四話 特別試験
「君がジークくんかい?」
翌日。
特別試験を受けるべくギルドへ向かうと、すぐに少女が声をかけてきた。
腰に短剣を二本差し、革の鎧をまとった軽装の剣士である。
「えっと、あなたは?」
「僕はクルタ。ギルドから君の試験を担当するように頼まれた、試験官さ」
「そうですか……」
試験官を任されるということは、相当の実力者であるはずだ。
だが見たところ、クルタさんは俺と同じか少し年下。
この感じはちょっと予想していなかったな……。
「むぅ、何だいその顔は? 僕の実力を疑ってるのかい?」
「……そういうわけじゃないですけど、ずいぶんと若い方だなって」
「クルタさんは、このラージャ支部でも希少なAランク冒険者さんですよ! まだお若いですが、実力については折り紙付きです!」
すかさずフォローをした受付嬢さん。
彼女の紹介に、クルタさんはふふんッと胸を反らせる。
この自信満々な感じ、ちょっぴりだけどシエル姉さんに似てるな。
そう言えば姉さんたち、今ごろどうしているんだろうか?
俺のことを探しているのかな?
「何だか上の空だね?」
「あ、すいません」
「僕からしてみたら、君の方がいろいろ疑わしいね。どこか自信がなさそうで、強者特有の覇気があまり感じられない」
覇気ねぇ……。
まあ、本当に強いのか自分でもまだ半信半疑だしな。
剣術の修行を始めてから約三年、ほぼ毎日のように無能と言われてきたのだから。
そんなにすぐには自分の実力を信じられるはずがない。
「試験はギルド地下の訓練場で行います。私が立ち会いますので、ついて来てください」
受付嬢さんに案内され、俺とクルタさんは階段を下って訓練場へと向かった。
へえ、地下だというのに明るくて立派だな。
闘技場のような造りの訓練場は、ドラゴンでも入れそうなほど大きかった。
「ではお二人とも、模擬戦用の武器を」
訓練場の端に、木製の武器が何種類かおかれていた。
その中から俺は剣を、クルタさんは短剣を手にする。
どうやら彼女は二刀流の使いてらしく、両手に武器を持っている。
「よし、じゃあ始めようか」
「ええ!」
「では……特別試験、始め!」
受付嬢さんの合図に合わせ、互いに武器を構える俺とクルタさん。
ふむ……なかなか隙のない構えだな。
しかし、ライザ姉さんと比べてしまうと隙だらけもいいところだ。
Aランクと聞いて警戒していたけれど、この程度なのだろうか?
「はっ!」
姿勢を低くし、前方に向かって一気に飛び出す。
一閃。
剣の切っ先が大気を裂き、真空の刃が生まれた。
クルタさんはそれを見て、たちまち目を丸くする。
「うっそぉ!?」
飛び退いて距離を取り、かろうじて斬撃を避けたクルタさん。
あれ、これって珍しい技なのか?
ライザ姉さんは「剣士の基本技だ」って言ってたけど。
心底意外そうな顔をしたクルタさんに、こちらまで驚いてしまう。
「飛撃か……剣聖の奥義じゃないか。君、どこでこんなものを習ったんだい?」
「ええっと、街の道場で」
「そんなところで教えられる技じゃないはずだけどね。まあいい、こうなったからには僕もちょっと本気を出そうか」
そう言うと、クルタさんはあろうことか短剣を地面に置いた。
これは……もしかして無刀流というやつか?
よくよく目を凝らしてみると、クルタさんの手に魔力が集中しているのがわかる。
物理的な刃ではなく、魔力の刃で戦うつもりのようだ。
「木の短剣じゃ、魔力の通りが悪いからね。ない方がむしろ都合がいいんだよ」
「あわわ……クルタさん、それはやりすぎですよ! 特別試験はあくまでも力を見るためのもの、本気で戦うわけじゃないんですよ!?」
「大丈夫、ケガはさせない」
そういうや否や、クルタさんは舞うような動きでこちらへ飛び込んできた。
身体の柔らかさを活かした不規則な動き。
素早い上にかなり読みにくかった。
クルタさんはどうやら、対人戦を得意とするタイプのようだ。
けれど、ライザ姉さんと比べるとやはり数段劣る。
あの人の攻撃は、基本的に動きが全く見えないからな。
剣を抜いたと認識した瞬間には、既に刃が届いている。
それに対応するよう求められてきた俺にとって、眼に見える時点で脅威ではない。
「ふっ!」
「なっ!」
交互に迫る腕に剣を当て、軌道を逸らせる。
クルタさんの体勢が崩れたところで、身体を半回転させた。
そのまま彼女の背中に向かって一発。
エビぞりになったクルタさんは「かはっ!」と苦し気に息を吐く。
そして――。
「……参った。僕の負けだ」
倒れそうになり、膝をついたクルタさん。
彼女はどこか悔しげで、それでいてさっぱりしたような口調で宣言した。
途端に審判役の受付嬢さんがぎょっとした顔をする。
「か、勝った!? 新入りさんがAランクに勝った!? ど、どうしましょうこんなこと前代未聞ですよ! え、ええっと!?」
「落ち着いて落ち着いて!」
「はっ! とにかく、マスターを呼んできますね!」
俺たちが止める間もなく、受付嬢さんはアベルトさんを呼びにすっ飛んで行ってしまった。
取り残されてしまった俺とクルタさんは、互いに顔を見合わせる。
「やれやれ、彼女の落ち着きのなさにも困ったものだ」
「いつもああなんですか?」
「まあね。それよりも問題は……」
そう言うと、ぐいぐいっと距離を詰めてくるクルタさん。
な、なんだろう?
先ほどまでとはどこか違う彼女の気配に、俺は少し気圧されてしまう。
「ええっと……! 俺が何者かとかそういうことだったら、答えられませんよ?」
「そんな野暮なことじゃないさ。ただね」
もったいぶるクルタさんに、俺はたまらず唾をのんだ。
何だろうこの雰囲気、前にも姉さんたちから感じたことがある!
俺が警戒していると、クルタさんはいたずらっぽく笑いながら言う。
「僕とパーティを組まない?」
「え?」
予想だにせぬ言葉に、俺はたまらず聞き返すのだった。
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