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十五話 剣聖ライザの戦い

今回はライザのお話となります。

 ジークことノアたちが、ロウガの案内で買い物をしていた頃。

 剣聖ライザは王からの呼び出しを受け、城を訪れていた。

 弟の捜索に忙しいと断ろうとした彼女であったが、さすがに王命とあれば断れない。

 不機嫌さが顔に出てしまうのを抑えながらの、渋々の登城であった。


「剣聖ライザよ、よくぞ参った」

「はっ! 王のご用命とあれば、いつでも馳せ参じましょう」

「うむ、大儀じゃ。してのう、今日はそなたに見てほしいものがあってな」


 はて、いったい何であろうか?

 つい先日も、交易商から求めたという南方産の珍しい猫を披露されたばかりであった。

 自慢のために呼び出したのであれば、今はそれどころではないのだが。

 ライザは思わず文句を言いたくなったが、腹の中に抑え込む。


 ノアが家を出てから、はや一か月近く。

 その間、あちこちの伝手をたどって情報をかき集めてみたはものの。

 今のところ、手掛かりは全くと言っていいほどつかめていなかった。

 おかげでライザの精神状態は、お世辞にも安定しているとはいいがたい。

 ともすれば、王の御前でも不機嫌になりかねなかった。


「ん? どうした、具合でも悪いのか?」

「いえ、そのようなことは」

「そうか、ならば良いのだが。今日は少し、動いてもらうつもりじゃったからの」

「……ほう?」

「見ればわかる、ついてまいれ」


 玉座から立ち上がり、取り巻きを引き連れて歩き出した王。

 彼に続いて、ライザは城の中にある練兵場へと移動した。

 城に常駐している約百名の近衛騎士団。

 彼らが存分に訓練できるようにと設計された練兵場は、かなり広々と作られている。

 その中央に、何やら見慣れない物体が佇んでいた。

 金属製のゴーレムのようであるが、全身に細い管のようなものが張り巡らされている。


「ライザよ、あれが何かわかるか?」

「ゴーレムでございますか」

「そうじゃ。しかし、ただのゴーレムではない。古代遺跡から発掘されたアーティファクトでな、古代の武器が内蔵されておるのじゃ」


 アーティファクトと聞いて、ライザのゴーレムへの注目度が少し上がった。

 本当だとするならば、あのゴーレムには値が付けられないほどの価値があるはずである。

 王から散々珍しい文物を見せられてきた彼女であったが、アーティファクトはこれが初めてだった。


「どれ、マグレブよ。さっそくこいつを動かしてくれ」

「ははっ! かしこまりました」


 ローブを纏った魔導師風の男が、王の前へと進み出てきた。

 彼が大仰な仕草で杖を振り上げると、それに合わせてゴーレムが立ち上がる。

 身の丈はざっと三メートルほどであろうか。

 全身が金属で出来たその姿は、さながら鋼の騎士。

 王が自慢するのもよくわかる見事な勇姿だ。


「驚くのはまだ早い。マグレブ、あれを使えい!」

「はっ!」


 王の命令に合わせて、マグレブが杖を振り上げる。

 たちまち、ゴーレムの腹から筒を束ねて塊にしたような物体が飛び出す。

 そして――。


「おお……!」

「す、すごい!」


 ――ダダダダダダダダッ!!

 軽快に響き渡る炸裂音。

 それと同時に、練兵場の端に置かれていた訓練用の人形が跡形もなく消し飛んだ。

 さらにその奥にある城壁にも、たちまち無数の穴が出来上がる。

 もしその場に人間が立っていたならば、木っ端微塵にされてしまうであろう圧倒的な威力。

 王に同行していた貴族や騎士たちは揃って驚きの声を上げた。


「驚いたかの? これはガトリングガンと呼ばれる古代の武器でな。筒に仕込まれた炸裂魔法の力で、小さな鉄の礫を毎分二百発も放つそうじゃ」

「大したものです。噂では耳にしたことがありますが、動くものは初めて見ました」

「そうじゃろう、そうじゃろう! 世界広しと言えども、これだけ状態がいい古代武器はほとんど残っておらん! ……そこでなんじゃが、ライザよ。おぬし、こいつと戦ってみてくれぬか?」

「なんですと?」

 

 ワクワクした様子で頼む王に、ライザの反応が少し遅れた。

 急に話を切り出されたので、さすがの彼女も驚いてしまったのだ。

 それを見ていたマグレブが、すぐさま笑いながら言う。


「王よ、いくらなんでもそれは酷と言うもの! 剣でこのゴーレムに勝てるわけがございません」

「そうかのう? ライザは剣聖であるぞ?」

「このゴーレムは古代の叡智を結集して作られた兵器です。原始的な武器である剣で勝てるわけがないでしょう」

「マグレブ殿、それは聞き捨てなりません」


 あまりにひどい言い草に、ライザは不快感をあらわにした。

 するとマグレブは、ゴーレムを見やりながら余裕たっぷりに言う。


「ならば戦いますか? あのゴーレムと」

「ええ、いいでしょう」

「ほう!」


 あまりにもためらいのない返答に、今度は王とマグレブの方が驚いた。

 話を振ってはみたものの、本当に勝負を受けるとは思っていなかったのだ。


「やってくれるか!」

「ええ」

「しかし、いいのですか? あのゴーレムは、簡単な命令を聞くことしかできません。よって手加減などは――」

「一切必要ありません。全力で動かしてください」

「……後悔しても知りませんぞ」


 杖を握りしめ、ムッとした顔をするマグレブ。

 そうしている間にも、ライザはゴーレムの前へと移動した。

 抜剣。

 鍛え抜かれた鋼が、陽光の下で白く光る。


「王よ、私が戦いに勝ったら一つ願いを聞いてもらってもいいでしょうか?」

「何じゃ、申してみよ」

「私の弟が、ひと月ほど前から行方をくらませております。それを探すのに忙しいので、しばしお暇をいただきたい」

「あいわかった。約束しよう」


 王からの返答に、満足げにうなずくライザ。

 彼女は改めて、剣を正眼に構えた。

 その場の雰囲気が、にわかに変わった。

 先ほどまで騒いでいた貴族や騎士たちも、水を打ったように静まり返る。

 その変化を察知した王は、すかさず右手を上げて宣言する。


「勝負、はじめ!」


 ――ダダダダダダダッ!!

 再び響く炸裂音。

 ゴーレムの腹から飛び出した数百もの礫が、容赦なくライザを狙う。

 一発でも当たれば、人間の体など容易くうち砕いてしまうであろう鉄の嵐。

 しかし次の瞬間、ライザの口元は笑みを浮かべた。


「なっ!?」

「馬鹿な!」

「あやつ……斬っておるぞ!」


 ――キンキンキンキンキンッ!!

 飛び散る剣火、響き渡る剣閃。

 目に映らないほどの速さで振るわれた剣は、さながら結界のようにライザの身体を守る。

 数百もの鉄礫はすべてこれに弾かれ、火花となって散っていった。


「し、信じられん……! 本当に人間か!?」

「そろそろ、こちらから行かせてもらいましょう」

「くっ! ゴーレムよ、押しつぶせ! ミスリルで出来たお前の身体ならば、簡単に斬れやしな――」


 マグレブが言葉を言い終わらないうちに、ライザが駆けた。

 閃き、宙を切る刃。

 その直後、ゴーレムの身体から激しい火花が上がった。

 さらに鋼が引き裂かれるような高音が響き、巨体が縦に割れていく。

 ――ガランッ!

 金属製のゴーレムが二つになって地面に転がった。


「おお、おお……!!」

「これが剣術の極みか!」

「古代の叡智が……究極の兵器が……! まさか、敗れるとは!」

「では早速ですが、約束を守っていただきましょう。失礼いたします」


 劇的な勝負にどよめく王たちを尻目に、その場を立ち去るライザ。

 彼女のもとへ冒険者ギルドから緊急の連絡が届くのは、この後すぐのことであった――。


【読者の皆様へ】

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― 新着の感想 ―
[一言] 弟君逃げてーw
[一言] 居場所をつかむチャンスからきっちりすれ違っていくスタイル。まだまだ自由に動けそうで安心した。
[良い点] 五右エ門・・・五右エ門じゃないか ミスリルでは斬鉄剣を防げなかったようだ そりゃロボコップに出てくるオムニ社製ロボットと五右エ門が戦ったら、 五右エ門が勝つだろうよ 配下を侮ってアホな提…
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