第三章最終話 迷宮攻略に向けて
「カンパーイ!!」
事件の翌日、俺たちはギルドの酒場で宴を行っていた。
まだまだ予断を許さない状況とは言え、魔族の侵攻をひとまず防いだのである。
魔界への荷物の運搬も一応はできたことであるし、骨休めも必要だった。
「費用はギルドで出しますから、今日は遠慮せずに騒いでくださいね!」
「おお、太っ腹じゃねえか! マスターも気が利くなぁ!」
受付嬢さんの言葉を聞いて、ここぞとばかりにがっつくロウガさん。
エールを呷り、骨付き肉を豪快にかじる姿は山賊か何かのようである。
そのあまりお行儀のよくない姿を見かねて、ニノさんはそっとハンカチを差し出す。
「口元、汚れてますよ」
「おおう、すまんすまん!」
「タダだからって、そんなに一気に食べるからです。下品ですよ」
「そう堅いこと言うなって。野郎なんてこんなもんだろ」
エールを片手に、思い切り笑うロウガさん。
ニノさんの言うことももっともだけれど、今ぐらいは羽目を外してもいいだろう。
ロウガさんの場合、一年中こんな調子のような気もするけれど。
「あのウェインって冒険者は来ないんだね」
「反省すべき点が多かったとか言っていたからな。顔を出しづらいのだろう」
「マスターに報告に行った時も、居づらそうな顔してたからなぁ」
「いい薬になったんじゃないか。あれで意外と筋は悪くないから、反省すれば伸びるかもしれん」
そう言うと、エールをトクトクと飲むライザ姉さん。
依頼中はあれこれと不満を言っていたが、意外とウェインさんに対する評価は悪くないらしい。
まだ二十歳過ぎだし、態度を改めれば伸びしろはあると言うことなのだろう。
根っからの悪人というよりは、調子に乗っちゃってるって感じだったからね。
「それより、私としてはファムがやけに素直に帰っていったのが気になるな」
「あー……。ライザ姉さんみたいに、戦えとか言いませんでしたもんね」
「む、その言い方では私が脳筋みたいではないか」
ムッとした表情をする姉さん。
俺は実際そうじゃないかと言いたくなったが、どうにかこうにか堪えた。
そんなこと言ったら、拳骨ぐらいじゃ済まないからな……!
姉さん、脳筋とか思われるのを凄く気にしているようだからね。
「……ま、迷宮攻略となると戦うより厄介かもしれないがな」
「ロウガさん、迷宮に潜ったことがあるんですか?」
「ああ、昔の話だけどな。一攫千金を狙ったんだが、うまく行かなくてなぁ」
「僕は迷宮はちょっと苦手かな、暗いしじめじめしてるし」
あまりいい思い出がないのか、ちょっぴり嫌そうな顔をするクルタさん。
それに同意するように、ニノさんもまた渋い顔をした。
高位の冒険者である彼らが、揃いも揃ってこの反応である。
迷宮というのは、なかなかに厄介な場所であるようだ。
「そう言われると、ちょっと怖くなってきましたね」
「潜る場所の難易度にもよるが、俺たちならどうにかなるとは思うがな」
「ちなみに、その迷宮ってのはどこにあるんだい?」
「ここから北東にある、ヴェルヘンって街ですね」
「おお、迷宮都市じゃねーか! 探索者たちの聖地だな!」
かなり有名な場所なのか、興奮した様子のロウガさん。
探索者たちの聖地……か。
このラージャと似たような雰囲気なのだろうか?
というか、探索者って単語は初めて聞くな。
「探索者って、冒険者とは違うんですか?」
「ああ、迷宮探索を専門にしてる冒険者を探索者って言うんだよ。資格的には一緒だな」
「実態はだいぶ違うんだけどね。探索者の場合、ギルドよりも商会とのつながりが強いし」
「商会?」
「そ。迷宮の管理をしてる商会があってね。探索者はギルドよりもそっちを利用することが多いかな」
へえ、そんなところがあるのか。
使っている組織からして別となると、探索者には独自のルールとか結構ありそうだな。
気を付けていないと、知らないうちにルール違反をしてしまったら大変だ。
「ひとまず、商会に利用登録をして初心者用の迷宮ぐらいから始めるべきだな」
「迷宮都市なら、ラージャからも定期便が出てるよ。次の便は、えーっと三日後だったっけ」
「ならば、さっそく移動するべきだな。ところで……」
急に、何やら深刻な顔をしたライザ姉さん。
いったい何を言うつもりなのだろう?
何とはなしに嫌な予感がした。
「その商会というのは、正式な名前を何というのだ?」
「え? 確か……フィオーレ商会だったかな」
「やはり……」
「げっ! フィオーレ商会!?」
揃って顔色を悪くする俺とライザ姉さん。
フィオーレと言えば、アエリア姉さんが会頭を務める商会である。
最近では急速な多角化を推し進めて、数えきれないほどの事業をしているという話だったけれど……。
迷宮の管理なんてところにまで進出していたのか。
「どうかしたの? 急に変な顔しちゃって」
「いや……フィオーレの会頭とはちょっとした縁が有って。びっくりしたんです」
「そうなんだ。最近、商会の勢いは凄いらしいよ。探索者の知り合いから聞いたんだけど、人気のない迷宮の権利をギルドから買い取ったとか。都市の運営も牛耳ってるらしいし」
言われてみれば、そんな話をアエリア姉さんから聞いた覚えがあるな……。
モンスターの乱獲で採算性が悪化した迷宮を、きちんと資源管理をして再生させるとかどうとか。
あの時は聞き流しちゃっていたけれど、思わぬところで関わってきたものだ。
「……ひょっとすると、これがあるからファムはあっさりと引き下がったのかもな」
そっと耳打ちをしてきたライザ姉さん。
その可能性は十分にあるなぁ……。
アエリア姉さんの息が掛かった場所なら、こちらの監視とかもしやすいだろう。
それに迷宮探索となれば、拠点となる場所からしばらくは動けない。
ということは……。
「次は、アエリア姉さんと会うことになるかもしれませんね。迷宮都市で」
「恐らくは来るだろうな」
深々と頷くライザ姉さん。
どうやら俺たちの前に、いよいよ家長であるアエリア姉さんが立ちはだかるようだった――!
いよいよ三章も最終話、次回からはアエリア編です!
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