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第二十八話 ベルゼブフォVS俺

「姉さん!!」


 湖面を走るライザ姉さんの姿を見て、俺は思わず声を弾ませた。

 彼女の放った斬撃によって、瞬く間に押し寄せていたオタマジャクシが薙ぎ払われる。

 流石はライザ姉さん、あれだけの数を相手にまさしく一騎当千といった状態だ。

 

「すまん、遅くなった!」

「いえ! むしろ、もう終わったんですか?」

「ひとまずはな。今のテイルたちに戦う意欲はない」


 理由はよく分からないが、とりあえずは大丈夫らしい。

 大方、ベルゼブフォが暴れ出してそれどころではなくなったのだろう。

 

「ライザが来ればもう安心……って! また来るよ!!」

「どんだけいるんだよ!」

「……ヒキガエルは卵を一万個以上も産むとか。ベルゼブフォもそれぐらい産むのかもしれません」

「冷静に言ってる場合か!」


 おびただしい数のオタマジャクシが群れを成し、さながら黒い津波のように迫ってきた。

 すかさず姉さんが斬撃を放つが、流石にすべては倒しきれない。

 ニノさんは一万とか言っていたが、こりゃそんなもんじゃないぞ!

 

「お前たちは、その男を連れて逃げろ! ここは私が引き受けた!」

「でも……」

「いいから行け! さっさとあのカエルを倒してこい!」

「……わかった! すぐにあいつを倒すよ!」


 こうして俺たちは姉さんにその場を任せると、再びベルゼブフォとの距離を詰めた。

 さて、この巨大な悪魔を一体どうやって退治するのか。

 まずはそこの解決策を見つけなければどうにもならなかった。

 ベルゼブフォもそこが分かっているのか、自らの子が次々と退治されているというのに余裕の表情だ。


「してどうする、人間よ。我にそなたらの攻撃は効かんぞ?」

「たとえ大悪魔だろうと、どこかに弱点はあるはず。そこを突きさえすればいい」

「フハハ、笑止! この我にそんなものがあるはずなかろう!」


 俺たちのことを笑い飛ばすと、ベルゼブフォは再び水弾を吐いて攻撃してきた。

 それを回避しながら、どうにか知恵を絞る。

 ベルゼブフォの最大の攻撃手段は、あの大きな口だ。

 そして恐らく、あそこが最大の弱点でもある。

 どうにかあの口を封じることができれば、こちらの勝ちなのだけれど……。


「……そうだ! ニノさん、爆薬付きのクナイってまだ残ってますか?」

「ええ、あと三本あります」

「じゃあ、奴が水弾を吐いた直後に口へ放り込んでください。できますか?」


 俺がそう尋ねると、ニノさんは少しムッとした顔をした。

 そして、自信ありげにフンスッと鼻を鳴らす。


「もちろんです。忍びを舐めないでください」

「なるほど、奴の口を攻撃するんだね? なら、ボクも協力するよ」

「んじゃ、俺は飛んできた水弾の余波を防ぐぜ。集中して狙いな」


 ひとまずの役割分担が決まった。

 俺はベルゼブフォに攻撃を悟られないよう、水中で魔法陣を描く。

 そして少しずつ魔力を集中させ、攻撃のタイミングを計った。

 ――思考が加速する。

 時の流れが緩慢になり、ベルゼブフォの動きがゆったりとして見えた。

 そして、ついに時が訪れる。


「今だッ!!」


 俺の声に合わせ、ニノさんとクルタさんが攻撃を放った。

 放たれたクナイと短剣は、精緻な軌道を描いてベルゼブフォの口に飛び込む。

 それはまさしく、職人技と言っていい見事な物だった。

 直後、ベルゼブフォの口で大爆発が巻き起こる。


「グオォッ!?」


 さしもの大悪魔も、口の中で起こる爆発には耐えられなかった。

 その隙をついて、俺もまた渾身の一撃を放つ。


「おりゃあああっ!!!!」


 青白い魔力が湖面を切り裂き、ベルゼブフォの口に飛び込んだ。

 ……しかし、大悪魔の巨体は倒れない。

 とっさに魔力を展開し、口の中に結界を張ったようだ。

 老練な悪魔ならではの技だろう。


「……油断したわ。だが、この我に生半可な魔法は通用せんぞ? 魔力で身を守っておるからな」


 そう言うと、ベルゼブフォは大きく水を吸い込み始めた。

 俺たちにとどめを刺すべく、全力で攻撃を仕掛けてくるつもりのようだ。

 だがその次の瞬間、俺が仕込んでおいた魔法が発動する。


「グゴッ!? 水が、凍る……!?」

「氷の魔法ですよ。さっき、冷気の塊を口に放り込みましたから」

「ゴガッ! グオオオッ……!!」


 魔力によって形作られた、小さな冷気の渦。

 それが口に溜め込まれた水を凍らせ、巨大な氷塊へと変えてしまった。

 それによって口をふさがれ、ベルゼブフォはまったく身動きが取れなくなる。

 手足が短いため、口に手を伸ばして氷を動かすことすらできない。


「……よし、うまく行った!」


 俺は呼吸ができずにもがくベルゼブフォを見ながら、ほっと胸を撫で下ろした。

 うまく行くかどうかわからなかったが、大成功だ。

 事前にクルタさんたちに攻撃してもらって、口の中の感覚を痛みで麻痺させたのが良かったのだろう。

 普通の状態であれば、温度で気づかれたに違いない。


「うわー、しんどそう……! よくこんなの思いついたね」

「口をケガさせるんじゃなくて、塞いでしまえばいいと思って」

「大した機転だよ。ははは、これじゃ大悪魔も形無しだな」


 その場でひっくり返り、どうにか氷の塊を外そうとのたうち回るベルゼブフォ。

 もはや大悪魔の威厳も何もあったものではなく、氷塊の重さで身体全体が半ば潰れてしまっていた。

 さて、あとは一体どうやってこいつにとどめを刺すかだな。

 いくら何でも、悪魔が呼吸困難で死ぬなんてことはないだろうし。

 そんなことを思っていると、オタマジャクシを片付けたらしい姉さんが戻ってくる。


「……ふぅ、数だけは多くて苦労した」

「おかえりなさい、姉さん」

「そっちもだいたい終わったようだな」


 そう言うと、姉さんは無様に横たわるベルゼブフォを見た。

 俺たちがこれだけ早く大悪魔を片付けるとは、思っても見なかったのだろう。

 その顔は少し驚いているようだった。


「とどめは私が刺そう。一撃で真っ二つにしてやる」


 そう言って、姉さんは剣を上段に構えた。

 彼女を中心に、剣気の渦が巻き起こる。

 湖面が大きく凹み、さながらクレーターのような状態となった。

 これが、剣聖の力か……!

 流石のベルゼブフォも、姉さんの攻撃を食らえばひとたまりもないだろう。

 しかしここで――。


「ごうなづだら、なにもがもまきぞえにじてやる!!」


 倒れたベルゼブフォの腹が、一気に膨らみ始めた――!

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― 新着の感想 ―
ニノの例の奴大量に放り込むかと思ってました(笑)魔法より効きそうなんだけど?
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