表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/301

二十八話 邪悪な実験

「どっせえい!!」


 ロウガのシールドバッシュが、飛びかかってきた犬どもを弾く。

 濁った血と腐肉が飛び散り、群れが薙ぎ払われる。

 その隣では、ニノさんが次々とクナイを投げて奥の犬たちを牽制している。

 聖水に浸されたクナイは犬たちの身体を容易く貫き、まとめて何頭もの犬が倒れていった。

 

 ――これが一級聖水の威力か。

 アンデッドの売りは、何よりもタフな肉体だ。

 身体の一部を吹き飛ばしたぐらいでは、すぐに再生してしまう。

 しかし犬たちにできた傷は、塞がることはなかった。

 それどころか、傷口から煙が上がりみるみる灰となっていく。

 聖水の力によって、敵の邪悪な生命を根こそぎ奪っているようだ。


「ブランシェ、ブランシェ!」


 俺も負けじと、浄化魔法を連打する。

 強烈な光が、迫りくる犬たちを次々と灰に変えていった。

 やはり、この剣は魔法の媒体として適している。

 ゾンビと比べればいくらか強い犬たちも、問題にはならなかった。

 しかし――。


「……しかし、キリがねえな!」

「どこかで増殖でもしているのでしょうか」

「かも知れねえな!」


 倒しても倒しても、どこからか湧いてくる犬たち。

 いくら広い庭とはいえ、これだけの数が一体どこから湧いて来るのか。

 俺たちの体力も無尽蔵ではない。

 さすがにそろそろ、一息つきたいところなのだが。

 そんな俺たちの願いとは裏腹に、事態はさらに悪化する。


「新手が来たな! ありゃ……騎士か?」


 庭を囲うようにして聳えるコの字型の館。

 その両端から、全身鎧をまとった一団が現れた。

 鎧の中身はゾンビか何かだろうか。

 普通の人間と比べると動きがぎこちないものの、それなりに統制が取れている。


「むっ!」


 ニノさんが投げたクナイを、騎士たちは盾を掲げて防いだ。

 やはり、多少は知能があるようだ。

 ニノさんはやむを得ず短刀を取り出すと、近接戦へと移行していく。

 彼女をフォローすべく、すかさずロウガさんが距離を詰めた。


「大丈夫か?」

「何とか。ですが、私には少し不利な相手ですね」

「いざとなったら、聖水を投げればいいさ」


 互いに背中を合わせるニノさんとロウガさん。

 二人は互いの武器に聖水をたっぷりしみこませると、獰猛な笑みを浮かべる。

 仮にも一流と呼ばれるクラスの冒険者である。

 このぐらいの修羅場ならば、既に何度か潜ってきている。


「ジークは先に向かってください! このまま包囲されれば、あなたもすぐに身動きが取れなくなりますよ!」

「でも、このままだと……」

「ちっ! またデカいのが来たぞ!」


 ダメ押しとばかりに、他と比べて明らかに巨大な騎士が姿を現した。

 ざっと見たところ、身長三メートルと言ったところであろうか。

 中身はオーガか何かのようで、鎧の隙間から巌のような筋肉が見える。

 こちらが攻め込む準備をしたのと同様、敵もまた防衛のための準備をしていたようだ。

 ドラゴンゾンビにも匹敵するほどの巨大な戦力だ。


「あいつは俺が引き受けよう。ジーク、早くいけ! このままだとジリ貧になる!」

「ええ! この様子からして、敵はまだ戦力を持っています! 大元の魔族を倒さなくては、まだまだデカいのが来ますよ!」


 館の入り口を見ながら、先に行くことを促すロウガさんとニノさん。

 ……確かに、二人の言う通りかもしれない。

 この様子だと、敵の戦力にはまだ余裕があることだろう。

 くわえて、いま俺たちを襲っているアンデッドたちは魔族の指示を受けて動いているはずだ。

 だからその魔族さえ倒してしまえば、行動を止める可能性は十分にある。


「……わかりました」

「おう、任せとけ!」

「私の活躍、お姉さまによろしく伝えて下さい!」


 さらりと自分の要望を伝えてくるニノさん。

 この様子なら、まだまだ余裕はありそうだな。

 俺は軽く息を吐くと、二人にお辞儀をして走り出す。

 その動きを察知して、追いかけてくる犬と騎士。

 その攻撃をかわし、受け止め、そらす。

 敵の攻撃は、数こそ多いが非常に遅い。

 ライザ姉さんとの特訓に比べれば、そこまで大したことはなかった。


「……よし」


 無事に館の入り口へとたどり着いた俺は、そのまま中に入って扉を閉じた。

 これでひとまずは安心か。

 俺は改めて館のエントランスの方を向くと、不意に明りが灯る。


「なんだ?」

「よく来たな、歓迎しよう」


 地の底から聞こえて来たかのような、低く威厳のある声。

 声のした方へと視線を上げれば、階段の先に例の魔族の姿があった。

 人と獣を掛け合わせ、翼を生やしたような姿はまさに異形。

 見ているだけで、生理的な嫌悪感が湧き上がってくるかのようだ。


「お前が……! クルタさんをどこへやった!」

「ふん、言われずとも呼ぼうとしていたところだ。さっさと来い!」


 魔族の声に促され、クルタさんが柱の陰から姿を現した。

 しかし……どこか様子がおかしい。

 目は酷く虚ろで、この非常時だというのにおよそ表情と言うものがない。

 さらにはその動きも、人間らしくない機械染みたものを感じさせる。


「クルタさんに何をした……!」

「死霊魔術の実験に協力してもらったってところかな。いやあ、実にうまくいったよ。本人の強い感情を媒介に大量の死霊を憑依させることでね、生きたままアンデッドに近い強靭な肉体と再生能力を与えることが出来た」

「そのために、クルタさんをさらったってわけか」

「その通り。私にとって彼女ほど都合のいい存在はなかなかいなかったからね。憑依の媒介にする足る強い憎悪と高い戦闘力。申し分のない材料だった」


 そう言うと、魔族はクルタさんの背後へと移動した。

 そしてその肩を抱くと、さらに俺を挑発するように笑う。


「一応、まだこいつは助からなくもない。せいぜいあがいてみるといい。もっとも、ルソレイユでも使えなければ無理だろうがね」

「なら大丈夫だな」

「なに? どう見ても剣士のお前が――」

「ルソレイユ!!」


 消耗の激しさゆえに、ドラゴンゾンビ相手ですら温存していたファム姉さん基準でも上位の魔法。

 その絶大な威力が、光とともに解放された――。

【読者の皆様へ】

ここまでお読みになって、少しでも

「面白い・続きが気になる・早く更新して欲しい!」

と思った方は、ぜひぜひ評価・ブックマークをいただけると嬉しいです!

評価欄は広告の下にある「☆☆☆☆☆」です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 助ける方法を教えてくれる魔族優しい
[一言] できるわけないwとおもって煽ったら即回収されたでござる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ