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十四話 強さの秘密

「こりゃ賑やかなとこですね……!」


 翌日。

 俺とニノさんは、ロウガさんの案内で街の東を歩いていた。

 工房が立ち並ぶ一角で、そこら中からカンカンと槌の音が聞こえてくる。

 作業場の奥で弾ける火花が、道を歩いてもはっきりと見えた。

 

「熱気が伝わってきますね。少し暑いです」

「なんたって、ここには町中の工房が集まってるからなぁ。百軒はあるぞ」

「百! そんなにもですか!」

「この街には大陸中の冒険者たちが集まります。境界の森から産出される素材もありますから、職人たちが集まるのも当然でしょう」


 なるほど、需要もあれば材料の供給もあるというわけか。

 それならば職人たちが集まるのも納得だ。


「ここからだと、ドワーフたちの住む国も近いからな」

「俺、ドワーフは見たことないです」

「ならちょうどいい。今から尋ねる職人もドワーフだ」

「おおお……!」


 ドワーフと言えば、鍛冶仕事を得意とする手先が器用な種族。

 かつて英雄たちが用いた伝説の武具も、そのほとんどが彼らの手により造られたという。

 確か、ライザ姉さんが持っていた剣もドワーフ製だったはずだ。


「少し気難しいおっさんだがな。腕はこの町一番だ」

「ロウガがそこまで言うなら、期待が持てそうですね」

「はい。楽しみだなぁ……!」


 やっぱり、強力な武具というのはロマンがあるからね。

 それに冒険者たるもの、命を預ける武器はいいものを持っておきたい。

 

「お、着いたぞ。ここだ」

「大きい! さすがドワーフのお店!」


 やがてロウガさんが足を止めたのは、立派な門構えをした店の前だった。

 二階建てで、周囲の工房と比較して一回り以上も大きい。

 壁に飾ってある武器も、見事な装飾の施された高そうなものばかり。

 ここなら、凄い武器が手に入りそう――。


「ああ、そっちじゃない! こっちだ!」

「え?」


 店にあった細い路地。

 いつの間にかそこに進んでいたロウガさんが、俺とニノさんを呼んだ。

 近づいていけば、路地の突き当りに小ぢんまりとした工房が見える。

 煙突から煙が出ていることから、一応、営業してはいるようだけれど……。


「もしかして、そこですか?」

「とても名匠のいるような場所には見えませんが……」

「大丈夫だ、こっちであってる」


 ロウガさんに連れられて工房の中に入ると、さっそく熱気が吹き込んできた。

 うぉ、暑い……!!

 立っているだけで、頭がクラクラしてきそうだ。

 溜まらず噴き出した汗を拭いていると、奥から髭を生やした赤毛の男が姿を現す。


 彼がロウガさんの言っていた名匠だろうか。

 年齢はざっと見て四十歳ほど。

 筋骨隆々とした逆三角形の体格をしていて、二の腕が棍棒のように太い。

 一方で身長はかなり低く、小柄なニノさんよりもさらに小さかった。


「よう、バーグの大将! 相変わらずあちい工房だなぁ!」

「ははは! うちの炉はそこらの安物とは火力が違うからな!」

「にしても、もうちょっと勘弁してほしいもんだよ」

「それより、そっちのヒョロイのと娘っ子は何だ? 客か?」


 そう言うと、バーグさんは俺とニノさんの方を見て訝しげな顔をした。

 ヒョ、ヒョロイ……!

 そりゃあ、ロウガさんみたいな人と比べれば細い方だけどさ。

 それを言われると男としてちょっとショックかも。


「こいつはジーク、こっちの娘はニノ。俺の仕事仲間さ。見た目は頼りなさそうだが、二人ともかなりの強者だぜ。特にジークは、ドラゴンゾンビをぶっ倒しちまうほどだ」

「ドラゴンゾンビをか! そりゃたいしたもんだが……」


 ずかずかと近づいてくるバーグさん。

 彼はおもむろに俺の腕を取ると、両手で筋肉を揉み始める。

 いったい、何を?

 思いもよらぬくすぐったい感触に、俺はたまらず笑い出しそうになる。


「……な、なにを確かめてるんですか?」

「筋肉の質を見とるんだ。ううむ……これはよほどの鍛え方をしておるな。しかも、実に丁寧に回復されておる……」


 俺の腕を揉みながら、ぶつぶつとつぶやき続けるバーグさん。

 その目は真剣そのもので、完全に自分の世界へ入ってしまっているようだった。

 

「……なるほどな」


 それからしばらくして。

 腕も痺れてきたところで、ようやくバーグさんは観察するのをやめた。

 彼はそのまま、ひどく真剣な顔をして言う。


「お前さん、いったいどういう鍛え方をした?」

「はい? いや、普通に……剣を振ったりとかですけど」

「それだけではこうはならん。身体を酷使しては回復することを繰り返しでもしないと、このような状態にはならんはずだ」

「あー……」


 正式に聖女となって家を去るまでは、ファム姉さんが剣の鍛錬に同席してくれてたんだよな。

 そして俺が限界を迎えると、すかさず治癒魔法を掛けるのだ。

 これが一回きりなら、素直にファム姉さんの好意に感謝したのだろうけど……。

 限界を迎えては回復され、また限界を迎えては回復をされ……。

 こんな調子で繰り返されるものだから、逆に物凄くきつかったんだよね。

 なまじ回復するために何回でもひどい目にあわされる魔物とか、そんな気分になれる。


「思い当たる節があるようだな?」

「ええ、まあ。……もしかして俺の身体、なんかヤバいんですか? 無茶し過ぎたせいでボロボロだったり?」

「とんでもない! 逆だ、これほど密度の高い良い筋肉は初めて見たぞ!」


 急に眼を輝かせ始めたバーグさん。

 彼はどこかうっとりとした表情で、筋肉について熱っぽく語りだす。


「俺もドワーフとして筋肉には自信があった。だが、お前さんとは比べ物にならん! 本当にほれぼれするような筋肉だぞ。至宝だ、筋肉界の宝だ! まったく素晴らしい!」

「は、はぁ……」

「しかしその筋力だと、並の剣では耐え切れんだろう。待っていろ、すぐにその腕にふさわしい剣を持ってくるからな!」


 そう言うと、バーグさんは凄い勢いで工房の奥へと走っていった。

 ……何がどうしてこうなった?

 取り残されたような形となった俺は、すぐにロウガさんとニノさんの方を見やる。


「……筋肉に目がないのはドワーフの性だからな」

「ええ、気にする必要はないでしょう。……くすっ」

「あ、ニノさん笑った! 俺が困ってるのを見て笑った!」

「笑ったりなどしていません。これは……くしゃみです!」

「そんなくしゃみないですよ!」


 そのままああだこうだと言い合う俺とニノさん。

 しかしその数分後。

 俺たち三人は、バーグさんの持ってきた剣を見て大いに驚くのだった――。


【読者の皆様へ】

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― 新着の感想 ―
[一言] りょ、梁山○の師匠連中の様な鍛え方w
[一言] 最高に効率よい姉の鍛え方に感謝した方がいいのか、 本人の意思を無視しての虐待行為に恨んだ方がいいのか、 判らなくなってくるな ベジータなら間違いなく感謝したんだろうけど 僕には無理だ。体が鍛…
[一言] 大きく分厚く重く大雑把すぎる、まさに鉄塊のような剣の登場を楽しみにしてます。
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