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第三十六話 帰り道

「一時はどうなることかと思ったが、何とか片付きましたね」


 事件からおよそ一週間。

 チーアンを後にした俺たちは、ラージャに向かう馬車の上にいた。

 本当はもう少し復興を手伝いたいところではあったが、なにぶん、宿屋が焼けてしまったのである。

 大人数でメイリンの家に居候するのも気が引けたので、少し早めに出立したのだ

 

「そう言えば、その龍の王って結局どうなったの?」

「ララト山を守護していくそうですよ。人間とも仲良くしたいとか」

「へえ、それならチーアンの街は安心だね」


 声を弾ませて、嬉しそうな顔をするクルタさん。

 ドラゴンの群れによって荒らされてしまった街のことを、彼女も心配していたのだろう。

 するとさらにシエル姉さんが、微笑みながら言う。


「ついでに、友好の印としてドラゴンの鱗を山ほど贈ったそうよ。たぶん、街を復興しても余りが出るんじゃないかしら?」

「おいおい、ドラゴンの鱗って言ったら金より価値があるぞ。流石は王様、太っ腹なもんだ」

「ま、街の人はそれよりも王の誕生を喜んでるみたいだけどね」


 魔族によって誘導された結果とはいえ、千年近くに渡ってドラゴンを信仰してきた人々である。

 新たなる王の誕生は、彼らにとっては何よりも喜ばしいことだった。

 街の復興が終わったら、王を祀るための大きな社を作るという話も聞いている。

 きっとこれからのチーアンには、明るい未来が待っていることだろう。


「メイリンの家も、正式に謝罪を受けたそうですしね。わだかまりもなくなって、平和になりますよ」

「まさに大団円ってわけね。まぁ、あのゴールデンドラゴンのことはちょっと残念だけど」

「きちんとグアンさんに将来を託したわけですから、後悔はないんじゃないですか?」

「せめて、そう思いたいところね」


 ゴールデンドラゴンが亡くなった時のことを思い出したのだろうか。

 シエル姉さんは、少ししんみりした顔でそう言った。

 するとライザ姉さんが、彼女を元気づけるように箱からまんじゅうを取り出して言う。


「そう暗い顔をするな。ほら、食べるか?」

「別にいらないわよ。というかライザ、あんたさっきから食べ過ぎじゃない?」

「む、そうか? メイリンから貰った土産がうまくてな、つい」

「あっ! あんなにあったのがもう無くなってる!」


 メイリンがお土産として渡してくれた饅頭。

 大きな重箱いっぱいに収められたそれは、俺たち五人で分けてもたっぷりあるはずだった。

 しかし、ニノさんが箱を開けてみるともうほとんど残っていない。

 いつの間にかライザ姉さんが食べてしまったようだった。


「ははは……すまんすまん。それより、依頼はこれで達成ということでいいのか?」


 バツが悪そうな顔をすると、ライザ姉さんは無理やりに話題を切り替えた。

 それに対して、シエル姉さんは軽い調子で返事をする。


「ええ、もちろん! けど、説明するのが厄介だわ……」

「ゴールデンドラゴンの討伐に行ったはずが、龍の王の誕生とか大変でしたもんね」

「結局、魔結晶は汚染されてて使い物にならなくなってたし。今から頭が痛いわよ」


 あー、そう言えばシエル姉さんは強奪された魔結晶の回収も仕事だったっけ。

 あれは魔族が邪悪な魔力をたっぷり蓄えたせいで、完全にダメになっちゃってたんだよな。

 あれだけの大きさの魔結晶が失われたとなると、いったいどれほどの損害なのか……。

 俺が被害を被ったわけではないが、想像するだけでも恐ろしくなってしまう。

 

「だがまぁ、ノアの昇級は確実だろう。手にした聖剣をすぐ使いこなせるとは私も思わなかった」

「そうねぇ、魔力も前に比べて伸びたんじゃない? グラン・ルソレイユなんて使えなかったでしょ」

「ええ、経験を積んだおかげだと思います」

「ジークって修行熱心だしねー」


 このこのっと肘で小突いてくるクルタさん。

 改めてそう言われると、何だか照れ臭くなってしまう。

 俺が修行熱心なのは、単に習慣として身体に染みついてしまっているだけだからなぁ。

 暇な時間があると、どうにも落ち着かなくて身体を動かしてしまうのだ。


「こうなってくると、いよいよお前に……。いや、まだ早いか」

「何ですか? 途中で切られると気になるんですけど」

「何でもない、気にするな」


 ぶんぶんと首を横に振るライザ姉さん。

 いったい何なのか気になるが、こういう時の姉さんは聞けば聞くほど答えてくれないからな。

 後から言ってくれるのに期待して待つしかないか。


「まあ、鍛えておかないと不安ですし。真の魔族とか言うのも出てきちゃいましたから」

「そうね、私もあいつにはちょっと苦戦したわ」

「魔界の方だけでもヤバそうだってのに、勘弁してほしいもんだぜ」


 ロウガさんがそうつぶやいたところで、草原の彼方にラージャの街が見えてきた。

 おお、やっと帰ってこれた……!!

 心の底から安堵の感情が沸き上がってくる。

 改めて実感したが、俺にとってラージャは既に第二の故郷のような場所となっていた。


「やっと着いたね! あー、長かった!」

「街のベッドで寝るのが、今から楽しみですね」

「俺は……」

「どうせまた、行きつけの店に行くんでしょ? わかってるんだから」


 ロウガさんがまだ言葉を発しないうちに、ツッコミを入れるクルタさん。

 流石のロウガさんも、これにはもうタジタジだった。

 おいおいと頭を掻く彼の姿を見て、俺たちは思わず笑ってしまう。

 とにもかくにも――。


「無事に、帰ってこれましたね」


 俺はそう、しみじみとつぶやくのだった。

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