十六話 魔剣
「おお……真っ黒……!」
バーグさんが工房の奥から持ち出してきたのは、黒々とした細身の剣であった。
この感じ、普通の金属で出来ているわけではないようだ。
不思議な光を放つ剣身は、非常に色の濃いガラスか何かのように見える。
こんなのは俺も初めてだな。
剣聖であるライザ姉さんは、古今東西のさまざまな剣を収集していたけれど……。
その膨大なコレクションの中にも、類似するものはなかった。
「珍しい剣ですね。何で出来ているんですか?」
「ふふふ……何だと思う?」
「感じからすると、石か? 黒曜石に少し似ているが」
「違う違う! そんな安い材料の訳があるか!」
首を思い切り横に振り、ずいぶんと憤慨した様子のバーグさん。
どうやらこの剣、かなり希少な材料で作られているようだ。
もしかして、宝石か何かだろうか?
「持たせてもらってもいいですか?」
「ああ、いいぞ。ただし、めちゃくちゃ重いから気をつけろ」
「うおっ! ほんとですね!」
手のひらにずしりと食い込むような重量感。
まるで鉛の塊か何かのようである。
密度が高いとでもいうべきだろうか。
試しに軽く振ってみると、ビョウッと鋭い風切音がした。
これは、凄いな……!
今まで振るってきた数打ちの剣とは、明らかにモノが違った。
先ほどまで重く感じていたのが嘘のように、手に馴染んでくる。
「良い剣だ……!」
「だろう? 俺が鍛え上げた中でも最高傑作だ!」
「……それで、この剣は何で出来ているのですか? そろそろ教えてください」
たまりかねたように、ニノさんが尋ねた。
そうだった、そこをまだ聞いていなかった。
俺たちが揃って視線を向けると、バーグさんはふふんっと鼻を鳴らして得意げに言う。
「隕石さ」
「ほう?」
「俗にいう隕鉄ってやつだな。元はこんなにデカイ隕石だったんだが、溶かしてみたらこの大きさになっちまった」
両手を目いっぱいに広げ、大きさを表現するバーグさん。
その様子からすると、隕石の直径は二メートルぐらいはあったのだろう。
なるほど、それだけ大きな物体が凝縮されたから、重くて硬いというわけか。
「こいつは俺が知る中で最も頑丈な剣だ。ドラゴンが踏んでも折れやしねえだろう。お前さんが全力で使っても平気さ」
「ありがとうございます!」
「それから、この素材にはひとつ面白い性質があってな」
そう言うと、バーグさんは部屋の端に置かれていたランプを手に取った。
魔石を輝かせるタイプのものである。
彼はそれに火を灯すと、そのまま剣へと近づける。
「あっ!」
ランプが急に暗くなった。
ガラスの中で輝いていた魔石から、金色の靄のようなものが抜け出す。
それはそのまま、俺が構えていた剣の中へと吸い込まれていった。
「今のはひょっとして……魔力か?」
「そうだ。この剣に使われている隕鉄には、魔力を吸い込んで貯める性質がある。これをうまく使えば、魔法を切って無効化するようなこともできるな」
「へえ……!」
剣士が一番苦労するのが、攻撃魔法への対策である。
俺の場合、防御魔法を使えるからまだマシなのだけれど……。
剣で防げるというなら、それが一番楽でありがたい。
「まぁ、無限に吸い込めるわけじゃないがな。ある程度吸ったら吐き出す必要がある」
「ん? ということは、あらかじめ魔力を溜めておけば、剣から魔法を出すこともできるってことですか?」
「ああ、できるぞ。この剣に使った隕石はオークションで買ったもんだが、杖を作るための素材として競り落とそうとしてたやつも何人かいた」
「そりゃすごい! 剣から魔法を出せたら、戦いの幅が広がるじゃないですか!」
俺がそう言うと、なぜかニノさんとロウガさんは渋い顔をした。
それだけではない。
先ほどまで嬉しそうに剣の説明をしていたバーグさんまでもが、困ったような顔をしている。
その顔はまるで、夢見がちな子どもでも相手にしているかのようだった。
「うーん……戦いに魔法を組み込むのは、やめておいた方がいいぞ」
「どうしてですか?」
「剣ができて魔法もできるってやつは、たいがいその両方を活かそうとするんだけどな。今までそれでうまく行った奴を見たことがない」
ロウガさんの意見に同意して、ニノさんとバーグさんがうなずく。
うまく行きそうに思ったんだけど、なかなか難しいのか。
そういえば、姉さんたちも半端はいけないって言ってたなぁ。
まずはそれぞれの道を十分に極めてからとか何とか……。
「だいたい、ジークが得意なのは光魔法ですよね? あれは主に回復と浄化の属性ですから、戦闘に使うには向いてないと思いますが」
「いや? 別に光が得意ってわけじゃないよ」
「え? 練度の高いサンクテェールを使っていたではありませんか!」
戸惑った様子を見せるニノさん。
そう言われても、取り立てて光だけが出来るってわけじゃないからなぁ。
シエル姉さんとファム姉さんから、魔法については一通りすべての属性を叩き込まれている。
しかも、そのどれもが姉さんたちに言わせれば「普通ぐらいの才能」って話だったけど。
「まさかジーク、他の属性魔法も光と同じぐらい使えるとか言わねえよな?」
「はい。その通りですけど……」
「………………前言撤回しよう。ジークなら、うまくやれるかもしれん」
どこか察したような口調で告げるロウガさん。
彼に合わせて、ニノさんとバーグさんもまた深々とうなずくのだった――。
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