第二十二話 潜む魔族
「たぶんこの辺りのはずだけど……」
剣に刻まれた術式が起動して、はや一時間ほど。
俺とシエル姉さん、そしてライザ姉さんの三人は街の外へとやってきていた。
騒ぎを引き起こした元凶を一刻も早く叩くためである。
「何の変哲もない森ね」
「ええ、見通しもいいですし」
こうして魔力を逆探知してたどり着いた先は、一見してごく普通の森であった。
いや、規模からして林というべきであろうか?
日頃から低ランク冒険者や街の住民が薬草採取に来るような場所で、木々はまばら。
下草もあまり生えておらず、隠れられるような廃墟などもない。
するとここで、ライザ姉さんが何やら自信ありげな顔をして言う。
「ふん、こういう時はだいたい相場が決まっているではないか」
「わかるんですか?」
「当然だ。はああああぁっ!!」
剣を引き抜き、気を高めるライザ姉さん。
たちまち周囲の空気が陽炎のように揺らめき、空中に火花が散った。
そして――。
「せやああああっ!!」
裂帛の一撃。
大地に向かって剣が振り下ろされ、地鳴りと揺れが周囲を襲う。
たちまち巨大な亀裂が生まれ、近くの岩が呑み込まれていった。
「……ったく、無茶苦茶するわね」
「急に危ないじゃないですか!」
「すまんすまん! だがこれで、奴らのアジトへ入れるようになったはずだぞ」
そういうとライザ姉さんは、自信満々に自らが空けた穴を足で示した。
すぐさまシエル姉さんが腰を曲げて覗き込むが、すぐに怪訝な顔をする
「特に何もないわよ?」
「何もないって、いや、あるはずだが?」
「あるって何が?」
「敵のアジトに決まっている」
何の根拠があるのか知らないが、ライザ姉さんはやけに堂々とした顔で言った。
たちまち、シエル姉さんが呆れた顔で肩をすくめる」
「どうしてわかるのよ?」
「眼に見える範囲になかったら、だいたい地下というのがお決まりだろう」
「そうかもしれないけどねえ……」
シエル姉さんは渋い顔をしつつも、念のため、光魔法で穴の底を照らした。
すると案の定、そこにあるのは土と石だけ。
特に敵のアジトらしき構造物は見当たらない。
そもそもそんなものがあれば、ここに出入りする人たちのとっくの昔に見つかっていただろう。
「……ないな」
「ええ。でも、地下にないとするとどこなんですかね?」
改めて周囲を見渡すが、変わったものなど何一つとしてない。
本当にただの森で、人間が一人で隠れることすら苦労しそうだ。
「結界で隠蔽してるとか。でも、特にそれらしい反応はないわね」
「改めて聞くが、本当にここであっているのか?」
「間違いないわ。逆探知した魔力はここから出てたし、私の探査魔法にも反応があるもの」
「ええ、俺のにも引っ掛かってます」
そう、何もいないように見えるが反応は微かにあるのだ。
もっとも、敵も慎重に居場所を隠そうとしているのか本当にごくわずかなのだが。
事前に魔力の波を逆探知していなければ、姉さんでも気づかなかったぐらいだろう。
「うーん、もっと詳しく探れないのか?」
「それが出来れば苦労してないわよ。方向だけでももっと正確に絞れればいいんだけど」
「適当にやるわけにはいかないのか?」
「そんなことしてたら日が暮れるわ。みんな待ってるのよ」
ラージャでは皆が暴漢を食い止めるべく懸命に戦っているはずだ。
彼らのためにも、俺たちは一刻も早く元凶を突き止めて倒さねばならない。
適当なことをして時間を浪費するなど許されない。
とはいえ、こうなったらしらみつぶしにやるしかないか……?
そう思っていると、ふとライザ姉さんが呟く。
「ところでさっきから、この森は妙に暗いな? これも魔族の影響か?」
「え? 森なんてこんなもんじゃないの?」
「それはもっと木々が密に生い茂った森の話だ。これだけ見晴らしのいい森なら、もっと日が刺しているはずなんだが……」
そういうと、空を見上げるライザ姉さん。
彼女に続いて顔を上げると、先ほどまで快晴だった空が黒く曇っていた。
おかしいなと思って振り返れば、ラージャの方角はすっきりと青空が見える。
どうやらこの森の上だけ、大きな入道雲のようなものに覆われているらしい。
「……そういうことか! 下じゃなくて上よ!」
「んん?」
「あの雲の中に魔族がいるのよ! あー、前にも似たようなことあったのに気配を消してて気づかなかったわ!!」
そういうとすぐに、シエル姉さんは呪文を唱え始めた。
たちまち彼女の掌に、大きな炎の塊が出現する。
白く燃える炎は、太陽を思わせるほどに熱く肌を焦がす。
シエル姉さん、本気の超級魔法だ。
「蒼天に登りし紅鏡。森羅万象を照らすもの。我が元に集いて敵を滅せよ!! グラン・ヴォルガン!!」
あえて詠唱を破棄せず、完全な形で放たれた魔法。
炎が空に昇り、黒雲の中で弾けた。
そして次の瞬間、何者かの影がはっきりと影絵のように映し出される。
「いたっ!!」
やがて霧散する雲。
その中から巨大な翼をもつ魔族が、姿を現すのだった。




