十二話 報酬
「まさか地下水路でそんなことが……」
その日の夕方、冒険者ギルドにて。
俺たち四人から報告を受けた受付嬢さんは、たちまち顔を青くした。
なにせ、街の地下に災害級のモンスターが現れたわけだからな。
そりゃ顔色も悪くなるだろう。
「少し、待っていただいていいですか? ことがことなので、ここでは対応しかねます」
周囲の様子をうかがいながら、小声で告げる受付嬢さん。
迂闊に情報が洩れたら、パニックになりかねないからね。
別室での対応になるのも当然だろう。
「ひとまず、応接室でお待ちいただけますか? 場所は分かりますよね?」
「俺が知ってるから大丈夫だ」
「では、私はマスターを呼んできますので」
お辞儀をすると、すぐさま小走りでカウンターの奥に向かう受付嬢さん。
一方の俺たちは、ロウガさんの案内で応接室へと向かった。
何でも、彼は以前に依頼人さんとのやり取りでこの部屋を使用したことがあるらしい。
「ふぅ……やっと座れた」
「ほとんど休憩なしでしたからね。さすがに疲労しました」
ソファに深く腰を下ろし、ふーっと息を吐くニノさんとシスターさん。
ドラゴンゾンビの素材を回収した後は、ほぼ歩き通しだったからなぁ。
体力的に余裕のあった俺とロウガさんはともかく、二人にはかなり堪えたことだろう。
「報告を済ませたら、今日は思いっきりいい宿に泊まろうぜ。ギルドから情報提供の謝礼がたんまりもらえるはずだ」
「そんなにですか?」
「ああ、百万は固いな。全員で割っても、一人当たり二十万以上にはなる」
おおぉ……!
それは結構大きな収入だな!
折れてしまった剣を買いなおすのに使えそうだ。
「やった、儲かった!」
「ジークさんの場合、それに加えてドラゴンの素材がありますからね。売れば一千万にはなると思いますよ」
「すごい! みんなで割っても、二百五十万!?」
「……いや、俺は遠慮しておこう」
「私は依頼人ですので、そもそも頭数に入れていただかなくて大丈夫ですよ」
自ら売却益の受け取りを辞退するロウガさんとシスターさん。
確かに、二人はほとんど戦いには参加していなかったけれど……。
これだけの大金をあっさりと諦めるなんて、なかなかに潔い。
「わかりました。じゃあ、ロウガさんは今度一緒になった時は分け前に色を付けるということで。シスターさんの方は、そうですねぇ。何か困ったことがあったら相談に乗るということで」
「おう、それでいいぜ」
「私もそれで問題ないです。よろしくお願いします」
そう言うと、二人は揃っていい笑顔をした。
ぜひ今後とも、仲良くしていきたいものである。
「私も九対一でかまいません」
「いいんですか? ニノさん、かなり貢献してくれましたけど……」
「敵の気をそらしただけで、ほぼすべてあなた一人で戦っていました。十分妥当な数字です」
それでいいというなら、俺はもちろん構わないのだけど……。
あとで返してほしいとか言われると、ちょっと困るんだよな。
「煮え切らない顔をしていますね。まさか、私が後でごねるとでも?」
「…………ま、まあ」
「安心してください。あなたにそんなみっともない真似をして、お姉さまに伝わったら困りますから。それにこれでもBランクですので、お金には不自由していません」
あー、言われてみればそうか。
Bランク冒険者ともなれば、浪費家でない限りは余裕があるだろう。
掲示板でちょくちょくBランク以上の依頼も見るが、どれも報酬は軽く十万以上だもんなぁ。
「待たせてしまったな!」
話をしているうちに、ギルドマスターと受付嬢さんがやってきた。
俺たちはすぐさま立ち上がると、マスターに向かって頭を下げる。
「ああ、別に気にしなくていいぞ。それで、さっそくなのだが……地下水路にドラゴンゾンビが出たというのは間違いないんだな?」
「もちろんです。証拠もあります」
俺はマジックバッグを取り出すと、中からドラゴンの牙を取り出した。
その大きさと迫力に、たちまちマスターたちの顔が強張る。
「信じていないわけではなかったが……実際に見ると恐ろしいものだな」
「ええ。しかもこのドラゴンゾンビを、操っている者がいたようなんです」
「詳しく説明してくれ。それが本当だとするなら、大変な事態だ」
「俺たちも、確証があるわけではないんですが――」
地下水路で起きたことを、順に説明していく。
話が進むごとに、マスターの眉間にできた皴が深まっていった。
「なるほど、事情はだいたいわかった。ルメリア君、至急、調査隊の手配をしてくれ。条件はAランク以上だ」
「かしこまりました」
「ついでに、Sランク冒険者で動ける者がいないか調べておいてくれ」
「承知しました。ですが、あまり期待は……」
少し困ったような顔をする受付嬢さん。
Sランク冒険者の数は、大陸全体でも非常に限られている。
冒険者の聖地であるラージャと言えども、滞在しているとは限らなかった。
それどころか、この国に一人いるかどうかすら怪しい。
「いないようであれば、あの方に連絡を取って構わん」
「いいんですか?」
「冒険者以外に頼るのは望ましくないが、背に腹は代えられんからな」
「それでしたら」
納得したような顔でうなずくと、そのまま部屋を辞す受付嬢さん。
あの方って、いったい誰だろう?
Sランク冒険者に匹敵するほど強い人って、ごくごく限られた人のはずだけども。
この国の将軍とか騎士団長とかだろうか。
「これでひとまずは大丈夫だろう。ただし、くれぐれもこのことは内密にな。情報が洩れたら街でパニックが起きかねない」
「わかっています」
「では、今回の報酬だが……そうだな。このことを口外しないという口止め料も込みで、一人につき百万出そう」
おおお……!!
予想をさらに上回ってきたな。
ドラゴンの分と合わせたら、これでだいたい一千万か。
大台を突破してきた!
「冒険者、すごい。夢がある!」
こうして予想外の大金を手に入れることとなった俺は、噛みしめるようにつぶやくのだった。
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