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第三十一話 破壊を止めろ!

「まずいな、このままじゃ街が……!」


 湖面を突き進む黒い波。

 唸りを上げる水の壁は、このまま上陸すれば沿岸部を洗い流してしまうことだろう。

 最悪、エルマールの街が壊滅してしまうかもしれない。


「サマンさん、何とか俺たちを連れてあの波の前へ行けませんか?」

「ちょっと待って! あれを止めるつもり!?」

「はい!」


 引き攣った声を上げるクルタさんに、俺は即答した。

 あの波を止めることができるのは、恐らく俺たちだけだろう。

 だったら、このまま見過ごすことなどできるはずがない。

 しかし、クルタさんはブンブンと首を横に振る。


「ダメだよ! そんな無茶したら、いくらジークだって……」

「ああ。今回ばかりは、流石に私でも厳しいかもしれん」


 珍しく、ライザ姉さんがクルタさんの意見に賛同した。

 彼女は唸る大波を見ながら、眉間に深い皺を寄せる。

 流石の剣聖と言えども、街を丸ごと呑み込むような波を防ぐのは容易ではないようであった。

 

「……だとしてもです。それに、あの街にはエクレシア姉さんもいるんですよ」

「しかしだな……」

「私からもお願いします。無礼は承知の上です、どうか何とぞ……」


 ここでテイルさんが俺たちの前に出てきた。

 彼女に続いて、人魚さんに連れられたレオニーダ様もまた頭を下げる。

 野望が潰えたせいであろうか。

 その表情は虚無感に溢れていたが、同時にどこか晴れやかであった。


「……仕方あるまいな」

「しょうがないね、こうなったらジークは止まらないし」

「いつもの流れですね」

「ああ。……人魚の姉ちゃん、俺たちを連れてあの波の前に回り込めるか?」


 ロウガさんの問いかけに、サマンさんたちは自信満々に胸を張った。

 流石は人魚、この状況下でも泳ぎに支障はないらしい。


「皆さん、私たちの背中に乗ってください! 全力で飛ばしますよ!」

「はい、お願いします!」


 こうして漁師さんたちをその場に残し、俺たちは移動を開始した。

 人魚さんの身体につかまっていると、すごい勢いで景色が流れていく。

 こりゃ、船なんか比にならないぐらい速いな!

 人を背負っているというのに、人魚さんたちの動きは驚くほど軽快。

 みるみるうちに水の壁が迫ってくる。


「一気に突き抜けます!! しっかりつかまってくださーーい!!」


 サマンさんの呼びかけに応じて、俺たちは大きく息を吸い込んだ。

 そして次の瞬間、強烈な水圧が身体を襲う。

 下に押さえつけられるような感覚は、思わず肺の中の空気を吐き出してしまうほどだった。。

 それをどうにか堪えると、今度は急に浮遊感がやってくる。


「うおっ!? と、飛んでる!?」


 波から飛び出したサマンさん。

 俺ごと美しい弧を描いた彼女は、そのまま滑らかに着水した。

 そしてそのまま止まることなく泳ぎ続け、あっという間にエルマールの街が見えてくる。


「すごい、もうついちゃった!」

「こりゃ大したもんだ、今まで捕まらなかったわけだぜ!」

「急ぎましょう! これなら、何とか間に合いそうです!!」


 俺は急いで桟橋に登ると、可能な限り強力な結界魔法を準備し始めた。

 それに合わせて、姉さんもまた構えを取り剣気を高め始める。


「よし、私がまずあの波を割る。ノアは、割れた後の波を防げ!」

「わかりました!」

「私たちは、ジークに魔力を分ければいい?」

「助かります! 俺だけじゃ、流石に厳しいので!」


 俺は両手を前に突き出すと、白い魔力の膜を展開した。

 十分な魔力さえあれば、あの波でも防ぎきれるだけの代物である。

 クルタさんたちも両手を出すと、膜に手を添えて魔力を供給し始める。


「ぐぐぐ……なにこれ……! 体力が吸い出されてるみたい!」

「なかなか消耗がえげつないですね……!」

「二人とも大丈夫か!?」


 予想以上の消費に、倒れそうになるクルタさんとニノさん。

 その背中をロウガさんが慌てて支えた。

 流石に街全体を守るほどの規模となると、消費する魔力も半端なものではない。

 俺自身、ここまでの魔法を使うのは初めてだ。

 シエル姉さんでもいれば、何とかなりそうなんだけど……!!


「私たちも魔力を注ぐのですよ! みんな、頑張るのです!!」


 ここで、サマンさんたち人魚が加わった。

 魔力が豊富な種族らしく、膜を維持する負担が明らかに軽くなる。

 そこへさらに、避難したと思っていた街の人々が戻ってきた。

 その先頭に立っているのは……エクレシア姉さんだ!


「やっぱり。こうなってると思った」

「姉さん! 来てくれたんですね!」

「話すのは後。その膜に魔力を注げばいいの?」

「ええ! これで何とか防げるはずです!」


 俺がそういうや否や、人々は空へと手をかざした。

 魔力が放出され、光の膜が目に見えて分厚くなる。

 この人たち、全員が魔力を持っているのか!

 ろくに時間がない中でこれだけの人員を集めてきた姉さんの手腕に、俺は素直に感心する。


「くるぞ!!」


 やがて、膜の外側に立っていたライザ姉さんが声を上げた。

 彼女は半月を描くように剣を動かすと、一気に力を爆発させる。

 ――閃き。

 刹那のうちに放たれた斬撃が、空を切り水を割った。

 迫りくる波頭は二つに割れ、その勢いを大きく減じる。

 しかし、元の勢力が膨大であっただけに止まることはない。


「やはり止まらんか! ノア、あとは任せたぞ!」


 最後にもう一発だけ斬撃を放つと、ライザ姉さんは天歩で空に退避した。

 直後、濁流と化した水が一気に押し寄せる。


「さあ、ここからが勝負ですよ!!」

「おおおおっ!!」


 こうして俺たちの街の存亡をかけた大勝負が始まった――!


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