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第八話 戦いを終えて

「すごい……! こんなのいつの間に覚えたのさ!?」


 魔力の流れを切るなんて、驚くほど高度な技である。

 流石のライザ姉さんでも、一朝一夕に習得できるものとは思えない。

 俺たちが知らない間に、過酷な修行でも積んでいたのだろうか?

 そう思って尋ねると、姉さんは実にあっけらかんとした顔でこう答えた。


「何、寝る時間を少し削っただけだ」

「少しって、どのぐらい?」

「そうだな、ここ最近は……一週間で五時間ほど寝ているな」


 一日ではなく、一週間で五時間?

 それって一日一時間を切ってるじゃないか!

 よくもまあ、それだけの睡眠時間で平然としていられるものだ。

 普通なら倒れているというか、そもそも生きていられるのかすら怪しいと思う。


「いくら何でも修行しすぎです。体壊しますよ?」

「ふ、この私がその程度のことでどうにかなると思うか?」

「……この前、アルカと決着がつかなかったのって。寝不足だったからじゃないんですか?」


 俺にそう言われて、姉さんはビクッと肩を震わせた。

 本当に、嘘をつくのが下手な人である。

 彼女はひどく不器用な笑みを浮かべながら、首をぶんぶんと横に振る。


「そ、そんなわけないだろう! 剣聖たる者が寝不足で全力を出せないなどありえん!」

「本当にそうですか……?」

「それより、ノアもこの技を覚えないか? 何かと役に立つだろう」


 それとなく話をそらしてきた姉さん。

 しかし、この技を身に付ければ何かと役立ちそうではある。

 俺の使っている黒剣は魔力を吸収することができるが、魔力の流れを断つことまではできない。

 もしこれが使えれば、戦闘の幅が広くなることは間違いないだろう。

 

「確かに……便利そうですね」

「だろう? 久々に私が稽古をつけてやろう」

「それはありがたいですけど、姉さん……ちゃんと教えられますか?」

「ん?」

「だって、かなり高度な技ですよね? いつもみたいに『グッとしてガッだ!』とか言われても」


 姉さんの訓練は、いつもこうなのである。

 擬音語がやたら多くて、何をすればいいのか結局よく分からないんだよな……。

 そのせいでどうにも捗らないのだが、それを言うと怒りだすし。

 感覚派の天才ゆえなのだろうけれど、正直困ったものなのである。

 すると困り顔をした俺を見て、姉さんはムッと頬を膨らませる。


「仕方ないだろう、そうとしか例えようがないのだから!」

「いや、姉さんが例え下手なだけですって!」

「何だと!? 剣聖であるこの姉に向かってケチをつけるのか!?」

「そうじゃないけど……」

「まあまあ、二人とも落ち着け! それはあとにして、先に考えないといけないことがあるだろ」


 そういうと、彼は床に転がっていた魔石を拾い上げた。

 燃えるように紅く輝くそれは、赤子の頭ほどの大きさがあった。

 その内側では強い魔力が渦を巻き、オーラのようなものを放っている。


「いま倒したモンスターは、間違いなくAランク以上だ。これを商会やギルドにどうやって報告する?」

「……その魔石を、こっそり持っておくというのは?」


 あまり良くないことだと自覚はあるのか、小声で尋ねるニノさん。

 するとロウガさんは、ダメだと首を横に振る。


「迷宮に変化が起きてるんだ。これを報告しないわけにも行かないだろう。後から入るパーティが危険にさらされることにもなるしな」

「ですよね……」

「だが、これを報告すると間違いなく目立つな」


 腕組みをして、渋い顔をするライザ姉さん。

 確かに、こんな報告をしたら俺たちは間違いなく注目の的となるだろう。

 アエリア姉さんに見つけてくれと言っているようなものである。

 この街に滞在する以上、そのうち見つかるのは時間の問題だろうけれど……。

 流石に、初日のうちに騒ぎを起こすのは避けたいところだ。


「どうしよ。放置するわけにも行かないとなると……」

「誰かに代理を頼むとかですかね?」

「あー、そうすればいいか」


 俺の提案に、ロウガさんはポンと手をついた。

 俺たちの知り合いで、こんなことを頼める人というと……当然ながらあの人しかいないだろう。

 その顔を思い浮かべたのか、ロウガさんは露骨に渋い顔をする。


「……仕方ねえな。俺が頭を下げるか」

「お願いします。たぶん、ロウガさんしか無理なので」

「あとで一杯奢れよ」


 そういうと、ロウガさんは魔石を懐へとしまい込んだ。

 それにタイミングを合わせたかのように、広場の床がぼんやりと輝き始める。

 やがて光が交錯し、大きな魔法陣が姿を現した。

 そしてその上に揺らめく光の輪のようなものが現れる。

 どうやらこれが、ボスを倒した後に出現するという転移門らしい。

 

「これで外に出られる。で、次に来るときはこの下の階層からスタートだ」

「この場所にはつながらないんですか?」

「ああ。そうなっている」


 なるほど、実に便利なものである。

 シエル姉さんあたりが見たら喜びそうだな……。

 どうにか、構造の解析とかできないものだろうか。

 興味を持った俺が魔力探知をしようとすると、ここでまたしても妙な反応が引っかかる。


「ん? なんだ……?」

「どうした?」

「いえ、また妙な魔力がこの床の下を通っていったような……」

「転移門の影響じゃねえか?」

「んー、そうですよね」


 再び魔力探知をするものの、今度は妙な反応など全くなかった。

 やはり、転移門の展開に際して一時的に魔力が流れていただけだろう。

 俺はそう結論付けると、ロウガさんの後に続いてゆっくりと転移門をくぐった。

 たちまち景色が歪み、独特の浮遊感が襲ってくる。

 そして――。


「よし、ついたな」


 気が付けば、俺たちは七番迷宮の入り口である祠の前に立っていた。

 本当に一瞬の出来事である。

 さて、夜が更けてくる前に早いとこあの人に合わないとな。

 俺がそっと目を向けると、ロウガさんはやれやれと頭を掻いて言う。


「……ったく。俺がラーナにまた頭下げるなんて、思いもよらなかったぜ」


 こうして俺たちは、ラーナさんがいるであろう商会の酒場を目指すのだった。

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