い出せそうなんだけども。
「防具屋さんですね。色んな街を回って、最新の防具を仕入れているとか」
「あ、そうですよ! 最初に会った商人さんですよ!」
ポンッと手を叩く俺。
そうそう、オルトさんと言えばこのラージャに来る途中であった商人さんである。
俺を見込んで、ギルドに推薦してくれた人だ。
近いうちにお店へ行こうと思っていたんだけど、いろいろあってすっかり忘れてしまっていた。
「知り合いなのか?」
「ええ、ちょっとお世話になった人です。店を訪れるつもりだったんですけど、うっかり忘れちゃってて」
「なら、なおさらいい機会じゃねえか。その店でいい防具を買ってやろうぜ」
うん、それがいいかもしれない。
お世話になったのに、今まで全然恩返しできてないしな。
俺がスムーズに冒険者になれたのも、オルトさんの推薦状があったからだ。
あれがなければ今ごろ、冒険者になれてすらいなかったかもしれない。
「私が案内しましょう。何度か行ったことがありますから」
「それは助かります! じゃあ、明日ギルドに集合ってことでいいですか?」
「はい、構いません」
こうして俺たちは、オルトさんの店へと向かうこととなったのであった。
――〇●〇――
「ふふ……これは意外とチャンスかもしれないなぁ」
皆が立ち去った後のこと。
ギルドに一人残ったクルタは、酒をちびりちびりと飲みながらつぶやく。
ジークを攻略するうえで、最大の難関であった姉のライザ。
それが一時的にとはいえ街を離れるのは、クルタにとっては好都合であった。
「明日の買い物、いろいろと楽しみだねぇ」
ニヤッと目元をゆがめるクルタ。
彼女はメモ帳を取り出すと、ああでもないこうでもないと考えをまとめ始める。
こうしてこの日の夜は、穏やかに過ぎていくのであった。
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