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第二十四話 対峙

「うわ、天井高いな!」


 第十三番迷宮の十一階層。

 そこは一階層ほどではなかったが、天井の高い空間となっていた。

 古代の遺跡風とでも言えばいいのだろうか?

 太い石柱が立ち並び、壁には翼の生えた悪魔のような意匠が描かれている。

 俺はその床にどうにか無事に着地すると、天井を見上げて注意を促す。


「みんな気を付けて! 怪我しないように!」

「任せとけって!」


 そう言うと、ロウガさんは大盾を下にして落ちてきた。

 あの盾、そういう使い方もできたのか。

 大型の魔物の突進すら受け止める盾なのだから、確かにありえなくはないやり方だ。


「ふぅっ!! 流石に少し腕が痺れたな」

「やりますね、ロウガさん!」

「まあな、ざっとこんなもんよ。お前たちも来い、受け止めてやる!」


 大きく手を広げるロウガさん。

 しかし、なかなかクルタさんたちは降りてこない。

 怖くてためらっているのだろうか?

 焦れたロウガさんが何度か二人を呼んだところで、穴から細い糸が垂れてくる。

 そして――。


「よいしょっと!」

「おまたせしました」

「おまえら、飛び込んで来ないのかよ!」


 スルスルッと糸を伝って降りてきたクルタさんとニノさん。

 待ちぼうけを食らった形となったロウガさんは、思わず彼女たちに抗議した。

 するとニノさんは冷え冷えとした目をして言う。


「……だって、ロウガって汗臭いですから」

「私もちょっと……ねえ」

「そこでそれ言うか!?」

「まあとにかく、急ぎましょう! 魔力が外に出たのはこの先です!」


 俺がそう告げたところで、得体の知れない悍ましい咆哮が聞こえてきた。

 さながら、地獄の悪魔が叫んでいるかのようである。

 これは……いったいどんな魔獣が出現したって言うんだ!?

 俺が険しい顔をすると、ロウガさんが愕然とした表情で告げる。


「こりゃ……牡牛だな」

「え? ひょっとして、以前に言ってた緋眼の牡牛ってやつですか?」

「間違いねえ。この耳に障る雄叫びは、間違いなくやつだよ」


 そう言うロウガさんの声は、ひどく重々しかった。

 心なしか、その眼の奥には微かな怯えのようなものも見て取れる。

 仮にもベテラン冒険者である彼が、ここまで弱気な様子を見せるのは初めてだった。

 魔族と対峙した時ですら、空元気を出す余裕があったというのに。


「……大丈夫ですか?」

「ちっ、我ながら情けねえよ。ビビっちまうなんて」

「……来る!」


 床に手を当てたニノさんが、切迫した表情で告げた。

 俺もすぐさま魔力探知を再開し、巨大な何かが迫っていることを確認する。


「グオオオオオオォッ!!!!」


 やがて姿を現したのは、緋色の眼をした巨大なミノタウロスであった。

 なんだ、この異様な存在感は……!!

 これまで対峙した大型の魔物と比べると、体躯はさほど大きくはない。

 俺たちの背丈の二倍といったところであろうか。

 しかしその身体からは、まるでこの世のものではないかのような気配が感じられる。


「……何だか、嫌な気配がするね」

「ええ。こいつ、ただの魔物じゃないですよ!」


 俺がそう告げた瞬間、ミノタウロスは高々と斧を振り上げた。

 鉄塊とでも称すべき巨大な斧が、驚くほどの速さで迫ってくる。

 俺はとっさにそれを剣で受け止めようとしたが――。


「ぐっ!?」

「ジーク!?」


 奇妙だった。

 剣で受け止めたはずの斧が、俺の腹を薙ぎ払った。

 とっさに飛びのいて威力を殺したが、凄まじい衝撃に嗚咽が漏れる。

 くそ、なんでだ!?

 間違いなく受け止めたはずなのに、抜けてくるなんて!!


「こいつ、やっぱり普通じゃない……!!」

「あの時と同じだ。こうやってわけもわからねえまま、俺たちもやられた」

「ボクたちで少し時間を稼ごう。その間に、ジークはあいつのことを調べて!」

「わかりました。でも、大丈夫ですか?」


 俺の問いかけに、クルタさんは少し怒ったような顔をした。

 そして、自らの胸を叩いて言う。


「これでもAランクだよ、少しぐらいは持たせるって!」

「お姉さま、私もお供します」

「うん! 二人であいつを食い止めるよ!」


 互いにアイコンタクトを取りながら、見事な連携を見せるクルタさんとニノさん。

 二人はお互いの位置を素早く入れ替えながら、ミノタウロスの巨体を翻弄する。

 素早さに自信のあるペアだからこそできる技だ。

 

「はっ!」

「それっ!」


 ミノタウロスを挟んで、両側に陣取ったクルタさんとニノさん。

 それぞれの手から、短剣と手裏剣が放たれた。

 狙うはミノタウロスの顔、それも生物にとって最大の弱点である目。

 その軌道は正確で、避けられないかのように見えたのだが――。


「抜けた?」


 それは、本当にわずかな間の出来事だった。

 精神を張り詰めていなければ、気づかないほどの刹那の間。

 その間に、ミノタウロスの身体を短剣と手裏剣がすり抜けたように見えた。

 直後、ニノさんとクルタさんにお互いの武器が降り注ぐ。


「くっ!!」

「あたっ!!」


 とっさに身を守り、最悪の事態は免れた二人。

 どうやらこいつ、自在に消えたり現れたりできるらしい。

 それもほんの一瞬、冷静に観察していなければ気づかないぐらいの時間で。

 こりゃ恐ろしく厄介な能力だぞ……!!


「ロウガさん、今の見えました?」

「いや……。よくわからねえ、何が起きたんだ」

「一瞬だけ、あいつの実体が消えたんですよ」

「そりゃまた面倒な……。どうやって倒す?」

「とりあえず、どの程度まで実体が消えてるのか確認してみないと」


 煙のような状態になっているだけならば、いくらでも対処の方法はある。

 しかし、完全に姿形をなくせるような能力だと……。

 俺が思案していると、不意に声が聞こえてくる。


「そいつはアタシの獲物だよ! どきな!!」


 威勢のいい掛け声とともに現れたのは、誰あろうラーナさんであった。


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